第十一話 何故嫌いな人の意見を聞こうとするんだ?
難産の末、新キャラ・巌の話を投稿した永太。
しかしその話を快く思わない者もいるようで……。
どうぞお楽しみください。
「な、何だよこれ……」
新たに来た感想。
心うきうき開いたのがまずかった……。
差出人:このユーザーの名前はまだないぜ!
つまらん上に筋肉で笑いを取ろうとする辺りに救いがない。
とっとと筆を折る事をおすすめする。
……心が真っ黒に塗り潰される気がした。
今までの全てが否定された……。
何もできず、パソコンの電源を落とし、ベッドに横になった。
あぁ、もう何もしたくない……。
何も考えられない……。
それでも朝は来るもんだ。
寝て起きて、少しは気持ちが落ち着きはしたけど、重い石みたいなものが腹の奥に残っている。
……学校休みたい……。
でも何となく着替えて支度しちゃうんだから、慣れってすごいな……。
重い身体を引きずって、とりあえず学校に向かった。
「やぁ、山梨君。また今日は随分と顔色が悪いな」
「……ちょっとな……」
何でだろう。
相談する事もないのに、放課後俺の足は図書室に向いていた。
「……」
「どうしたんだ?」
「いや……」
入口に立ったまま、俺の身体は動かない。
中に入るでもなく、帰るでもなく、固まったままだ。
一体どうなってるんだ俺の身体は……。
「……何かあったんだな」
「……いや……」
あったにはあったけど、それを言ったところでどうするっていうんだ。
『嫌な感想を言われたけどどうしよう』とでも言うのか?
子どもか俺は!
そんなの自分で乗り越えるしかないだろうに!
「ここに座ってくれ」
「え?」
「入口に立たれていると、他の利用者が来た時に邪魔になるからな」
「……うん」
言われるまま、素直にカウンターの中に入って座る。
他に利用者なんていた事ないけどな……。
「さて、何があったか話してくれないか?」
「……別に何も……」
「それは『言いたくないけど心配だけはしてほしい』という事かな」
「そ、そういうわけじゃ、ない、けど……」
「落ち込んだ顔をして、理由を聞いても言わないで、心配するなと言う方が無理だろう」
「う……」
それはそうか……。
考えてみたら、今の俺相当な構ってちゃんだな……。
「私の好きな言葉に『心配かけるな迷惑かけろ』と言うのがある」
「え? 『迷惑かけるな』じゃないのか?」
「周りの人からすると、迷惑は手間だったり大変だったりするが、解決のために何かができる。その分気持ちは楽だ」
「う、うん……」
「心配はストレスだけで何もできない。相手の心の負担を考えたら、隠さず話して力を借りる方が良い、そういう話だ」
「……!」
「だから山梨君の落ち込む理由を聞かせてほしい。聞けば私にできる事があるかもしれない」
……いい、のか?
こんな情けない悩みを吐き出しても……。
……でも顔や態度に出した以上、今更『何もありません』じゃ通らないよな……。
「……あの、さ……。昨日もらった感想に、『つまらない。筆を折れ』って書かれてさ……」
「うん」
「それがショックで……」
「うん」
「……えっと、その、それだけなんだけど……」
「そうか」
は、反応がない……!
慰めてもくれないし、『そんな事で落ち込むな』と叱るわけでもない。
何か携帯見始めたし、俺の悩みって馬鹿みたいなのかな……。
「あぁ、これか。ユーザー名登録もなし。内容もただ文句を言いたいだけで内容がない。典型的な荒らしだな」
「え?」
「大して読み込んでいないのが丸わかりだ。改善点も示さない全否定など聞く価値すらない。放置しておけば良い」
「いや、でも、お、面白くないって思われたのは事実だし……」
「ならばもう一度自分で読んで、面白くないと感じるなら改善すれば良い。自分は面白いと感じるならそれで良い。その感想の人とは感性が違うのだろう」
「そ、それでいいのかな……?」
確かに自分では面白いと思ったから投稿してるわけだけど……。
「山梨君はその感想の主を好きだったり尊敬したりしているのか?」
「え、そ、そんなわけないだろ……。初めてでいきなりこんな事書く奴、好きになったり尊敬できるわけがない……」
「なら何故嫌いな人の意見を聞こうとするんだ? しかも特に有益でもない意見を」
「え、あ、うん……」
確かにこいつの意見なんて、聞く必要ないよな……。
「この感想の人は嫌いな作品を読んで、わざわざ感想で文句を書くという、変わったタイプの人間だ。話のネタにするならともかく、いちいち関わる必要もないだろう」
「……」
胸の中の石が、指の先サイズの小石になった気がする……。
そうだ、前にも遠藤に、『感想に振り回されるな』って教えてもらったのに……。
まだまだだな、俺って。
「それにほら、新しい感想も来ている」
「え?」
慌てて携帯から『作家ぁしようぜ!』を開く。
! 確かに感想が、三件!?
差出人:夜夢像 角蔵
マッチョの霊能力者がいても良い。
自由とはそういう事だ。
勿論完結を待たずに『つまらん』と断ずるも自由。
ただこれから面白くなる可能性を、私は感じている。
何て暖かいフォロー! すごく嬉しい!
……あれ? でも遠回しに『今は面白くない』って言われてる……?
いや! それでも先を楽しみにしてくれてるんだから、全然いい!
差出人:猫の手も借りたいにゃんこ
江田谷先生
私は巌の男らしい感じ、重騎士みたいで好きです!
前回の焔もクールな女騎士って感じが素敵です!
これからも楽しみにしています!
この人、相変わらずだなぁ……。
でも焔も巌も気に入ってくれているのか。
変に筋を変えなくてよかった……!
差出人:長橈側手根伸筋
やはり筋肉……!
筋肉は全てを解決する……!
……この人は単に筋肉好きなのかな……。
でも巌を応援してくれている、……のか?
「否定の言葉は大きく聞こえるが、それは脳が『攻撃』と誤認して防御しようとするから、という説がある。誤認だとしたら、忘れても差し支えないだろう」
「……うん」
遠藤の言う通りだ。
大事にするべきは、否定じゃなく応援の言葉だ。
何より遠藤に完結を約束してる以上、ここで筆を折るなんて、できるわけがない!
「ありがとな。元気出た」
「それは良かった。今後も執筆の差し障りになりそうな事があったら、遠慮なく相談してほしい」
「……頼む」
さぁ、続きを書こう!
頭の中では新キャラ・錘の物語が、早く生まれたいとうごめいていた。
読了ありがとうございます。
この物語はフィクションです。
実際の感想とは関係ありません。
本当に全く全然完璧関係ありません。
こんなの書かれてたら、今頃真っ白な灰になってますからね……。
ここまで書く人は流石に見た事はありませんが、時折「成長を期待しての苦言」を呈する方をお見かけします。
しかし木を育てるために根本を叩っ切る植木屋さんはいませんよね。
褒めて伸ばしてちょっと枝先を整えるくらいの優しい剪定が、木を生かすって事だと思うんですよね。
とあるメンタルよわよわ物書きがそんな事言ってました。
……生暖かい目で頷くのは勘弁していただきたい。
次話もよろしくお願いいたします。