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第十九話 面白かったよ

いよいよ『身喰いの刃』を完結させる永太。

書き上げて投稿したその胸に去来する思いとは……。


『身喰いの刃』完結記念に増量版でお送りします。

どうぞお楽しみください。

「ここが富士の中心に繋がる風穴だよ。日本中から陰の気が集まる場所だ。ここに浄化の力に目覚めたそら様を封じれば、数百年陰の気を浄化し日本は平和ってわけさ」

 まるでツアー案内のように言ういつきに、ほむらがまさに炎のような怒りを吹き上げる。

「樹っ! よくもぬけぬけと言ってくれるじゃない! 空様を何だと思っているのよ!」

 いわおもそれに続く。

「納得がいかん! それなら我々が悪霊を打破していけば良いだけの事! りんの『うつろ』もある! 大丈夫だ!」

 普段滅多に大声を出さないすいまでもが叫んだ。

「もっと時間と予算をもらいたいのでぇす! そうすれば自動で陰の気を浄化する霊具だって作れるのでぇす!」

「待って皆」

 樹に噛み付かんばかりに言い募る三人に、空はにっこりと微笑んだ。

「私がここに入れば、日本は救われるのですね……? 皆が傷付く事もなくなるのですね……? なら……!」

 その目から覚悟の涙が一筋こぼれる瞬間、

「その必要はない」

 凛の持つ記憶消去の霊具が光った。

「俺は陰の気を呑み込む霊具を持っている。これでお前はお役御免だ」

 光が消えた後、凛はまるで初めて会うかのような態度にさらされた。

「だ、誰よあんた!」

「……初めて会うが、……うむ、強いな」

「その刀で陰の気を呑み込めるのでぇすか?」

「へぇ……。それなら空様が犠牲になる必要もないね」

「でも、あなたは……? あなたが封じられてしまうのでは……?」

 命を共にしてきた仲間の態度の変化にも表情を崩さず、

「それも心配ない。こいつがいるからな」

 凛は胸のポケットから顔を出した稀刃まれはを指差した。

「俺の式神だ。中でしばらく呑み込む力の調整をしたら、こいつに任せて俺は出る。ざっと一週間くらいで終わるだろう」

 その言葉に、焔は疑わしそうな目を向ける。

「……本当にあんたを信じて良いの?」

「信じなければその幼い巫女を人身御供にするだけだ。違うか?」

「うっ……」

 言葉に詰まる焔の背中を軽く叩き、巌がにやりと笑う。

「何! たとえこいつが何かを企んでいても、悪霊の大長おおおさは討ってある! 大した事はできんさ!」

「そのタフそうな男の言う通りだ」

 巌に頷く凛からかばうように、錘が空の手を引く。

「では空様。任せて戻るのでぇす」

「そうしてくれ。その子は巫女の因縁などに縛られず、幸せに生きるべきだ」

「……?」

 その言葉に、樹が何か引っかかったような表情を浮かべる。

「……ねえ君、どこかで会った事ないか? 名前を聞かせてほしいんだけど……」

「会うのは今日が初めてで最後だ。教える必要はない」

「……そうか。ではまいりましょう空様」

「はい、あの、ありがとうございます!」

 大きくお辞儀をする空に、凛は背を向ける。

「……幸せにな」

 聞こえないよう心から祈ると、凛は稀刃と風穴へと消えていった……。


『なあ、あれで本当に良かったのか? あの霊具でお前の記憶は誰の中にも残らねえんだろ?』

「ああ」

『ここにいるお前は見ず知らずの霊具使いで、あいつらは巫女さんが人身御供にならなくて良かった、くらいにしか思わねえんだろ?』

「それでいい」

『誰もお前を覚えていねえって、寂しくねえのか?』

「空が幸せでいられるなら、それが全てさ」

『はー、お前も難儀な奴だねえ』

「お前こそ良かったのか稀刃。もはや俺にも『うつろ』にも縛られる必要はあるまい」

『俺様は四百年刀に封じられていたんだぜ? こういうとこの方が落ち着くのさ』

「……ありがとう」

『けっ! 気持ち悪い事言うなよ!』


 * * * * * * * * * *


『……あれから大体十年ってとこか。なあ凛、何か集まってくる陰の気が減ってねえか?』

「そうだな。日本が平和になっている証だろう」

「それは少し違います」

『!?』

「誰だ!」

 風穴に響いた女の声に、稀刃と凛が驚いて顔を上げる。そこには、

『み、巫女さん……?』

「空……、なのか……?」

 成長した空が立っていた。

「何故、ここに……?」

「凛を連れ出しに来たのです」

「!? 俺を覚えているのか!?」

「ふふふ、昏淵くらぶち殿、小生しょうせいを出し抜こうなど百年早いのでぇす」

 空の後ろから錘がひょこっと顔を出した。

「小生は記憶消去の悪用に備えて、眼鏡に対策をしていたのでぇす。そしてこんな事もあろうかと作っておいた小生の記憶修復霊具で、皆さんの記憶も元に戻したのでぇす」

 得意げに胸を張る錘の後ろから、樹が姿を現した。

