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第十七話 山梨君は別にプロではないんだから

クライマックスに向けた要素を着々とクリアしていく永太。

そうして手の届くところに来たラストに、思うところがあるようで……。


どうぞお楽しみください。

「まさかこれ程までとは……」

 いつきはようやく声を絞り出した。

「強くなるって言ってたけど、ここまでだなんて……」

 ほむらはいつもの強気は影もなく、呆然と悪霊の消えた戦場を見つめる。

「これはすごい! そら様もこれで安心ですな!」

「は、はい!」

 いわおの声でようやく我に返った空が、先生に呼ばれた生徒のように返事をする。

「おおお仕組み仕組み仕組みを知りたいのでぇす呑み込まれた悪霊はどこに消えたのでぇすかそもそもあの闇はどういう原理なのでぇすか他の霊具で再現できるのでぇすか研究研究研究したいのでぇす!」

 すいは目を血走らせてりんの腰の『うつろ』を見つめる。

「これが『虚』だ。この力なら空の覚醒を待たずして怨恨連おんこんれんを壊滅させられる」

「確かに! そうすればこの常に襲撃に警戒する状況を打破できるな!」

「そうすれば空様も普通の女の子として、学校に行ったり友達を作ったりできるって事ね!」

「わ、私が、学校に……? 友達も……?」

 巌と焔の言葉に、空が驚きと喜びを顔に広げる。

「……良かったですね、空様」

 樹は笑みを浮かべて頷く。

「そんな事より研究なのでぇす隅から隅まで研究し尽くして量産すれば悪霊は根から断つ事ができるのでぇすそのためにも研究研究研究させるのでぇす!」

「お、おい釣鐘つりがね、よせ」

「もうもう我慢できないのでぇすさあその霊具を寄越すのでぇす!」

「わ、待、うわっ」

「むむむ避けるというのならこの簡易式神が輝く瞬間でぇす! 昏淵くらぶち殿、覚悟でぇす!」

「おお! あの冷静沈着な凛が圧倒されているとは!」

「あいつにとっては悪霊より錘の方が怖そうね」

「あ、あの、錘、落ち着いて……!」

「……」

 そんなドタバタと笑いの喧騒を聞きながら、樹は一人、悲しそうな目を向けているのであった……。




 ……あ〜、やばい。しんどくなってきた……。

 この後凛達は悪霊の組織である怨恨連に最後の戦いを挑む。

 そして勝利後、凛は錘に作らせた霊具で皆の中から自分の記憶を消して、一人風穴で『虚』に陰の気を吸わせ続ける。

 ……なんだけど、自分で書いてて可哀想になってくる!

 凛もそうだけど、記憶を消されて何か欠けたような気持ちを抱えたまま生きる仲間達が……!

 せめて空にだけは覚えていてもらおうか……。

 いや、でもそうしたら空の性格からして、凛を救いに行くよなぁ。

 そうしたら凛の覚悟は台無しだし、話も終わらない。


「んがぁ〜!」


 何で決まったラストに持って行くだけなのに、こんなにしんどいんだ!?

 あぁ、終わらせたくない……!

 ずっと空を守る五人と悪霊とを戦わせ続けたい!

 でももう『虚』は解放してしまった。

 空が『全の気』で浄化の力に目覚める兆候も書いてるから、凛がこれまでの日常に戻る事はない。


「……約束、だもんな……」


 遠藤えんどうがいなかったら、物語が終わってしまう怖さと、凛達の未来を確定しなきゃいけないプレッシャーに、書けなくなっていたかもしれない。

 俺は深呼吸一つして、次の話を書き始めた。




「やぁ山梨やまなし君。昨日は更新お疲れ様。いよいよ佳境だね」

「あ、あぁ、そうだな……」

「浮かない顔だな。何か悩んでいるのか?」

「ま、まぁな」

「聞かせてもらえるか?」

「う、う〜ん……」


 遠藤の申し出に、俺は唸り声を上げる。

 正直自分の気持ちがまとまらないので、話だけでも聞いてほしい。

 でも完結を望んでる遠藤に、終わらせるのにマイナスな気持ちを持ってる事を話してもいいものだろうか?


