第六話 設定に縛られる必要もない
一話の設定と矛盾する展開を書いてしまった永太。
リカバリーするべく、新たな話を書きましたが……?
どうぞお楽しみください。
「凛、君は空様の護衛をしている内に、目覚めたんだね、生きる意味に」
「……さてな」
「だからこそ今までのように魔牙月を振るわず、『鍔鳴』を使った。芽生え始めた霊力を喰われないように」
「……」
「あの技はかなり身体に負担がかかるんじゃなかったっけ?」
「……必要だから使った。それだけだ」
からかうような、心配するような樹の言葉に凛はそう答えると、部屋の出口へと向かう。
「俺は役目に従って、刀を振るうだけだ」
「そうかい。ただ君を喪ったら空様は悲しまれる。それだけは忘れないでくれよ」
「……それはどうかな」
樹の言葉に、凛の背中は揺れなかった。
よぉし! これで辻褄は合った!
おまけに凛と空の関係にも伏線を張れた!
俺って天才じゃないだろうか!
……いや、落ち着け俺。
これで調子に乗ると、またきっと失敗する。
一時保存して、印刷して、と。
今度こそ『面白かった』って言ってもらえますように!
「やぁ山梨君」
「……よぉ」
放課後の図書室。
遠藤は当たり前のようにそこにいた。
いや、いるのを期待して来たけど、ほんと毎日いるのは何でなんだ?
「お前いっつもここにいるのな」
「図書委員だからね」
そりゃカウンターの中に座ってるんだからわかるけど……。
「それにしても毎日って……」
「帰宅してもする事と言えば、本を読むかネット小説を読むかだからね。場所が違うだけさ」
「……そっか……」
本の虫ってこういうのを言うんだろうな……。
「それで昨日更新がなかったのにここに来たという事は、また先読みをさせてもらえるのかな」
「あ、あぁ。頼む」
「嬉しいね。では早速」
俺が取り出した紙を受け取ると、またすごい速さで読み始める。
読み終わると、遠藤はふう、と息を吐いた。
「成程。空と接する中で、凛に生きる意志の証である霊力が宿りつつある、という流れにしたのか」
「そ、そうなんだ。……その、どうだ……?」
「良いんじゃないか。悪霊に絶対的に強かった凛に制限をつける事で、話の幅も広がりそうだしな」
「お、おう、そうだな……」
そうか、そういう広げ方もできるんだな。
そうしたら樹や他のキャラを活躍させる事もできるし、凛が空や仲間のために身を削って戦う熱い展開とかも書ける……!
やっぱり俺天才かも……!
「しかし錯乱した母親に殺されかけた心の傷が、あっさり回復するのだな」
「う……」
遠藤の言葉に、血の気が引いていくのがわかった。
そうだよな!
こういう重い設定って、何か特別なエピソードがあって救われたりするもんだよな!
このままだと凛が、小学生の空と一緒にいるだけでトラウマが消えたロリコン野郎になってしまう!
「あぁ、でも空は五行の気全てに力を与える『全の気』を持っているんだったな。それが凛に何かしらの作用したのであれば、納得はいく」
「……あ」
そうだ! その設定があったじゃないか!
次の話でそれをエピソードに加えれば……!
いや待て、まだこの話は投稿してないんだから、この話の前に凛と空のエピソードを加える手も……!
「ありがとな。設定をもう一回見直して、練り直してみる」
「そうか。だが設定に縛られる必要もないと思うよ」
「え?」
「私は山梨君の設定ノートを見たから知ってはいるが、まだ物語に描かれていない設定はないも同じだ。この凛の霊力みたいに、話の中で変化する設定もあるわけだし」
うぐ。
そ、それは苦肉の策でして……。
「能力バトルもので、最初は付いていたダメージ反射の能力がなかった事になった話もある。大事なのは設定を守る事ではなく、話を面白くする事だと思う」
「そ、そうだな……」
……確かに遠藤の言う通りだと思う。
でも今はその設定に助けられそうだから、アドバイスを生かすのはまた今度に……。
読了ありがとうございます。
設定は、ないとキャラの動きが定まりませんが、ありすぎても動かなくなります。
でも設定考えるのって楽しくて、つい色々盛り込んでしまいます。
気をつけねば……。
次話もよろしくお願いいたします。