第十八話 きっと君なら完結させられる
『身喰いの刃』完結に向けて悩み苦しむ永太。
何か思い付かないかと、前の話を読み返そうとしたら……?
どうぞお楽しみください。
「ば、馬鹿な! 我が怨恨連がこんなにあっさり……! 『全の気』の巫女の目覚めはまだのはず……!」
悪霊の大長は、長年に渡って集めた悪霊達が容易く破られた事に驚愕を隠さずにいた。
「終わりだ。覚悟しろ」
凛の言葉に、大長は悔しげに叫ぶ。
「くそお! 先代巫女が無に帰し、新たな巫女が力に目覚めて人身御供になる前にこの世界を陰に染め上げるはずだったのに!」
「何い!? 人身御供だと!?」
「ど、どういう事よ! 空様を悪霊を封じるための生贄に……!?」
「そ、そんな事許されないのでぇす!」
「……わ、私、力に目覚めたら、普通に生きられるのではなかったのですか……?」
大長の言葉に、動揺が走る。
「何だあ? 貴様等知らなかったのか!? そいつはおめでたい事だ! 四百年前にも……」
大長が得意げに語り出したその瞬間、
「重薬弾」
樹の放った、極限まで気を溜めた神木の弾丸が、大長の核を貫いた。
「が、があ……」
塵となって消えていく大長に、巌が声を上げる。
「樹! 何故撃った!?」
「嫌だなぁ巌さん。そいつは空様を食って世界を陰に染めようとしていた悪霊だよ? 倒して何が悪いのさ?」
「うっ……」
樹の言葉に、巌は言葉を失った。
「で、でも今の話は最後まで……」
「おやおや、焔さんともあろう方が、敵の戯言に耳を貸すの?」
「……」
焔には返す言葉もない。
「……種森殿は空様の人身御供について、既に何か知っているのでぇすか?」
「僕は死に際に僕達を惑わせようとする大長を始末しただけさ。それとも錘さん、僕に何かおかしなところがあるかい?」
「……な、ないのでぇす」
「んじゃ帰ろうか」
反論が止んだところで、樹は踵を返した。
「凛……。樹は何故あのような事を……?」
「……わかりません」
不安げな空に、凛は一言そう言うと、ただその背を見つめる事しかできなかった……。
「……何故撃った樹。これではお前が皆から不信感を持たれるではないか」
「あの場で君が口を封じてたら、『虚』の解放と繋がって、全部がバレていた可能性があった。そうなったら空様や皆がどう出るか読めないからね」
「……それは、そうかも知れないが……」
「まあこれで僕が人身御供について知っているという事実が生まれたから、これを生かして上から風穴の場所と儀式について聞いておくよ」
「……済まない」
「任せてよ。相棒」
これでいける、か……?
人身御供の事を皆が知りつつ樹を協力者にして、凛から目を逸らさせれば、最後まで凛の意図は秘密にできる。
そして案内された風穴で全てを明かし、凛は『虚』と共にそこに残り、空は涙と共に去る……。
……あー、でも記憶を消す霊具の伏線が残ったままかー。
ならそこでどうしても嫌だと抵抗する空の記憶を消して……。
いや、そうなったら焔や巌も錘も納得しそうにないなぁ……。
となるとやっぱり樹以外の記憶を消すか……?
でも樹は「自分からバレたら困るから」って、きっと凛に記憶を消させるよなぁ……。
やっぱり無理があるのかなぁ……。
「んぐぐ……」
そうだ! 今までの話を読んだら何か思い付くかも!
設定資料も読み返して……。
「ん……?」
あ、メッセージが来てる……。
前のキツい感想があってから、通知を見ると一瞬ぎくっとするんだよなぁ……。
批判的なメッセージを覚悟して……!
「え、あ……!」
差出人:ハシビロコウ
え、これって遠藤の……!?
こんばんは山梨君。
執筆の具合はどうだろうか。
きっと最後の大詰め、悩みも少なくないだろう。
書いた事のない私にはわからない悩みだ。
でもきっと君なら完結させられる。
無理せず頑張ってくれ。
「くあ〜!」
いつもの淡々とした感じだけど、めちゃくちゃ嬉しい!
遠藤に言われたら、どうにも終わりそうになかった結末が書けそうな気がしてくる!
俺はもう一度書きかけの小説を開いた。
「あ……!」
そこに宝石のようなアイディアが見えた気がした……!
読了ありがとうございます。
苦境の中、心に響く応援……。
これは勝ち確ですわ……。
これで残り二話、万が一筆が暴れても三話で完結できそうです。
最後までお付き合いいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。