第十四話 恥じ入る事がないなら堂々としていれば良い
ターニングポイントに感想が付かなかった事に、不安を抱えていた永太。
結の言葉に気持ちを立て直し、続きを書き進めるが……?
どうぞお楽しみください。
「どうだ?」
大型の悪霊を斬った凛は、手に握った魔牙月の中の稀刃に問いかける。
『……全然足りねぇ……。このままだと出ようとした瞬間『虚』に呑まれるな……』
「それ程までに『虚』は強力なのか」
『……ああ。今までの俺様が一振りで十の悪霊を喰らうなら、『虚』は一振りで万の悪霊を呑み込む……』
稀刃の言葉に、凛は息を呑む。
「……それ程までに」
『……だからこそ『全の気』を持つ巫女に匹敵する陰の気を呑み込み、祓う事ができる……』
「そうか」
『……だがその時お前は』
「理解している。覚悟も、な」
『……ならいい……。とりあえずお前からは霊力を喰わねぇから、早いとこ強い霊力を喰わせる事だな……』
「無論だ」
答えた凛は、魔牙月を鞘に収めた。
……あれ?
設定では稀刃は凶悪な人斬りで、死後魂になっても辻斬りを繰り返して封じられた悪霊の設定だったのに、何かいい奴っぽくなってないか?
……それならそれでいいかもな。
巫女の人身御供に反対して『虚』を持ち出して、制御に失敗して虚の中に……。
おぉ、いい感じじゃんか!
この話を投稿して、次に稀刃の過去とかを入れて、そうすれば凛に協力する気になった理由付けにもなる!
よし! 投稿して続きを書こう!
「やぁ山梨君。昨日は投稿お疲れ様」
「お、おう、ありがとな遠藤。で、相談なんだけど……」
「何だい?」
「いや、これなんだけど……」
俺は遠藤に『作家ぁしようぜ!』の感想ページを見せる。
差出人:夜夢像 角蔵
稀刃は良い奴だな。
きっと生前、巫女の人身御供に思うところがあったのだろう。
虚に封じられたのもその関係でだろうか?
彼(性別は明示されてないから彼女かも?)の協力で、空の人身御供が防がれるのが期待されるが、何か凛にもリスクが伴いそうな気もする。
「ふむ……。ほう、なかなか読み込んでいる良い感想じゃないか」
いや、そうなんだけど。嬉しいんだけど。
「これな、俺が昨日投稿前に読み直して、思い付いた展開とそっくりなんだよ……」
そう言って、俺は昨日途中まで書いた原稿を遠藤に渡す。
「どれ……」
遠藤の読むスピードは相変わらず早い。
あっという間に読み終わった遠藤は、ふむ、と息を吐いた。
「確か稀刃は元の設定では、凶悪な人斬りで悪霊化して、切り札の『虚』を使っても消滅させられなかった魂だったな」
「あぁ……、うん……。でも書いてるうちに、いい奴っぽいなって思って、こんな過去はどうかなって思ったんだ」
「成程。それで相談とは何だ?」
「えっ」
あれ? 伝わってない?
「だ、だから、これ、感想とそっくりだからどうしようかと……」
「……あぁ、感想と変えようとした話の方向性が似通っているから、元のままで行くか、変えるかで迷っているのか」
「う、うん……」
「ならば山梨君のしたいようにすれば良い」
したいようにって、そうするとパクリって思われるんじゃ……。
「山梨君の書いた内容からこの感想の人が予想できたのは、この人がしっかりと読み込んでいる事、そして、山梨君の表現力の賜物だ」
「え……?」
ひょ、表現力!? まさか!
で、でも書こうとしてる事が伝わったって事は、そういう事なのか……?
「読者が先の展開の予想するのは、それだけその作品を楽しみ、続きに期待しているからこそだ。たとえそれと重なったからといって、怒ったり責めたりはしないだろう」
「そ、そうかな……」
やばい! 顔がにやける!
そんなに俺の作品が人の心に響くなんて!
「予想を裏切りたい、先読みされたくない気持ちも分かるが、それを突き詰めると理不尽な展開や、繋がらない伏線の山ができる」
「確かに伏線って、どこかで気付かれないと意味ないもんな……」
「まぁ今回は偶然の産物のようだが」
……はい、ごめんなさい……。
「恥じ入る事がないなら堂々としていれば良い。この物語において、山梨君以上のアドバンテージを持っている人なんていないのだから」
「そ……」
そうだな、と言おうとして、喉が詰まる。
遠藤の方が強くね……?
「ともあれ稀刃を協力的な立場にするのを山梨君が望むなら、私が反対する理由はないよ」
「あ、ありがとう……」
毎度毎度、俺の執筆の壁は遠藤が打破してくれる。
俺はそれに応えるべく、完結に向けて書き続けている。
……それだけでいいのかな。
もっとできる事が何かあるんじゃないかな……。
「続きを楽しみにしているよ」
「あ、あぁ……」
いや、とりあえず書き進めよう。
完結のその先に何があるのか、それはそこに行かなければわからない。
ならば行ってから考えればいい。
今の俺にできるのはきっとそれだけだから。
読了ありがとうございます。
この物語はフィクションです。
フィクションですが、私は感想からもらったアイディアや続き予想に何度も助けられています。
いつもありがとうございます。
今後もよろしくお願いいたします。
これでよし。
先の展開を読まれる事は、書き手としては悔しいようで嬉しいものです。
……名前でネタバレした中華風ファンタジー?
そんな失敗もあったなと、いつか笑える日が来るはず……(震え声)。
次話もよろしくお願いいたします。