35 箱庭師たちは新しい人材確保に動き回る(上)
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――ロキシーside――
梟の羽には闇商売をしている奴らから、男を信じて実家から飛び出したものの、失恋で行く当てもなく身売りする女、家が没落した貴族の娘の慣れの果てまで幅広く存在する。
貴族の娘ならば男爵から伯爵家まで幅広くいるし、彼女たちはその日暮らしのように客を取って仕事をする。
働き口が無ければ身売りをするのが女の最後の砦だった。
それも、いつの日からか人数が減っていったけれど、どこかに身請けされていったのだろう。
残ってる奴らは見目麗しいとはいかなくとも、器量もソコソコ、困難に負けない覚悟は十分すぎる程にある奴らだった。
この国に女でも出来る仕事が男と同じくらいの数あれば、冒険者になれず、闇でうごめく女性たちも少なかったかもしれないねぇ。
梟の羽に向かい、集まっている女たちを見ると人数はまた随分と減っているように見える。
前は20人単位でいたのが、今集まっているのはたったの6人。
アタシは彼女たちへと歩み寄ると、一人がアタシに気が付き椅子から立ち上がった。
「ロキシー姉さん!」
「久しぶりだね、エルザ。他の奴らも元気そうで何よりだよ」
他の面子も顔を上げて久しぶりに元気にしている様子を見てホッとする。
「実はアンタたちに話があってきたんだけど、マスター、小部屋を借りることは可能かい?」
「内緒話かい?」
「女子会だよ、久しぶりのね」
「ハハ! 平和なこった。右の個室を使いな」
マスターに銀貨10枚を渡して個室へと向かうと、カイルは何事も無いようにアタシに付いて来てドアを閉めた。
集められた6人の娘たちは一様にカイルの事を気にしている。
「すまないね。この男はアタシの雇い主。道具店サルビアのオーナーさ」
「初めまして。道具店サルビアのオーナー、カイルと申します」
「んで、今度このサルビアで新しい事業を立ち上げることになったんだけど、アタシがそこのオーナーでね。出来ればアンタたちを面接して雇いたいと思ってきたのさ」
「ロキシー姉さんが新しい事業のオーナーになったんですか!」
「凄いです!」
盛り上がる女たちに手を挙げて落ち着くように指示を出すと、女たちは各自椅子に着いた。
「アタシが探している雇いたい人間ってのが、『書類整理が出来る者』『接客相手が貴族であっても出来る者』『指先が器用な者』『品出し等の細かな作業が出来る者』なんだけど、我こそはと言う奴は手を上げな」
「はい」
「どうぞ、エルザ」
「私は元伯爵家の出です。貴族様のお相手は出来ると思います」
「エルザは確か、没落貴族でありながらも、身売りすることなくその日に出来る仕事をコツコツとやってきた経験があったねぇ。それなら貴族相手も難なくこなせるだろう」
「有難うございます」
一人目はまずはエルザ。
この子は賢いから貴族相手には持って来いだろう。
「はい」
「どうぞ、メル」
「私は家の書類整理や計算をしてきました。そちらの知識はあります。是非雇って欲しいです」
「確か潰れた商家の娘だったね」
「はい。父が商売に失敗して一家離散しました」
「計算に強い、書類に強い奴も大歓迎だよ」
「有難うございます!」
メルは文字も綺麗だ。
会計を纏める際にカイルとライトの苦労が少しは減ってくれることを祈る。
その後も全員が自分の長所を上げ、品出しや手先の器用さ等も話してくれた。
没落貴族の女の子が三人、商家の娘が一人、残り二人はどうしたものかと考えていると、カイルの方から手が上がった。
「皆さん、宜しいでしょうか」
「「「はい」」」
「あなた方を雇う際、神殿契約を結ばせて頂いても宜しいでしょうか? 経費はコチラからお出しします。なにぶん目新しい商売ですので、秘密漏洩だけは避けたいのです」
――神殿契約、と聞いて、女の子たちはザワリと声が上がった。
それも仕方ないだろう。
この世界の神殿契約とは魂の契約であり、契約を破った場合、激痛に加え命の半分を持っていかれると言われている。
確かに神殿契約をすれば、破ろうと言う気にはなれないだろう。
「出来ない方は雇う事は出来ません」
「私は神殿契約をしても構いません。やましい事は何一つないのですから」
最初の声を上げたのはやはりエルザだった。
次にメル、他の娘たちも覚悟を決めたのか神殿契約を結ぶことを決めたようだ。
商売上、守秘義務と言う物はどうしても存在する。
魔法契約では足りないと思った場合は神殿契約だが、カイルのリディアを守りたい気持ちを強く感じ、甘い酒を飲んでいるような気分になった。
「それじゃあ、エルザ、ナナリエ、マルローネの三人は貴族専門でやって貰うけれど、貴族からの予約が無い場合は普通の方にも回って貰うよ」
「「「はい」」」
「メルは会計と書類全般任せられるかい?」
「お任せください」
「ナンシーとソフィー姉妹も良いね?」
「私たちは雑用でもなんでもやります」
「定期収入があるだけで全然違いますから」
「メルを省く全員にはマニキュアの講習を受けて貰うのも良いね?」
「「「「はい」」」」
取り敢えずは6人全員が雇えそうだと判断し、ホッと息を吐いたその時だった。
部屋のドアをノックする音が聞こえ、アタシが立ち上がりドアの前に立つと、奥からトントンとノックする音が5回続く。
5回……と言うのは、アタシたちのが個室を使う際に使う合図の音だ。
ドアを開けると、一人は女性、もう一人は男性が入ってきた。
「おやまぁ、久しぶりだねアンタたちも」
「お久しぶりね、ロキシーお姉さん」
「ダルメシアンも久しぶり」
「ああ、久しぶりだな、ロキシー」
入ってきた二人はアタシが元居た紅蓮の華に新しく入った冒険者の二人だった。
二人は今の紅蓮の華と折り合いが悪いらしく、度々愚痴りに来ていたのだ。
「ロキシー、その二人は?」
「ああ、今の紅蓮の華に新しく入っている冒険者のナルタニアとダルメシアンだよ。よく愚痴を零しにやってきてたのさ」
ナルタニアはアタシの代わりに入った前衛で、ダルメシアンとは昔からセットで活動していた冒険者だ。
ダルメシアンはアイテム持ちの一人で、戦う力は少ないが、それでも個人でCランク冒険者と同じ力はあり、何より素早く動くことでアイテムを効率的に拾ってくれるらしい。
「女子会があるなら早く来ればよかったわ。あっちの飲み会は最悪……ダルメシアンを酷く言うの……もう抜けたいわ」
「抜けるのでしたら、護衛として雇いましょうか?」
「「え??」」
アタシの援護もなしにカイルは直ぐに反応して勧誘した。
冒険者の勘が働いたんだろう。この二人は今の紅蓮の華でやっていくには心根が優しすぎた。
「いえ、ロキシーだけに護衛をさせるのも問題があると思っていたので。お二人の都合が良ければお店で軽い仕事をして貰いながら護衛として雇うのもありかと」
「どういう事? ロキシー姉さん」
「じゃ、説明をしようかね」
こうして、アタシは最初から説明を始めた。
すると――。
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何処の職場も人材確保は大変。
特に人材が育つまでが大変なんですよね。
私も苦労しましたが、良い経験をしたと諸々呑み込んで思います。
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ボチボチ頑張っていきますので
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