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平安妖甲伝アシュラ  作者: 龍咲ラムネ
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第6話 いざ世紀末へ!

 今回は白鷹たちが現代(1999年)で大暴れします。お楽しみに!

 私は、道中、酒呑童子しゅてんどうじの館で耳にしたことを全て白鷹はくたか達に話した。新月のため道は暗いが、式神ふたりがどこから取り出したのか松明を持って歩いているので、ある程度は先が見える。


「そうか……虎熊童子とらくまどうじの野郎はアスハの時代に……」


 私が話し終わると白鷹は言った。


「でしたら決まりですね」


 と、つばさ


「決まりって……何が?」

「わたくしたちもアスハ様の時代に向かい、虎熊童子様をこの時代に連れ戻すのです!」


 小町こまちはさも当然だという風に言う。


「え、ちょっと待ってよ。三人とも……来るの?」

「当たり前だ。お前ひとりで虎熊童子を相手にするのは心許ないからな……」


 嬉しいけど、私ってそんなに信用ない? ま、まぁいてくれるのはありがたいかもしれないけど。


「ところでなんだけど……ここから幽世の岩戸までって……近いの?」


 すると翼は直ぐに首を横に振った。


「いいえ、少なくとも丸二日以上はかかることでしょう」

「えぇ!? そ、それじゃあ今夜中には……」

「その心配はありませんよ」


 松明を持った閃光ひかりが答える。


「ご覧下さい」


 木霊こだまが行先を指し示すと、森の中の空き地になったところに五芒星型の線が引かれていた。先は……丁度地面に文様が浮き上がっているような形で存在している。


「俺たちは……この陣の力を借りてここまで転移してきたんだ。そうでもなけりゃ、鬼の力である程度身体が強化できる俺と違い、小町や翼はここまで今日のうちには来れねぇよ」

「そうなんだ……」


 私はそっと五芒星の中に入った。他の三人も、式神ふたりもそれに続く。


「でも便利だね。こんな移動システムが使えるなんて。私の時代でも、ワープ技術はまだ……」

「何を言ってるのか半分くらいは分からなかったが……便利じゃあねぇぜ」

「そうなの?」

「あぁ、まず、那須乃なすの様くらいの術師じゃあないと大江山から都までの道を作ることは出来ない。それに……この術を使った後は、那須乃様は七日間眠り込んで体力を溜めておかなきゃあならない。危急を要する時しか使えない術だな。後は……式神の数を含めないで5人までしか運べなかったりと……色々制約がある」


 白鷹が話している間に、五芒星は光を発し、やがて、周囲の景色が若干変わった気がした。


「ついたぜ」

「え、もう? なんかもっと……光のトンネルを抜けたりとかそういうのをすると思ってた……」

「光のトンネ……なんだそれ?」


 私たちがつくと、足元の五芒星は地面に吸い込まれるように消えていった。どうやら、一往復しか出来ない仕様にもなっているらしい。

 よく見ると、周囲の様子は、私がこの時代に初めて降り立った場所だということを示していた。あの岩も、きちんとそこにある。岩は、不思議な金色の光を発していた。私がこの時代に飛ばされた時と同じだ。


「ここが……アスハ様がやって来られた場所なのですね……」


 小町は感激するように言った。


「そっ、それじゃあみんな、岩に手を当てて?」


 私の言葉に、一同は頷いた。私たちは一斉に、息を合わせて岩に手を当てる。一瞬、目の前が金色に染った。

 そして気がつくと、そこはあの白波神社の境内だった。空を見上げると、そこは岩と同じような金色の光に覆われている。夕暮れだろうか。あの日から、どれほど経ったのだろうか。


「ここが……お前の時代か?」


 白鷹が周囲を見回しながら尋ねる。


「そう、そのはず……」


 その時、遠くから私に声をかける者がいた。


未来羽あすは!! 一体……今まで何処に……? それに、その人たちは?」


 つるぎとさくらがこちらの姿を見つけてやって来た。


沢城さわしろくん! それに……さくらも!! ごめん、探したよね、何日も居なくなったりして……」

「何日も? 何を言っているんだい? 確かに探したけど……ほんの1時間くらいだったよ」

「え?」

「そうそう、未来羽ちゃん、沢城くんの携帯を持って消失しちゃったから、とうとうそういうヤバいことに目覚めちゃったのかと……」

「さくら……」


 そうか、向こうとこちらでは、時間の流れが違うのか……?


