104 王太子領となった属国の、没落貴族問題。
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――カイルside――
「属国領って言われてるけど、ナカース王国の話し合いで王太子領に今後変わるから、カイルの好きなように商売はして良いぞ」
「あ、そうなんですね」
今日の朝から城へ向かうと、ナジュ王太子から一番の懸念だった問題について開口一番に伝えられた。王太子領ならば、王太子が王となっても暫くはナジュ王太子が纏め上げるだろうから安心……だろうか。
「それより、貴族が群れを成してやってくるから面倒くさくてさー」
「没落寸前の貴族が群れを成して王太子に会っては懇願してくるのだ。だが、領地運営もまともに出来ない貴族を受け入れる筋合いはないと言えば押し黙る。それでも助けて欲しいと……全く、前の王政時代では好き勝手やっていたようだな」
「しかも、没落貴族は一気に増えて商業ギルドでは対応でパンクしそうになっているという連絡もくるし、この際纏めて雇えるだけの事業でも出来ないかと考えてはいるんだけど、中々無いんだよなぁ」
どうやらナジュ王太子にカリヌさんは貴族問題に頭を抱えている様子だ。
ふむふむ……ここは一つ、恩を売っておいた方が良さそうだ。
「その雇用問題ですが、リディアと話し合いの結果、二つの工場を買い取って、大量に元貴族であっても雇うプランを考えているんですが」
「「おおおおお」」
「王太子領で、そこまで好き勝手して良いものかと、少々悩みましてね」
「是非! 是非やってくれカイル! 俺達じゃいい案は浮かばないし手一杯なんだよ!」
「俺からも頼む。貴族問題だけでも面倒くさいのに、没落貴族問題までやってきたら手が回らない」
「では、貸し一つと言う事で。案としてはお話した方が宜しいでしょうか?」
「一通りは頼む」
「では、」
そう言うと、ダンノージュ侯爵領の宿屋との提携やダンノージュ侯爵領でもガーゼシリーズを浸透させたい事、そして『ひんやり肌着』や『ほっかり肌着』といった服関係も、当たり前の商品として広く浸透できるように、検品が出来る人間に関してはやる気があれば年齢関係なく雇い、製造に関しては裁縫スキルのある没落貴族を大量に雇う事を話した。
更に、貴族が消えたことでスカスカになっているタウンハウスを雇った人の寮にして、そこから通って貰う事にしようという話し合いも行われた事を告げると、ナジュ王太子とカリヌさんは「なるほど」と口にした。
「確かに、商売が軌道に乗らず潰れた貴族の商売は多い。そういう奴らが持っていた工場は沢山今も残っているし、タウンハウスを寮にするって言う案も斬新だな」
「ええ、職を失った料理人に関してもまとめて雇いたいのですが、まずは明日次第と言ったところです」
「ってことは、余りに余った料理人たちも?」
「ええ、何とかなるかもしれません」
「ハウスキーパーはどうする」
「ハウスキーパーは寮母と言う事で数名雇おうと思っています。実はダンノージュ侯爵領にも寮があるんですが、そちらでも雇いたい人材ですので」
「なるほど、雇用問題はある程度解決しそうだな」
「それでも、使い物にならない貴族は捨て置きますけれどね」
「まぁ、カイルもそこまでいい奴じゃないだろうからなぁ」
「ええ、偽善はしますし守る為には努力を惜しみませんが、守るに値しない者に関しては」
そこまで語ると、「もう暫くするとダンノージュ侯爵家が解決してくれそうだな」と笑顔でナジュ王太子に言われたが、カリヌさんから「没落寸前貴族問題は終わってないぞ」と釘を刺されていた。
没落貴族と言えば――。
「ところで、リディアの実家……マルシャン公爵家は」
「ああ、マルシャン公爵家は代替わりして、今は持ち直しているらしいぞ」
「手堅い領地運営で収入も以前より増えていると聞いている」
「そうですか……」
「だが、良い噂もそんなには聞かないな。カイルは特に気を引き締めてリディア嬢を守るように心がけた方が良いだろう」
「分かりました」
懸念材料が増えたな……。
何かしら手を打ってくる前に何とかしたいが、俺も今手一杯な状態だ。
「それでさー。今回カイルと協力している宿屋あるだろう? 流石にほとんどの部屋を今は保護用に使わせて貰ってるから、何とかしてやりたいんだよな」
「保護している中には子供も多いと言って、今は殆ど酒場経営をしていないようなんだ」
「そうなんですか?」
「子供に配慮してくれているんだろう。中々に優しい酒場の店主じゃないか。そこで、今度カイルと酒場の店長とで話し合いをして欲しい」
「と、言いますと」
「保護対象が今後も減るとは言えないし増えるとも言い難い。だから、ダンノージュ侯爵家としてあの酒場を店主ごと雇えないだろうか」
「それは……願っても無い事ですが」
「商売のやり方も相談してきて欲しいと思っている、頼めるか?」
「分かりました」
「話は以上だ。酒場で保護されている老人は姥捨て山に捨てられそうになっていた老人達で総勢10人、また、夫の暴力で保護された者が6人で子供は内1人だ。頼めるか?」
「分かりました、保護した後、酒場の主人と話し合いの場を設けたいと思います」
「頼んだぞ」
こうして城での仕事が終わった俺は急いで協力してくれている酒場へと向かった。
俺が走っていくのが見えたのか、イルノが「店長?」と困惑気味だったが、酒場へと入ると人気が全く無くなっていた。
確かに冒険者達は酒を飲み喧騒が絶えないが、それでもこれでは商売どころではないだろう。暫く来てない内に店主が色々考えてくれた結果だとしても、商売が出来てないのは店主としても悔しいんじゃないか……?
「店主、久しぶりですね」
「おお、カイルか。保護している住人は上にいるぜ。全員呼んできてやろう」
「お願いします。それと全員を保護したのち戻ってきますので、少々お話を」
「ん? 分かった」
そう言うと主人は唯一の上にのぼる階段の前の騎士二人に挨拶すると階段を駆け上がり、20分後にはカリヌさんが言っていた通りの人数が降りてきた。
老人は男女共に10人、女性は6人で子供は乳児が1人。
「神殿契約は」
「全員済ませてあるぞ」
「有難うございます。では皆さんを今から保護させて頂きますが、既に保護された先輩たちが沢山いらっしゃいます。安心して過ごしてください。衣食住は保証します」
元気のない保護された方々を連れて入り口を作り、一人ずつ中へと案内していると、初めて箱庭師の箱庭に入る姿を見た騎士達は驚きを隠せないでいるようだ。
そして全員を保護して事情をリディアに説明すると、乳児を除く全員に『破損部位修復ポーション』が必須であると判断し、後はリディアに任せることにした。
俺はもうひと仕事だ。
そのまま入り口から酒場へと出てくると、静まり返った酒場でコップを磨く店主に歩み寄った。
そして、感謝を告げると同時に、今後の話をしたいと言うと、コップに水を注いで俺にくれた。
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頭の痛い問題が浮上しましたが、ここからバタバタと
また忙しくなっていきます。
カイルたちに休日を与えたいっ
でも、もう少し先になりそうです(;´Д`)