「私はエスパーではないから、君が言葉にしてくれないと何に悩んでいるのかはわからない」

「……うん。でも、これは言ったところでどうしようもないし……」


 遠藤は「ちゃんと完結させてほしい。そのために協力してきたんだ」と言うだろうしなぁ……。


「どうしようもないかどうかは、言ってみないと分からない。話を聞いて、無理なら無理と言うよ」

「!」

「だができる事なら協力したい。だから駄目元で話してみてくれないか?」

「……ありがとう」


 俺は完結させる事に対する悩みを打ち明けた。

 当初考えていた展開が、自分の中で辛くなっている事。

 しかし変えようとしたら話が終わりそうにない事。

 それならいっそ完結させないままにしてしまいたい気持ちさえある事。

 遠藤はじっと聞いていてくれた。


「……悪い。これまで色々応援されてるのに、何言ってんだって感じだよな」


 全部を吐き出した俺は、何となくすっきりした気持ちになっていた。

 何にでも終わりはある。別れがある。

 俺はちゃんとこの物語を終わらせよう。


「大丈夫、ちゃんと予定通りに終わらせるよ。待たせるのも悪いしな」

「ちょっと待ってほしい」


 え、何だろ。

 話の筋には口出さないって言っていた遠藤が、何を……?


「君自身がそのラストに納得していないなら、今から練り直せば良いのではないか?」

「え、あ、いや、でも今からってなると……。全く他の展開は思い付いてないから、すごく待たせるかもしれないし……」

「私は構わない」

「その、話の整合性とかめちゃくちゃになるかもしれないし……」

「今更ではないか?」

「うぐっ」


 そ、それはそうだけどさぁ!


「予定していたラストに抵抗を感じるなら、それは一番の読者である山梨君が納得しないという事だ」

「う、た、確かに……」


 このままだと後から読み返すのも辛くなるよな……。


「ならば納得するまで練り直せば良い。山梨君は別にプロではないんだから、締め切りがある訳でも、誰かに不利益を与える訳でもない。自分の感覚を大事にしてほしい」

「……!」


 いつかは自分の書いた物語が本になってほしい。

 ゆくゆくはプロの作家になりたい。

 そう思っている。

 そんな俺が、その言葉に救われていいのだろうか……。

 甘えてもいいのだろうか……。


「……その結果どうしようもなくなって、完結できなくなったら……」

「山梨君なら大丈夫だろう。ちゃんとした結末のために心から悩める山梨君が、凛や空の未来を無責任に放り投げる事はないと思っている」

「……ありがとう。ちょっと間が空くかもしれないし、またしょうもない事相談に来るかもしれないけど、納得いくまで考えてみる!」

「あぁ、楽しみにしている」


 図書室に行く前の、完結に対するネガティブな気持ちは消えた。

 どうすれば俺が納得する結末にできるか、とにかく考え抜こう!

 凛や空、樹に焔、錘と巌、それ以外にも『身喰いの刃』を形作る全てに救いがあるような、そんな結末を!

読了ありがとうございます。


いくつか頭の中にある物語の選択肢。

どれかを選べば他の選択肢は消えてなくなります。

何を捨てるのかを決めるのは辛いものです。

その困難を乗り越えて完結まで導くのですから、多少時間がかかっても暖かく見守りたいなと思いますね。


ね?


この作品は後書きも含めてフィクションです。

実際の作者の完結に対する考え、怯え、それでも頑張る根性とは関係ありません。


これでよし。


この話もまもなく完結です。

どうぞ軽い気持ちでお待ちください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作品のラストに向けて、いよいよ大詰めになって来ましたね。 そのラストについて納得いかないと思い悩む山梨くん。 自分の作ったお話に対して真摯だからこそ、深く悩む姿は好感が持てますね。 そして…
[一言] もう少しで身喰いの刃も完結か…。 選択肢で迷うこともよくあります。 そして、完結させると寂しいのも。 そういうときは、番外編でも書けばいいのかな? まあ、完結させたことはまだないけど、未来を…
[一言] 「しょうがねーな、こんな時のために奥の手を使う」 「奥の手?」 「そう、足を使うんだ」 「足を?」 「逃げるんだよ~~≡≡≡ヘ(*--)ノ」 一端、現実逃避して解決策を探すのもあり…
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