「で、そちらの団体さんは……未来羽の迷子を助けてくれた人達かい?」

「その分だと……お前がそのアスハの想いび……」


 私は電光石火の勢いで飛んでいき、白鷹の口を塞いだ。なんて無神経なのかなぁ、この人。


「ははは、随分と仲が良さそうだね。君達は」


 剣はその様子をとてもポジティブに解釈した。私は携帯を取り出して剣に渡す。


「色々あったから……壊れちゃったかな……」

「いいや、まだ使えるみたいだよ」


 剣は携帯を手に取って確認しながら答える。


「それと、訊きたいんだけど、そのストラップの石……どこで手に入れたの?」

「あぁ、これかい?」


 剣はストラップを持ち上げながら言った。


「とても奇妙な体験だし……それに……未来羽なら言っても信じてくれないだろうけど、ある日、朝起きたら、僕はこれを握っていたんだ。それで、気に入って、携帯のストラップに……」

「それは……妙な話ですね。何者かに握らされたのか、あるいは……」


 と、翼が言う。


「君も……そう思うかい? ところでなんだけど……そちらの和装が様になっている方たちは……?」

「あぁ、それは……話が長くなるんだけど……」


 私は話し始めた。剣の携帯についているストラップの力で平安時代にタイムスリップしたこと、そして、そこでの出来事、それから、こちらの時代に妖や虎熊童子の類が来ていること。


