第二話 自分が読みたいものを書けばいい
自棄で捨てた小説ネタノートを拾われ、脅されるかと怯えていた山梨永太。
しかし拾った同学年の遠藤結に、永太が書きかけて放置していた『身喰いの刃』の続きを読みたいと言われ、再び筆を取る事にしたのだった。
どうぞお楽しみください。
「それにしても山梨君は、何故そのネタノートを一度捨てたんだ?」
「う、そ、それは……」
遠藤の言葉に、俺は一歩たじろいだ。
自分の書いた小説が、しかも完結まで持っていった作品が評価されなくてやめようと思った、なんて、あまりおおっぴらにしたくはない。
「ね、ネタは携帯のメモ帳に移したから、紙媒体はいらなくなったんだ」
「そうなのか。見たところ『作家ぁしようぜ!』では評価されていなかったから、そのせいかと思ったが、違うのか」
そのせいだよちくしょう。
わかってて聞いたんじゃないかこいつ。
「ならそれはもう不要なのだな。もらってもいいか?」
「そ、それは困る」
「そうか。残念だ」
物的証拠を残してたまるか。
慌ててネタノートをカバンにしまう。
「評価と言えば、評価の高低と作品の質とは、必ずしも一致しないものだな」
「え?」
「私は中学の時から『作家ぁ』を巡っているが、評価が高い、いわゆる『看板』と呼ばれる作品でも当たり外れは激しい」
「あぁ、うん、まぁな」
本になったりアニメになったりした作品も、納得できる面白さのと「何でこんなのが?」というのが混在する。
「低評価や無評価の作品でも、これは、と思う作品もある」
「……あぁ! そうだよな!」
俺の作品だって知名度さえあれば、もっと評価を……!
「当然の評価というものの方が多いけどな」
「わ、わかってる」
わかってるけど、言葉にして言われるとショックだ……。
「でもいいじゃないか。評価なんかに関わらず、山梨君は自分が読みたいものを書けばいい」
「……え?」
「『作家ぁ』は自分の好きなものを、好きなように書ける場所だ。その応援のための評価システムにとらわれて、書きたいものを書けなくなったら、本末転倒じゃないか」
「た、確かに……」
最初は自分が読みたいものを書いていただけだったのに、周りの評価がうらやましくて、そればっかりが気になるようになっていたな……。
「山梨君の作品の一番の読者は山梨君だ。私や他の読者は二番目以降。だから山梨君は評価よりも、自分が読みたいかどうかで書いていけばいいんじゃないかな」
「……」
何だかその言葉はすごくしっくりと俺の中に落ちた。
それと同時に、蓋をされていたように詰まっていた『身喰いの刃』の次の展開が、頭の中に流れ出した。
「……何だか書けそうな気がして来た。家帰って続き書くわ」
「それはありがたい。楽しみにしている。私は放課後大抵ここにいるから、用があったら来てくれ」
「あぁ」
荷物を持った俺にかけられた言葉には、やっぱり熱は感じられなかったけれど、なぜか俺の胸の中は心地よい暖かさがじんわり広がっていったのだった。
読了ありがとうございます。
評価のために始めたわけじゃないのに縛られる不思議。
でも周りはもらってるのに自分だけもらってない、と不公平感を感じるのは人の常なので、仕方ない部分もあります。
永太のように初心に立ち帰れれば楽になれるのですが、それでも気持ちがささくれ立つ時は、日本に古来から伝わる呪文を唱えましょう。
よそはよそ! うちはうち!
かーちゃん大明神様、ありがとう。
次話もよろしくお願いいたします。