第四話 書きたいだけ書けばいい
自作の続きを書き始めた永太。
感想がない事にめげつつも書き続けるが、書き上げたものがこれでいいのか、悩む事もあるようで……。
どうぞお楽しみください。
「……これは、どうなんだ……?」
『身喰いの刃』六話を書き上げて見直し、俺は溜息を吐いた。
主人公・昏淵凛の相棒、種森樹を五話で登場させたが、遠藤には『書く事は特にない』と言われた。
そこでこの六話では、多彩な技と頭のキレで大活躍させてみた。
しかしそうしたら、今度は凛の影が薄くなってしまった。
「でもこの活躍を潰すのは惜しいよなぁ……」
樹は気を込めた木製品を操れる。
ただその指示は単純なものに限られる上に、身体に触れていないと指示の書き換えはできない。
そこで相手の動きや思考を予測して、あえて単調な攻撃で油断を誘い、あらかじめ埋めておいたウッドビーズのクレイモア地雷の上に誘い込んで倒す。
ここで凛がトドメを刺すと、樹の活躍が薄れてモブ化しそう……。
なのに主人公である凛が、一度も魔牙月を抜かないのもブレてる気がするんだよなぁ……。
「……聞いてみるか……」
俺は唯一の読者に見せるべく、書き上げたページを印刷した。
「ふむ、公開前の作品を見れるとは役得だな」
放課後の図書室。
遠藤は前読みを快く引き受けてくれた。
「それ読んで意見が欲しいんだ。凛と樹の見せ場の問題なんだけど」
「待ってくれ。私は意見を言うつもりはない。感想だけで許してくれないか」
「え? あ、あぁ、感想でもいいけど、何が違うんだ?」
「意見となると、作品に反映される事を意識したものになる。それは私が山梨君の作品に手を入れる事になる。私は山梨君の作品を変えたくはない」
……そうか。
気軽に感想を書かないのも、そういう意図があるのかもな。
「……わかった。感想だけでも助かる」
「すまない」
そう答えると、遠藤は打ち出した第六話に目を落とした。
……早っ。もう二ページ目か。
あっという間に読み終えた遠藤は、ふぅと一息ついた。
「……ど、どうだ?」
「なかなか好みの展開だった。ただの能力バトルだけではなく、頭を使って戦うのはいい」
「そ、そうか。……凛が活躍しなかったのは、どう思った?」
「そういう回なんだろうと思って、さして気にはならなかった」
「そ、そうか」
ほっとしたような、残念なような、不思議な気持ちが巡る。
「山梨君は凛を活躍させたいのか」
「そりゃあ主人公だからな」
「なら活躍する回を書けばいい。楽しみにしている」
「え、あ、うん……」
そりゃそうか……。
考えてみれば、主人公不在回なんて、漫画でもドラマでもあるもんな。
「山梨君は『身喰いの刃』を何話で終わり、と決めているわけではないんだろう?」
「あぁ」
「なら書きたいだけ書けばいい。私はちゃんと読むから」
「……あぁ」
投稿した当初は自信満々で、いきなり大絶賛と高評価で、書籍化とかしたらどうしよう、ぐらいに思っていた。
でも現実は世知辛かった。
絶賛も高評価も書籍化の話もない。
でも思ってたのと違う遠藤の言葉でも、やっぱり何だか嬉しく感じられたのだった。
読了ありがとうございます。
永太君。
リアルで読者から感想もらえるとか、その時点で恵まれてるから。
それが女子高生とか、リア充認定されてもおかしくないから。
大学時代の文芸部仲間にさえ、書いてる事を明かしてない小心者のおっさんもいるんだから。
この後書きはフィクションです。
実際の作者の性格・来歴・嫉妬などとは関係ありません。
これでよし。
次話もよろしくお願いいたします。