「とても……興味深い話だね」


 私が話し終わった時の、剣の反応はそれだった。


「やっぱり……信じないよね……こんな話……」

「いいや、僕は信じるよ。他の人の言葉なら信じなかったかもしれないけど、今まで都市伝説だとかそういう類を一切信じていなかった人間の言葉だからね。それに……」


 そして剣は白鷹や小町、翼や式神たちを見た。それから続ける。


「目の前にこんなに証拠を突きつけられちゃあね」

「……って言うか話を聞く前からずっと思ってたんだけど……」


 と、さくらが切り出した。


「そこの白鷹くんって人、すっごくボロボロじゃない! 火傷も負ってるし、着物だって……なんか所々焦げてるし!!」

「ま、まぁ……鬼童丸きどうまるとやり合った後だからな……」

「で、どうするつもりなの?」


 さくらが大きめの眼鏡の向こう側の瞳を輝かせながら詰め寄った。


「ど、どうするって……そりゃあ自然に治るのを待ってだな……」

「駄目!」


 さくらは言う。


「駄……目……?」

「そう、そんなもんをほっといたら、いくら貴方が鬼の子だからって、傷口からバイ菌が入って病気になっちゃいます。だから……せめて消毒くらいはさせていただきますっ」


 そういえば、さくらの家は街の診療所をやっていたんだったな……と、私は思い出す。でも、病院で大人しくできるのだろうか、こいつは……。


「それに、その着物もです。私、お裁縫も得意なんで、同じようなのはいくつか縫えますよ」


 さくらの多芸はこういう時に助かる。剣も思い立ったように言った。


「そうだね。それに君たち……平安時代から来たばかりで……寝泊まりする場所が必要だろう?」

「そうですね、わたくしもこの時代の方達がどのような暮らしをしているのか、少々興味があります……!」


 小町が言った。


「……ですが、俺たちに用意出来る宿など……ありましょうか。この時代ではどのような方法で商いが行われているのか、想像もつきませんし……」


 翼も言う。


「私どもは式神故、お構いなく」


 ふたりの式神は、一瞬にして人型の小さな紙の姿になり、小町に回収された。剣とさくらはその様子を見て少し驚く。

 剣は答えた。


「宿については問題ないよ。この白波神社には、遠くから来た神職の方用に宿泊所があるからね」

「いいのか? 俺たちみたいなのが大勢で……」

「暫くは使う予定もないから問題ないよ。それに、現代の予備知識がない君達が何処かのホテルや旅館なんかに泊まる方が問題ありだろう?」


 剣の言い分はもっともだ。白鷹もそれを理解したように頷いた。


「分かった。世話になるぜ」


 だが、そこにさくらが割り込んでくる。


「ちょっと待って! 白鷹くんはまずは私の病院に来てもらいます! そしてその怪我が治るまでは入院してもらいます。ベッドも幸いにして余っているので」

「必要ないぜ。これしきの怪我、放っとけば治るって……いだァッ!」


 さくらが、白鷹の傷口にわざと突きを入れた。


「やっぱり、大丈夫じゃあないじゃん。……ってことで、貴方は是が非でも病院に連れていきます」


 さくらは強引に言った。

 白鷹とさくらが西園寺さいおんじクリニックに向かったため、私はふたりと別れて、白波神社の宿泊所に移動する。剣は、翼と小町に施設の使い方を説明していた。


「それから……夕飯なんだけど、君達の分は僕が作って運んできてあげるよ」


 つ、剣の手料理……!? それは私も食べてみたい。


「剣様、何もかもありがとうございます……。ところでお聞きしたいのですが、貴方がアスハ様のいいなず……うぐぐ……」


 まったく、油断も隙もない。私は咄嗟に小町の口を塞いだ。


「ど、どうしたんだい? 」

「な、なんでもないよ……ははは」

「ふ、ふぐーっ!」

「まぁいいや、ところで小町ちゃんのことなんだけど……さすがに男の子の僕が身の回りの世話をするのは色々と問題ありだろう? だから妹の瑞穂にもこのことを言って世話を担当させたいんだけど、何か不服はあるかい?」


 小町は首を横に振った。


「いいえ、とても素敵な事だと思います。わたくしもこの時代の方の事をもっと知りたいですし」

「よし、それじゃあ決まりだね。それから未来羽、君にはちょっと話したいことがあるんだけど……」


 えっ、何!? いきなり何かのお誘い!?


「も、もちろん! 是非!!」


 私は答えた。声のトーンはいつもの通りだっただろうか。

 剣は、宿泊所の建物を出ながら私に尋ねた。


「確か……熊童子くまどうじは、大嶽丸おおたけまると言ったんだよね?」

「そう、そのはずだけど……。彼は鬼童丸を裏切って、金童子かねどうじを殺して、それから浅魔童子あさまどうじと一緒に……」

「そして彼は、顕明連の剣を持っていた」


 私は頷く。それに、確か三明の剣という名前も聞いた気がする。


「顕明連の剣は大嶽丸が持っていた三明の剣のうちの一本なんだ……」


 剣は話し始める。



「そして、御伽草子の話によると、彼は征夷大将軍、坂上田村麻呂さかのうえのたむらまろらに剣のうちの二本を奪われて討伐された後、残った一本の霊力により復活をしているんだ」

「じゃあ、これから私たちがその復活した大嶽丸と戦うことになるかもしれないってこと……?」

「そればっかりは僕にも分からないよ。第一、原典の話によると大嶽丸が復活したのは田村麻呂たむらまろと同時代の話だ。未来羽が飛ばされた時代が長元年間なら、田村麻呂の時代から二百年以上は経っているはずだからね」

「二百年……」


 私は剣の言葉を繰り返す。


「でも、伝承というのは時と共に変化するものだ。もしかしたら大嶽丸が復活するのは、200年程くだった白鷹くん達の時代かもしれない。第一、酒呑童子だとか鬼童丸の話だって架空の物だとされていたからね。さらに言えば、本家御伽草子では鬼童丸は源頼光みなもとのよりみつに討伐されたことになっている。そこら辺の真相は当事者達にしか分からないという事だろうね」

「もし仮にそうだとして……大嶽丸は二百年も前の鬼なんでしょ? だったら、当時のことを知っていて生き残っている当事者なんて、本当にいるかどうか……」

「そうだね。そこまで言われると僕にも次打つ手は分からないよ。だけど……もし何か、大嶽丸の事を知りたいのならば。鈴鹿山すずかやまに向かう事をオススメするよ。なんてったって鈴鹿山は……生前の大嶽丸の根拠地があったとされる場所だからね」

「鈴鹿山……ありがとう、沢城くん」


 私は剣に礼を言った。


「そして、その返事だと、君はもう迷いはないみたいだね」

「迷い?」

「そう、未来羽は……ずっと、平安時代で生きるべきか、現代で生きるべきか……悩んでいた。まぁ誰だってそうさ、人生はひとり分しか生きられないのだからね。RPGなんかの世界で、別の世界に転移しても素直にそれが受け入れられる人間の方が珍しい。……でも、未来羽は今、素直に受け入れただろう? 平安時代に戻り、白鷹くん達と一緒に冒険をするって」

