第二十話 次は何を書く予定なんだ?
自分の書いた作品の完結を祝われる喜びを味わった永太。
しかしそれはゴールであると同時に新たなスタートでもあるようで……。
どうぞお楽しみください。
「やぁ山梨君。完結お疲れ様」
「お、おう……。そ、その、えっと、感想ありがとな……」
「あぁ、あれは私のわがままに付き合ってくれた、ささやかなお礼だ。喜んでもらえたなら嬉しい」
「こ、こっちこそ嬉しかった……!」
「それで山梨君に読んでもらいたいものがあるんだ」
「えっ……。これ、小説……?」
「君を見ていて私も書きたくなってな」
「そ、そうなんだ……」
「内容は同級生女子にネット小説を書いている事がバレた男子高校生が、小説を書くうちに女子と恋に落ちる話なんだが……」
「そ、それって……!」
「……なぁ山梨君、この話の続きを一緒に紡いでみないか……?」
「んなぁっ!?」
跳ね起きるとそこは俺の部屋。俺のベッド。
……何だ、夢か……。
そうだよな。遠藤がそんな事言うはずないし……。
って事は、俺の願望……?
いや、そんな事ない……、よな……?
俺と遠藤とは、小説を通じた同志で……。
……いや、先輩? 師匠?
とにかくそういうやましい気持ちとは別、のはずだ!
……多分。
「やぁ、山梨君。完結お疲れ様」
「お、おう。感想ありがとな」
……いつもの遠藤だ。
俺、何期待してたんだろ……。
「一旦予定通りの流れにした後で、記憶消去の霊具を作った錘にカウンターを用意させておくとは、筋の通った良いラストだった」
「あ、ありがとう……!」
うわぁ!
ここが図書室でなかったら叫び出したいくらい嬉しい!
やっぱり遠藤の感想って、俺の中で特別なのかな……。
「しかしこれだけのボリューム、二話に分けても良かったのではないか?」
「えっ?」
「十年後の話は一話空けた方が、より凛の覚悟に対する切なさや、十年という時間の経過が感じられて良かったのではないかな、と」
「……だな……」
返す言葉もない……。
遠藤には敵う気がしない……。
本当に特別だよなぁ……。
「それで山梨君は、次は何を書く予定なんだ?」
「え、つ、次?」
「すぐにとは言わないが、あの設定ノートを見る限り、他にも書きたい話はあるのだろう?」
「いや、それは、まぁ、あると言えばあるけど……」
あれ? 遠藤が『身喰いの刃』の続きを頼んだのって、読みかけた話は完結まで読みたいっていう遠藤自身の信念で、別に俺の話が面白かったからじゃなかったはずだけど……。
もしかして、『身喰いの刃』面白かった!?
他の話も読みたいぐらいに!?
「『身喰いの刃』が、設定から大きく変わる様子を目の当たりにして、他の話がどうなるのか興味がある」
「……え、あ、うん……」
……あぁ、設定ノートありきの楽しみ方ね……。
「地獄で刑罰を受ける大泥棒が、償いに現世に来て人の病や傷や辛い記憶を盗む『盗賊の手』とか」
……今回そこから記憶うんぬんのオチ持ってきたから、今更書くのは……。
「刑務所の受刑者がその能力を活かして、刑期短縮のために刑務官と共に街に出て様々なトラブルを解決する『がんばれギルティ』とか」
あー、それは書きかけで止まってるんだよなぁ……。
最後がどうしても綺麗にまとまらない……。
「戦場で死にかけて最強のサイボーグになり、全ての兵器を破壊し尽くして戦争を止めた男の悲哀と苦悩の『ピリオド』とか」
SF書きたいと思って設定だけ練ったやつ……!
え、すっごい覚えてるな!
「ありきたりな設定だと思ったけれど、『身喰いの刃』が設定からあれだけ変わったんだ。今の山梨君がどう書くのか興味がある」
ありきたり……。
俺の渾身のアイディア達が、ありきたり……。
そうだよな、たくさんの本を読んできた遠藤にとっては、俺の考える話なんかどこにでもあるレベルなんだろうな……。
悔しい……。
でも遠藤が興味を持ってくれた事が、少し嬉しい。
きっといつか遠藤に大絶賛されるような、すごい名作を書いてやるんだ!
そう思ったら、設定だけだったり書きかけだった物語が、光りだしたみたいに思える!
「私も」
「じゃあ俺、今から次の話の構想練ってくる!」
「……わかった。楽しみにしている」
図書室を飛び出した俺は、頭の中で渦巻く話からどれを拾い上げるか考え始めた。
『身喰いの刃』で学んだ事で、きっと書き上げてみせる!
俺の作家への道は、まだ始まったばかりだ!
最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。
打ち切りっぽいですけどこれにて完結です。
たくさんの応援、ありがとうございます!
……さてここで皆様にお詫びしないといけない事があります。
散々フィクションだと言ってきましたが、実は『身喰いの刃』は、私が学生の時に書きかけてやめた小説が元になってます!
ごめんなさい!
あぁ、石を投げないで!
でも結の存在は100%フィクションですので!
こんな甘酸っぱいの、経験ありませんからぁ!
……い、石が、止んだ……?
ゆ、許された……!
神よ、感謝します……!
とまぁそんな茶番はさておき(仏教徒)。
『身喰いの刃』は若き日のリサイクル作品でございました。
何故これを掘り起こそうとしたのか、これがわからない。
それでも『身喰いの刃』にまつわる永太の物語は、多くの方から共感やら悲鳴やらをいただけて嬉しい作品でした。
リアルと言ってもらえたり、書き手のバイブルと言ってもらえたり、過分な評価に「きゃー(*ノ∇\)ー!」と面映ゆい思いもいたしました。
皆様の執筆に微力ながら力添えができたなら、心よりありがたく思います。
……他の色々はフィクションですけどね(まだ言う)。
次回作は二月一日から投稿予定です。
私史上最大の評価をいただいた作品のスピンオフです。
柳の下の二匹目を狙っております。
これで勝てる。
この作品がバズったら、俺書籍化するんだ……。
別に表紙を飾ってしまっても構わんのだろう?
めきめきとフラグを立てておりますが、どうぞよろしくお願いいたします。




