207 リディア、本気で叩きのめしに向かう。(中)
お越しくださり有難う御座います。
本日二回目の更新です。
ファビーの日帰り温泉。
これこそが一番売り込みたい場所であり、最も価値があるものですわ!
「ファビーの箱庭には、三つの温泉宿がありますわ。温泉には軽い傷ならば治す程の治癒力もあり、疲労回復効果は抜群でダンノージュ侯爵領では、現在この温泉を庶民や冒険者に安い値段で入れるようにしておりますの。とても人気が高いんですのよ」
「軽い治癒力がある疲労回復効果の温泉か!」
「おとぎ話の世界ではないか!」
「ですが事実ですので、是非足湯だけでもこの後して頂ければと思いますわ。それだけでも体感することは可能でしょう。では、奥へご案内致します」
そう言うとわたくしとファビーが前に出て歩き出し、橋を渡ると温泉宿の前に到着し、一つ一つの靴箱の説明や、靴を皆さんが脱いでから、休憩所の方へと案内しましたわ。
広い空間の半分を炬燵にし、中にはオイルヒーターを炊いている為程よく温かく、広い畳の室内の半分には、折り畳みマットレスとほっかりシリーズのシーツや掛布団。
枕は低反発と高反発が選べるように並べてありますわ。
「此方が休憩所となっております。今は半分を炬燵にし、もう半分をここで寝て休む為用の仕様にしていますが、是非体感して頂ければと思いますわ」
「床に座って、この炬燵と言う物に入るのか」
「ええ、庶民にも冒険者にも喜ばれている一品ですわ。無論此方もファビーの温泉を借りる際に付属品としてついてくるものです」
「「「「「おお……」」」」」
そう言うとまずはオイルヒーターをチェックする方や、折り畳みマットレスでの寝心地を確かめる方や、陛下は炬燵に入ってのんびりしてらっしゃいますわね。
「これは冬の行軍中に交代で休むには丁度いいですな!!」
「ええ、実に良いものです!!」
「出来れば魔物討伐隊に欲しいですよ」
「魔物討伐隊は行軍ばかりだからな」
「それにゆうに100人は入れる場所ではないか。これは凄い!」
「しかしこれは温かい……」
「折り畳みマットレスと聞いていたが、実に寝心地が良かった。地面で寝るのとは大違いになる上に、魔物との戦いでは寒さで萎縮した筋肉で身体を傷めず倒すことが出来ますよ!」
ええ、とても好評ね。
でも驚くのはまだ早いですわよ?
「では、庭をご覧くださいませ」
そう言うと皆さんは立ち上がり、庭の中心部に行くと、移動用のコンロ12台と、休憩所になっている場所にある温熱ヒーターに目を丸くしていますわね?
「ここでは軽い炊き出しが可能となります。移動用コンロは増やそうと思えばもう少し増やせますが、今回は12台だけ用意していますわ。また、室内にも見ての通り、ウォーターサーバーと言う物を設置しているので、何時でも冷たい水でも温かいお湯でも水の魔石があれば飲むことは可能です。無論、キーパージャグを置けば温かい紅茶を飲みながら休憩することも可能でしょう。食事が行軍では問題だと聞いていた為、少しでもお力になれればと思い、用意しましたわ」
「こちらも、ファビー殿を借りれば……」
「ファビーの付属品ですわね」
「「「「「おおおおおおおおおお」」」」」
「では最後に温泉へとご案内しますわ」
こうして、最後に温泉へと皆さんを連れて行くと、脱衣所に驚かれていましたが仕方のない事ですわよね。
そして、温泉への入り口の引き戸を開けると――皆さんが息を呑んだのが分かりましたわ。
「こちらが、ファビーの日帰り温泉宿の魅力ですわ。身体を洗うスペースにはボディーソープやシャンプーもありますし、温泉に入れば疲労回復効果の高い温泉ですので疲れもあっという間に飛ぶでしょう。どうぞ、足湯をして頂いて結構ですわ」
そう言うと、隊長たちは靴を脱いで足湯だけをすると、自分たちの身体に感じているのか、疲労が抜けていくのを感じて「何なんだこの温泉は……」と驚いていらっしゃいますわね。
「そんなに違うのかね、隊長たちよ」
「はい! 全く違います!」
「日頃の疲れが一気に抜けていくような……そんな気がします」
「なんと気持ちの良い事か……」
「この温泉に入り、暖かな部屋でゆっくり身体を休め、交代で寝る際には折り畳みマットレスで寝ることが出来れば、行軍はあっという間に終わるのではないでしょうか? 食事も温かいもので簡単なものでしたら作れる方もいらっしゃるでしょうし、隊員に携帯食ではなく、温かい食事を与えることも出来ますわよね? それは、全体の士気に関わる事ではないでしょうか」
「リディア様、実にその通りです」
「また、怪我をした者たちを此処に連れて来て治療も出来るとなると、安心感が違います」