「うん」


 と、私は頷いた。


「だって、私は欲張りだから。現代と平安時代と……両方の時代で生きていきたい。それに……向こうの時代は、私が長らく忘れていた物を思い出させてくれるような気がするんだ」

「長らく忘れていた物?」

「そう、上手くは言えないけど……私の心の余裕というか……本当に好きな時間というか……。現代がつまらない訳じゃあない。現代には私の友達も、家族も、みんないるし……。だけど、それでも私には忘れていた物があった……」

「未来羽、漸く君は……自分の好きな事を見つけることが出来たんだね」


 剣は言った。


「うん、そうかもしれない」


 私は剣と別れると家路に着いた。鬼灯色の夕日は、もう地平の彼方へ沈みかけていた。

 ひと晩寝て、起きると、まるで今までの冒険が嘘だったような1日が始まった。いつもの通り、着替え、朝食を済ませ、支度をして登校する。そんななんの代わり映えもしない1日だ。

 否、変わったこともあった。登校中、さくらと一緒になると、最初の話題は、白鷹の事だった。


「さくら、大丈夫? 白鷹くん、大人しくしてた?」


 私は保護者のような口調で尋ねる。


「大丈夫だったよ。消毒には少し時間がかかったけど、後は多分大人しくしているよ。今のところはね」


 最後のひと言が不安要素だが、まぁ取り敢えずは良かった。落ち着いていいのだろう。

 と、そこに剣の自転車が停車する。そして剣は、落ち着いた色のゴムで作られたブレスレットを取り出して渡してきた。


「これは……?」

「よく見てご覧」


 見ると、ブレスレットにはあの貴石が取り付けられている。私が帰った後、作ってくれたというのか。感謝感激雨霰。


「君が持っていた方がいいだろうと思ってね」


 剣は言った。


「ありがとう……沢城くん……」


 どうやらあの冒険は、私たちの仲も……。うんうん、平安時代って最高じゃない? みんなも暇があったらタイムスリップしてみることをオススメするよ。

 さて、その日の授業はいつも通り、ナメクジの百メートル競走くらいの体感時間で進み、下校時刻となった。事件は、その時起きた。

 私とさくらが昇降口を降り、校門の方に向かっていると、そこには何やら人集りが出来ていた。何があったのだろうか。進学塾のビラ配り? あれ、消しゴムとか付いてくるから結構便利だよね。

 だが、近づいてみるとそうでも無いようだった。見るからに不良という格好をした男衆3人がガンを飛ばしているのだ。制服から見るに、うちの学校ではなく、海辺の方にあるヤンキー高の生徒らしい。誰だ、あんな見るからに恐ろしげな学校に喧嘩を売ったのは。うちの学校は温厚な生徒が多いと聞いていたが、例外もいたものである。


「ど、どうしよう……裏門の方から出ようか?」


 さくらが訊いてきた。


「そ、そうだね。なるべく気付かれないように……」


 だが、そんな中、ひとりの男子生徒が私に声をかけてくる。


「君……確か、谷川未来羽たにがわあすはさんだったよね」

「う、うん……」


 どうしたのだろうか。確かにこの生徒、放送委員会で何回か見かけた気はするけど……。


「あの……人達が呼んでいるよ?」


 生徒が示した方向を、私は二度、いや、三度は見た。それは明らかに、あのヤンキー達を示していた。


「あ、私、急用思い出したから先に帰ってるね」


 逃げるなさくら。だが私が捕まえる間もなく、さくらはその場をフェラーリ並のスピードで逃げ去った。

 味方を失った。……いや、私を見捨てて逃げたやつなど味方などではない。とにかく、私は、ゆっくりと校門の方に進みでる。


「き、来たぞ! 谷川未来羽さんのお通りだ!!」


 集まった群衆のひとりが余計なひと言を叫んだ。


「お前が……谷川未来羽か……」


 ヤンキーのひとりが言う。


「そ、そうだけど……何?」


 本当に、何? こんなヤンキーに絡まれるような心当たりなんて、ひとっつも無いんだけど。

 だが、そのヤンキーが次に取った行動は想定外のものだった。私の前に跪くと、私の鞄を手に取ったのだ。


「未来羽様、お待ちしておりました。お鞄をお持ち致します」

「は、えっ!?」

「お手をお離しください。お荷物は全て、俺たちがお持ち致しますゆえ……」


 明らかに慣れない敬語を使っている。本当に何事!?