「でもそこで僕が君の覚悟を皆に伝えた。そこで悪霊の脅威を君が抑えてくれている間に、根本的解決を図る事にしたのさ」

 樹の言葉を焔が引き継ぐ。

「あんたの仲間をないがしろにする計画をぶっ潰してやろうと思ってね!」

「泣くほど悔しがってたもんね焔は。何で話してくれなかったのーって」

「い、言わないでよ樹!」

「はっはっは! あれは見ものだったな!」

「い、巌まで……!」

 焔の照れを巌が笑い飛ばす。

「そうして焔と樹が情報を集め、俺が全国を巡って材料を集め、空様と錘とで作ったのだ! この凛の代わりに『虚』を維持する霊具!」

「メカ淵28号なのでぇす!」

 巌が背から下ろした人形のようなものを、錘が誇らしげに紹介する。

『め、メカ淵28号……?』

「このメカ淵28号は、周囲の陰の気の量を感知して、『虚』の力を最適化するのでぇす! しかも『虚』が呑み込む陰の気から霊力を吸収して、半永久的に動くのでぇす!」

『そ、そんな事が『虚』なしでできたってえのか……?』

 稀刃の驚きに、樹が笑顔で答える。

「錘さんね、作っちゃったんだよ、『虚』を」

「……なん、だと……?」

 驚愕する凛の目の前に、錘が刀を取り出して見せる。

「特級霊具『虚』とはいえ、かつては誰かが作ったものでぇす! 誰かに作れて私に作れないわけがないのでぇす!」

「まあそれでも資料探しと材料集めでこれだけ時間はかかったけどね」

 焔が腰に手を当て、胸を張る。

「あんたが一人で全部背負い込む必要なんてなかったのよ馬鹿。これだけの仲間がいるんだから、皆で解決すればいいの。わかった?」

「……し、しかし……」

「往生際が悪いなあ。君の負けだよ凛」

「そうだぞ! 男は引き際が肝心だ! はっはっは!」

「このメカ淵君28号の性能試験は万全でぇす! ここに流れる陰の気はかなり目減りしていたはずでぇす!」

『そういう事だったのか! こりゃあ凛、どう転んでも勝ち目はねえな!』

「う……」

 焔に続き、樹、巌、錘、そして稀刃にまで言われ、たじろぐ凛の手を空が握る。

「私も大人になりました。これからは守られるばかりではなく、凛と共に生きていたいのです」

「空……」

「自分を削り、喰い潰しながら私のために戦う刃ではなく、昏淵凛という一人の男性として、私の側にいてくれませんか……?」

「……!」

 凛の目から涙があふれた。

「……この命全て、あなたのために……!」

 それは空に仕える時に言った言葉と同じもの。

 しかし今の言葉にはそれとは全く異なる強い意志が宿っていた……。



 『身喰いの刃』 完




「うわ、やばいな俺……!」


 自分の書いた小説で涙ぐんでどうするって話だよ……。

 でも会心の出来だ!

 投稿して、一から読み直してみたけど、このクライマックスはやばい!

 人がどう思うかはわからないけど、俺は自分でもう一度読みたいって思えるレベルで書き上げられた!

 そして読んで感動できた!

 今はそれで満足だ!

 さてホームに戻って……。


「え、感想……?」


 こんなに早く、誰だろう……?


「!」



差出人:ハシビロコウ


 完結お疲れ様。

 一旦メリーバッドエンドかと見せかけてのハッピーエンド。

 いいラストだった。

 面白かったよ。



「こんなの、ずるいだろ……!」


 捨てたノート。

 メッセージでの呼び出し。

 続きの要望。

 色々なアドバイス。

 へこんだ時のフォロー。

 色んな記憶が一気に思い出されて、ただでさえ涙腺の緩くなっていた俺は、二度目の涙に濡れる事になったのだった……。

読了ありがとうございます。


完結に寄せていただく感想は、喜びもひとしおです。

嬉しさのあまり涙ぐんでも、誰も責められませんよね。


次回『書くは独り 読むは一人』最終話です。

よろしくお願いします。


この物語はフィクションです。

実際に最終話に感想を送っても涙ぐむとは限りません。

……本当ですってば。

(「・ω・)「 シャー

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― 新着の感想 ―
[良い点] 完結お疲れ様でした。 どちらも素敵なラストでした。 最後のこれまでの事が思い出されるシーン、永太くんと一緒に泣いてしまいそうなくらい胸が熱くなってうるっときました。 読ませていただき…
[良い点] 身喰いの刃、完結おめでとうございます。 一度、結局そうなってしまったかと思わせておいてからの大団円、凄く素敵でした。 私もうるっとしました。 外伝として凛と空のその後や、みんなの日常パート…
[一言] 「こんなこともあろうかと」 真田さ~~~ん!! てっちん28号(;´д⊂)
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