「冬は寒さで体の筋肉が萎縮し、動きが鈍くなるのですが、温泉に入って体をほぐし、疲労回復も出来るとなると……これは革命ですぞ陛下!」
盛り上がる隊長様たちには悪いですけれど――ここらで夢から覚めて頂きましょうか。
「だが、ファビー殿も貸し出しなのだろう?」
「ええ、ファビーが一番高価ですわ。冬の行軍と夏の行軍の二回だけでしたらお貸しいたします。何せたった一人しかいませんものね? これ程の箱庭を持つ箱庭師などいらっしゃらないでしょう? わたくしの箱庭でも此処まで素晴らしい箱庭は無理ですわ」
「私はリディア姉……様の箱庭の温泉が大好きで、自分が箱庭師と分かった時にリディア様の温泉を多くの方々に知って欲しいと思いました。その想いが大きくなりすぎて、素晴らしい箱庭を持つことが出来ました。箱庭の事はリディア様の箱庭しか知らず過ごしていた為、広さなどはリディア様基準になっているのだと思います」
「その様な理由があったのか……」
「箱庭師とは移動用の家、と言う概念が崩れますな」
「では質問ですが、箱庭師と言われたばかりの者をリディア嬢やファビー嬢に預けた場合、この様な温泉が出来ると考えても不思議ではないと言うことだろうか?」
「それは分かりかねます。箱庭師は自由な発想と自由な創造により作れる物が違うのだと思うのです。無理に作らせようとしても、出来るモノではないでしょう」
「なるほど……」
「近しい所までは作れても、ファビーの温泉をそのまま作る事は不可能でしょうね」
「分かった。確かにこれは高価なものだ。今までの概念を全て覆すほどの、ファビー殿の価値とはとても高いのが分かった」
「ましてや、テントといいその他の備品と言い、全てがマルシャン公爵家の物とは比べ物にならぬほどの物でしたぞ」
「有難うございます」
「陛下、マルシャン公爵よりも、我が騎士団はダンノージュ侯爵家を推したい」
「魔物討伐隊もです。ダンノージュ侯爵家の持ってきた全てが素晴らしい」
「軍部大臣としても、是非年二回の行軍にファビー殿をお借りしたいと思っている。値段は如何ほどか?」
「ファビーを含む一カ月の貸し出しで、テントやその他備品も考えれば……マルシャン公爵家よりは三割安い値段での貸し出しは可能です」
「となると……一カ月で金貨200枚と言ったところか」
「それでこれだけの快適を貰え、士気も低下しないのであれば安いものですぞ」
「しかも三割も安いとなると、その分、兵士たちに充分な食事を出すための資金も出せますぞ」
「無論、備品を壊された場合は、別途料金は発生しますのでご注意くださいませ」
「それは分かっているとも」
「では、決まりかな? 御三方」
「決まりです。我々三つの部隊は、ダンノージュ侯爵家の商品を選びます」
その一言に、心でガッツポーズを作ると三人は温泉から出て足をフォルが差し出したタオルで拭き、靴を履くと箱庭の外に出ましたわ。
そこでは不安に揺れるナスタの姿がありましたけれど、知った事ではありませんわね。
「今回のダンノージュ侯爵家の申し出は、行軍の全てが変わる程の革命と言えると言う判断となった。それにより、王家は今後ダンノージュ侯爵家との取引をする。マルシャン公爵家との契約は解除となる」
「なっ!! お待ちください! 我がマルシャン公爵家は長年テントを作ってきた自負があります!」
「そのテント以上の品を見せられては、しかもマルシャン公爵家に払っている料金の三割も安くなると言うのであれば、王家としても軍部としてもダンノージュ侯爵家との契約を結ぶのが得なのだよ」
「でしたらテントの値段を安くします!」
そうは言っても、既に遅い事。
この戦、勝たせて頂きますわよ?
「あら、マルシャン公爵家では精一杯安くしてでもテントを作っていたのでしょう? これ以上安くすれば大変になるのでは?」
「そうだとも、マルシャン公爵は言ったな? 資源が足りなくなりつつあり、テントの値段が上がっているのだと。それは嘘であったのか?」
「それは、ちが……あの、それは」
「もうよい。王家は今後、ダンノージュ侯爵家にあらゆる行軍に必要な物を頼むことにした。マルシャン公爵家とは、縁を切らせてもらう」
陛下の言葉に力なく足から崩れ落ちたナスタに、わたくしは心の中で『勝ち戦!!』と叫ぶとカイルと微笑み合った。
すると――。
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ファビーの温泉は強い。
これで動かない訳はないですもんね!!
勝ち戦でも本気で挑むリディアの行動は称賛です('ω')ノ