「ね、ねぇちょっと待って。全然話が読めないんだけど……」

「おい、お前、未来羽様が困っているぞ!」

「だ、黙れ! 俺が未来羽様の鞄をお持ちするという崇高な任務を……だな」

「おいお前ら! 未来羽様の前だ。みっともない姿を晒すんじゃあねぇ!!」


 ヤンキー達は何やらヒソヒソと相談している。


「と、兎に角未来羽様は事情を知りたがっている。話してやれ」

「押っ忍!!」


 それからヤンキーのひとりは、私の鞄から手を離し、説明する。


「時間は……今から四時間ほど前に遡ります。俺たちは、河川敷の橋の下で……つまらねぇ授業を抜け出して煙草をふかしておりました。すると、そこに妙な格好……そうですね。なーんか妙に派手な着物を着て、髪色は赤っぽい茶色、それから顔には赤いラインが入っていて……」


 明らかに白鷹だ。あいつめ、何をしでかしてくれた。


「んでまぁ俺たちはいいカツアゲ対象がやって来たと絡みに行ったんでさ。そしたら相手はめっぽう強い。あっという間に全員が全員投げ飛ばされて……とうとう俺たちの兄貴までもボコボコにされて……」

「で、でもそいつは言いましたんですぜ! 『お前たちが金輪際弱者相手に今みたいな真似をしなければ命までは取らねぇ。それからもうひとつ、お前たちを雇いたい』って……」

「金はと訊くと要らねぇと答える。仕事をしてくれる事が何よりの報酬なのだそうだ。それを聞いて、俺たちは決意したのです。このお方こそ、俺たちがついて行く兄貴に相応しいお方なのだと……」

「で、それでどうして私の所に来たわけ?」

「あ、新しい兄貴が言いました! 谷川未来羽という女子がいる。そいつを何としても……危険から守り抜くための護衛につけ……と」

「そう、だったら言わせてもらうけど、私には護衛なんて必要ありません。それから……直ぐにその新しい兄貴の所に案内すること!」

「押っ忍! 姉貴!!」


 ヤンキーのひとりが大声で答える。


「あ、姉貴だって……」

「あの谷川未来羽って子、今まであんまり目立たない子だと思ってたけど実は……」


 外野からヒソヒソ声が聞こえてくる。最悪だ……これで私の評判は地に落ちた。おのれ平安時代。おのれ白鷹……。

 ヤンキー達の案内で、私が学校の近くの公園に向かうと、案の定新しい兄貴というのは白鷹の事だった。白鷹は、富士山の形をした滑り台の頂上に座っている。周囲にはヤンキー達の1団が控えていた。


「白鷹!! これって、どういうこと!?」


 私は私は富士山の一合目辺りに足をかけながら尋ねる。


「どういうことって、見りゃあわかるだろ? この時代には虎熊童子がいる。お前は危なっかしいからな。護衛をつけてやったってだけだ」

「馬鹿!! 私は……そんなもの……必要ない……それに……」


 怒りも頂点に達すると、不思議と力が抜けてくる。声も自然と涙声になってきた。


「私の……全てを……めちゃめちゃにして……それで……」

「アスハ……」


 白鷹は頂上から飛び降りると、私の隣に着地をした。


「悪かったな……確かに、俺のしたことは余計な事だったのかもしれねぇ。だけど俺は……お前が心配なんだ……」

「白鷹……あんた……」

「おい、お前ら」


 白鷹はヤンキー達に命じた。


「これからは目立たないようにアスハの護衛をしろ。お前たちのことを悪くいうつもりはねぇが、些か目立ちすぎるのも良くない」

「押っ忍! 兄貴!!」

「白鷹……怪我はもう大丈夫なの?」


 私は尋ねた。


「あぁ、さくらの家の医術は……妙にしみるが腕だけは確かなようだな。1日もすれば治っちまった」


 鬼の血を引いているから、治癒能力も普通の人より高いのだろうか。それに現代医学も加わったから、一日で怪我も回復したのだろう。


「それとアスハ……」

「何?」

「お前……やっと俺の事を呼び捨てで呼んでくれたな」


 私はハッとする。しまった、勢い余って……。まだ出会って数日といったところだから失礼だろうか。


「ごめん、つい……」

「いいや、その方がいい」

「え?」

「その……呼び捨ての方が……落ち着く……というか……なんというか……」


 白鷹は口篭りながらも言った。

 変なの……。私は心の中で呟く。

 その時、遠くからバイクの走る音が聞こえてきた。バイクの音は、段々と近づいてくる。やがて、それは姿を現した。黒光りする厳ついデザインのバイクが公園の敷地内に三台ほど入ってきたのだ。


