第十話 限界を超えて強くなれるのは物語の中だけだ
新キャラを登場させ、勢いに乗る永太。
と思いきや、話が出ず苦しむ事も当然あり……。
どうぞお楽しみください。
「うぬぬ……」
パソコンの前で唸るが、どうしても話が思い付かない。
次の新キャラ、土壁巌を、どう登場させたらいいのか……。
巌はその名の通りいわゆる壁役だから、焔みたいな敵を撃破みたいな派手な登場は合わない。
かといって、空のピンチに盾になる的な展開だと、凛や樹が何してたんだってなるし、かばえるくらい近くにいて、出てこない理由がない。
「……これは相談できないしなぁ……」
遠藤なら何かいい解決策を知ってる気がするけど、きっとそれは教えてくれないだろう。
『私は山梨君の作品を変えたくはない』
前の大人数での会話のコツですら、口出ししすぎかと言い渋るくらいだもんな……。
とにかく自力で巌の活躍の場面を考えないと!
「やぁ山梨君。随分と疲れている様子だが、何かあったのか?」
「……ちょっと、寝不足で……」
……結局あの後いいアイディアが出ず、諦めてベッドに入った途端「あ!」と閃いて書き出すけどすぐ行き詰まり、諦めて寝ようとするとまた閃く。
まるでピンポンダッシュ……。
「もしかして遅くまで話を書いていたのかい?」
「あぁ、まぁ……」
何でもいい! 何かヒントをくれ!
「それは良くない。休む時は休むべきだ」
……ですよね。
わかっちゃいたけど……。
「人間の脳は良く出来ていて、考え詰めた事が風呂や布団でリラックスした際に整理されて、良い案が浮かぶそうだ」
「え……、あ……!」
あのベッドに入るたびに思い浮かんだのはそれか!
ちゃんと寝たら形になったのかな……。
「限界を超えて強くなれるのは物語の中だけだ。実際の人は休んだ方がパフォーマンスが上がる」
「う、確かに……」
「だから山梨君も行き詰まってしまったら、執筆以外の事もすると良い。山梨君の豊かさが作品の世界を豊かにするのだから」
「……わかった。ありがとう。少し間が空くかもしれないけど、いいかな?」
「完結する意思があるなら私は待つよ」
「……ありがとう」
早く完結させなきゃって、俺焦っていたのかな……。
よーし、そうと決まったら久しぶりにゲームでも……。
「あ!」
「どうした?」
「思い付いた! 新しい話! これならいける!」
「それは良かった」
「悪い! 忘れないうちに書いてくる!」
「あぁ。楽しみにしているが、車には気を付けてな」
「そ、そうだな。わかった。じゃあな!」
遠藤の言葉に、少し気持ちが落ち着く。
そうだよな。
浮かれて事故なんてシャレにならないよな。
そう思いながらも頭の中に流れる巌の活躍シーンに、胸が躍るのを止められなかった。
「……わ、いっぱい……」
祠を取り巻く悪霊の群れの前で、絶句する空。
「無駄な足掻きを……」
「いや、そう馬鹿にしたものでもない」
吐き捨てるような凛の言葉に、樹が首を振る。
「あいつらは聖なる力を蓄えた宝珠に触れる事はできない。でも納めている祠に近づけさせなければ、空様の力を増す事もない。というのは表向きで」
「表向き、ですか?」
「えぇ。僕か凛が宝珠を取るために空様から離れた隙に、別働隊が攻撃を仕掛けて来るでしょう。これ見よがしな大仰な構えはそれを誘う罠かと」
「では一旦引くか?」
「いや、ベストな助っ人を呼んである。お、来たようだ」
樹の言葉通り、大きなバンが三人の前に止まり、
「空様ぁ! お呼びと聞いて参上致しましたぁ!」
大柄で筋骨隆々な男が、大声と共に飛び出して来た。
「巌! お久しぶりです。あなたが助っ人ですか?」
「はい! 祠の宝珠はお任せください!」
言うが早いか、巌は無造作に悪霊の群れの中に飛び込んだ。
荒れ狂う海のように襲い掛かる悪霊達。
「い、巌!」
「大丈夫だ空。巌は強い」
「『筋肉を鍛える事は精神を鍛える事だ』っていう理屈はよくわからないけど、巌さんの霊力の高さとタフさは確かに体格に比例してるんだよね」
悪霊の攻撃を物ともせず、泳ぐように祠に突き進む巌。
「む! これか! ありましたぞ空様!」
巌が掲げた光輝く宝珠に、悪霊達が失敗を悟り逃げていく。
「ありがとう巌!」
「何の何の!」
空の言葉に、巌はニカッと豪快な笑みを浮かべたのであった。
読了ありがとうございます。
話が出ないなんて日常茶飯事ですよ。
そんな時は、歩いたりお風呂に入ったりして、血行促進。
血の巡りが良くなるとネタも浮かぶ気がします。
そして筆が進むパロディ昔話。
……違うそうじゃない。
次話は来週月曜日投稿予定です。
よろしくお願いいたします。