第八話 感想に振り回されるのは感心しないな
矛盾へのフォローも終わり、新展開に意欲を燃やす永太。
そんな永太に待ちに待った感想が届いたが……?
どうぞお楽しみください。
……さて、凛の霊力の矛盾も解消したところで、いよいよ新キャラを出すか。
誰から出そうか……。
土属性でマッチョでタフな土壁巌か、金属性でマッドな霊具士の釣鐘錘か、火属性で勝ち気なツンデレの烈煌焔か……。
今メインは凛と樹が男、空が女だから、錘か焔だな。
動かしやすそうなのは焔だから、焔、巌、錘の順かな。
よーし、そうと決まれば早速書くか。
「!」
さ、「作家ぁしようぜ!」のトップに、か、『感想が来てるぜ!』の文字が……!
ゆ、夢じゃないよな……。
マウスを持つ手が震える……。
「いや待て落ち着け。落ち着くんだ……」
口に出して自分に言い聞かせる。
感想と言っても色々ある。
褒められるとは限らない。
その事は遠藤とのやり取りでよくわかっている。
あ、むしろ遠藤のアカウント『ハシビロコウ』からかもしれない!
それ以外でもポジティブな言葉とは限らない!
……きついのじゃないといいなぁ……。
……よし! 受け身の準備は十分だ!
開けよう!
「! こ、これは……!」
「それでそんなにやにやしているという訳か」
「いやー、だってよー、こんな嬉しい感想もらっちまったらよー、そりゃ嬉しくもなるだろー」
贈られた感想は、『身喰いの刃』の最新話に向けられたものだった。
もう何度目かわからないが、携帯を起動して感想を読み返す。
ちなみに万が一消された時に備えて、スクショ済みだ。
差出人:猫の手も借りたいにゃんこ
江田谷先生
身食いの刃、楽しく読ませてもらっています!
巫女の空を守る凛と樹の格好良さに痺れました!
まるで『マジック・テンプルナイツ』の虹の姫を守るナイトみたい……!
これからも格好良いナイトが増えるのを楽しみにしています!
くぅ〜!
何度見ても嬉しいなぁ!
「まぁ喜ぶのは自由だけど、この感想、あまり良くないな」
「……何でだよ」
俺と同じように携帯を見ながらの遠藤の言葉に、ちょっとムッとして言い返す。
人の喜びに水を差すなって言いたい。
「まず山梨君の作品名の漢字を間違えている」
「え? あ、本当だ……」
「まぁそれは単なる変換ミスなのかもしれないが、他作品との比較と、その方向に誘導しようとしている感じがする。若干不快だな」
「う……」
確かにそこは少し引っかかった。
和の雰囲気で書いてるのにナイトって……。
でも嬉しさの方が全然勝ってたから、気にしなかった。
……何なら焔と錘を男キャラに変更しようと思ったくらいで……。
「私は他者の作品を、自分の好みにねじ曲げようとする輩が好きになれない。自分好みの作品が欲しければ、あちこち探すか、自分で書けば良いと思っているからな」
「う、うん」
それは遠藤自身、すごく気を遣ってくれてるよな……。
「『マジック・テンプルナイツ』はいわゆる乙女ゲームで、主人公『虹の姫』を様々な属性を持った騎士が守り、気に入った騎士と恋仲になるという内容だ」
「く、詳しいな」
「二次創作にも手を伸ばしているからな」
こいつ、いったいどれだけの話を読んでいるんだろう……。
「乙女ゲーム系の作品は、ある程度方向性が決まっているから一定の読者はつくが、その分期待も高い。素人が手を出すと痛い目を見る可能性がある」
「そ、そうか、わかった……」
「もしかして、方向転換を考えていたのか?」
「あ、う……。ちょ、ちょっとだけ……」
俺の言葉に、遠藤は小さく溜息をついた。
「感想に振り回されるのは感心しないな」
「お、おっしゃる通りで……」
「山梨君が書きたいものでなければ、早晩行き詰まるだろう。そんな悲しい結末を迎えさせないでほしい」
「あぁ、わかった」
「……かく言う私もああだこうだと口を出していて、他人をどうこう言えた義理ではないがな」
申し訳なさそうに言う遠藤。
それだけは否定しないと!
「そ、そんな事ないぞ! 俺は遠藤のお陰で書けてるんだ! 感想だって俺が頼んでるんだし、これからもよろしく頼む!」
「そうか……。それなら嬉しい」
……淡々と言ってくれて良かった。
これでニコッと微笑まれでもしたら、またおかしな勘違いをするところだった。
「それじゃあ今日は帰って続き書くわ」
「あぁ、楽しみにしてる」
よし。予定通り、焔を登場させよう。
もしかしたらあの感想を消されるかもしれないけど、俺は俺の話をちゃんと守るんだ!
……でもスクショは消さないで取っておこう。
折角の初感想だしな、うん。
読了ありがとうございます。
この作品はフィクションです。
実際の感想、コメント、メッセージ等とは関係ありません。
今回はマジです。
あ、今回もマジです。
私にはこういった、話の方向を変えようとする感想をいただいた経験がないので、ゲーム実況のいわゆる『指示厨』をイメージして書きました。
ただ、今回の話は、感想に浮き足立つ永太と、冷静にたしなめる結を書きたかっただけなので、どうぞ今後も数多の作者に力を与える感想を、どうぞ気兼ねなく贈ってくださいませ。
これでよし。
次話もよろしくお願いいたします。