「あ、兄貴……!!」


 ヤンキーは血相を変えて白鷹の方を見る。バイクはこちらの姿を見つけると、富士山滑り台を中心に私たちを囲むようにグルグルと回り始めた。


「て、鉄の馬……!?」


 白鷹は初めて見るバイクに驚く。


「お前らみたいな雑魚が寄って集って……俺たちの縄張りで何をしてやがるんだ!!」


 バイクに乗ったヤンキーが言った。ヘルメットで顔は見えない。


「兄貴……どうしやすか?」


 白鷹配下のヤンキーは、白鷹に指示を仰いだ。


「どうするって……上等だ。やってやるぜ!!」


 白鷹は背負った白波の太刀に手をかける。私はハッとして止めに入った。


「ちょっと待って。白波の太刀を使うつもり?」

「あぁ、そうだがなんだ?」

「相手は飽くまでも人間だよ? 手加減はしてあげて」


 少なくとも死傷者沙汰はやめて欲しい。すると白鷹は、ニヤリと笑って答えた。


「なんだ。それなら峰打ちでいくぜ」

「兄貴……それは……!」


 白鷹が太刀を抜いて峰と刃の向きを逆にすると、ヤンキーは言う。

 一方、バイクに乗ったヤンキー達は、それを見て笑い始めた。


「ぎゃはははははは、見ろよ。そんな玩具の刀で俺たちがビビるとでも?」

「玩具かどうかは、てめぇらが自分の身で確かめやがれ!」

「兄貴、やめた方が……!!」

「安心しろ、峰打ちだ!!」


 白鷹が空中に飛び上がり、次々とバイクに乗ったヤンキー達に峰打ちを打ち込んでいった。ふたりは直ぐに気を失うが、ひとりだけ、白鷹の攻撃を見切り、かわす。峰がバイクに当たり、金属音が公園に鳴り響いた。


「避けるたァ褒めてやるぜ!!」


 白鷹が太刀をひと振りする。今度は避けきれずに、ヤンキーの服が切り裂かれ、彼の下着姿が顕になった。意外や意外、ハート柄のおパンツ……って、ん?


「あっ、やべっ、さっき間違えて刃の向きを逆にしちまってたぜ。まぁ狙いが逸れたし許してくれよな」

「ほ、本物のかた……な……!?」


 半裸になったヤンキーは気絶したふたりを置いてその場からそそくさと逃げていった。バイクは、置いていかれていた。


「兄貴……あれは……仲間の所へ行ったタチですぜ……」


 白鷹配下のヤンキーが言う。


「へっ、何人来ようが追い返してやるぜ!」

「で、でも相手が相手……」

「そ、そうそう! あいつらはこの街のヤンキーを束ねている大牙部悪組タイガーベアーズのメンバーですぜ」

「た、たいがべあ? なんだそれは……」

「知らないんですかい? あいつらを敵に回すということは……この街全体を敵に回したのも同じこと……奴らに逆らって街から追放された俺たちの仲間も数知れず……」

「だったら先に言えってんだ!」

「だ、だから俺はさっきからやめようって……!」


 ヤンキーは悲痛な声を上げた。


「ま、まぁなんだ……それは詰まるところ、お前らの仕事が増えたってこったな。虎熊童子からアスハを守るだけじゃあなく、たいがなんちゃらからもアスハを守る。あぁ、もちろん目立たねぇようにな」


 あぁ、やっぱり問題児だ……この半人半鬼は……。悪気でやってるんじゃあないのは充分に分かるんだけどね……。私はため息をつきながらその場を後にする。


「お、おい、どこに行くんだアスハ」

「沢城くんの所。なんでもいいけどこれ以上問題を起こさないで。警察沙汰だけは絶対にやめてよね」

「け、けーさつ? なんだそれは」

「検非違使のお世話にならないようにしてってこと!」


 キョトンとする白鷹やヤンキー達を横目に、私は公園を出ていった。どうして、翼や小町は大人しく出来ているだろうに、白鷹ばっかりこうなんだろう……。

 世紀末編、しばらく続きます。次回の更新日は5月20日です。

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