第十二話 山梨君は性に対して臆病だな
辛辣な言葉から立ち直り、決意を新たに筆を執る永太。
筆は乗るものの、それはそれで新たな悩みも生まれるようで……。
どうぞお楽しみください。
その時、焔の脇から手が現れた。
「きゃあ!」
「おぉやおや、また大きくなったのではないでぇすか?」
焔の胸を掴んだ手の主が、焔の肩から顔を出した。爆発したような広がりの白い髪と、瓶底のような眼鏡。
「錘! あんた、何、して……!」
「これでは霊弓『烈火』を扱いづらいのではないでぇすか? 小生がボウガン型に改造しますでぇすよ?」
錘の拘束を振り払った焔が、口から火でも吐きそうな勢いで叫ぶ。
「あんた隙あらば霊具を魔改造しようとするのやめなさい! それとセクハラ! 女同士だってしていい事といけない事の区別くらいあるでしょう!?」
「成程、では何までならして良いのか教えてもらえるでぇすか?」
「な、何までならって……!」
焔の顔の赤が、怒りから羞恥の色に変わる。
「霊具士としては、できる限り性能の良いものにしていきたいのでぇすが」
「え? あ、そ、そう、そっちの話……」
拍子抜けした顔をする焔に、錘は首を傾げる。
「そっちの話という事は、焔さぁんは何の話だと思ったのでぇすか?」
「うるさい!」
焔の顔が再び朱に染まった。
勢いで書いちゃったけど、これ、大丈夫かな……。
他の小説でもこれくらいのスキンシップは書かれてるし、何なら少年漫画だってこういうシーンあるし……。
歳の近い男である凛や樹に対しては当たりが強いけど、歳の離れた巌や、女同士の空、錘とは打ち解けてる感じを出したいし……。
とはいえ胸を揉む必要はないかなぁ……。
『安易にエロに走ってんじゃねーよ』とか書かれないかなぁ……。
でもこのやり取りをなしにすると、霊具を魔改造したがるネタを改めて考えないといけないし……。
エロい奴だと思われたらどうしよう……。
うううぅぅぅ……。
「山梨君は性に対して臆病だな」
「ふんぐっ」
読み終わった遠藤に心配事を告げたらばっさり切られて、俺は変な声を抑える事ができなかった。
しょうがないだろ!
多感な男子高校生なんだぞ!
「まぁこれは君が悪い訳ではない。世間が性に関するものを『隠すべきもの』として扱い、詳らかにする事を『悪』とする風潮があるからな」
「つま、び……? あ、あぁ、うん、そ、そうだよな」
『オープンにする』とか、そんな意味だよな。多分。
「不思議だとは思わないか? 私達はその行為の果てに生まれているのに、世間はそれを良くないものとして扱う」
「そ、それは、その、は、恥ずかしかったりするわけで……」
「恥とは隠す段階で生まれるものだ。私は別に意図があると思う」
別の、意図……?
「勿論欲望のままに後先を考えず身体を重ねる事は危険な行為であるから、性に対する興味関心をいたずらに煽る事は適切でないのもわかる」
「え、あ、うん……」
「だが少子化だ晩婚化だと言う割に、性の隠匿はなされたままだ。このままでは国が滅びる危機だ。それでもなお性が害とされるなら、それは国を害すると同じ事だ」
どうしたんだ遠藤!?
小説のちょいエロ展開の話が、国の存亡とかになってきたぞ!?
「つまり性表現を過剰に制限する者達は、国を滅ぼそうとする敵も同然。山梨君は国を守る義士として臆する事なく、表現の剣でそれに立ち向かえば良いのだ」
遠藤らしくない、芝居がかった言葉と動き。
……これってもしかして……。
「……つまりこの展開に文句を言ってくる奴は国の敵だと」
「そうだ」
「だから気にせず投稿しろと」
「勿論山梨君が内容に納得していないなら、無理に勧めはしないけどな」
……やっぱり応援してくれているのか。
俺が前に否定的な感想でへこんだから、それを見越して陰謀論まで展開して……。
「……ありがとな。では! これから国の敵と一戦交えてくるであります!」
「武運を祈る」
「ははっ!」
敬礼のやり取りなんかして、俺は図書室を出た。
遠藤の陰謀の話は勿論冗談だろう。
でも俺は自分の作品の世界を守るためには、戦う覚悟がいると教わった気がしていた。
読了ありがとうございます。
この物語はフィクションなんだからねっ!
実際の作者の主義主張とか陰謀論とかとは関係ないんだからねっ!
メインは永太の戦う決意なんだからねっ!
勘違いしないでよねっ!
これでよし。
でも過剰に隠すのもどうかと思うけど、全年齢作品で無闇にえっちなのはいけないと思います!
これでよし。
……よしだよな?
反応に震えつつ、次話もよろしくお願いいたします。