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第一話 この話の続きが読みたいんだ

ネットで創作活動をしている人なら一度は感じたと思われる、『評価してもらえないなら辞めてしまいたい』から生まれた物語です。

人によっては「ぐへぇ」とか「うぬぬ」とか変な声が出るかもしれませんので、お読みになる際にはご注意ください。


お楽しみいただけましたら幸いです。

 必死に書いて完結させた作品に評価がつかない……。

 何が悪かった?

 何がいけなかった?

 ……いや、違うな。

 俺の実力なんてこんなもの……。

 何か人の心に残せると思っていたのがおこがましいんだ……。

 このネット小説界隈、面白いものなんていっぱいある……。

 もう嫌だ。

 何を書いたって、差を思い知らされるだけだ。

 こんな思いをするならいっそ……。


「……」


 携帯をしまい、これまでとこれからのネタが詰まったB6サイズのノートを取り出す。

 宝物を見つけたような気分で書き留めたネタの数々が、今はゴミみたいに見えた。

 持っているのも嫌になって、ゴミ箱に叩きつけるように捨てた。

 廊下に音が響いたが、どうせ校舎には誰もいやしない。

 俺の作品を読んでくれる人がいないように……。


「くそっ」


 自虐的な気持ちのまま、荷物を持って学校を後にした……。




 家に帰ってゲームをやっても気持ちは晴れなかった。

 頭の中では書きかけの『身喰いの刃』の事がぐるぐると回る。

 そうだよな。

 ネタノートを捨てたって、記憶まで消えるわけじゃない。

 未練を断つには、『作家ぁしようぜ!』を退会するしかない、か……。

 ……何でこんなに胸の奥が痛むんだ……?

 いや、どうせ一過性のものだ。

 消してしまえば諦めもつくさ。


「……ん? 何だ?」


 起動した『作家ぁしようぜ!』のトップ画面に、『お手紙来てるぜ!』の文字。

 珍しいな。運営からのメンテナンスのお知らせかな?


「……!」


 違う! ユーザーからのメッセージだ!

 初めてだ! 嬉しい!

 ユーザー名『ハシビロコウ』さんか……。

 な、何だろう、完結した『GEM』への感想かな!?

 震える手で開封ボタンを押す。



 江田谷 武梨様

 学校のゴミ箱で拾ったノートから貴方を知りました。

 お話したい事があるので、明日の放課後、図書室へお越しください。



 ……血の気が引いた。

 何で学校で捨てたんだよ俺!

 家で捨てりゃ良かったのに!

 どうしよう!

 誰が拾ったんだ!?

 陽キャか!? 不良か!? 先生か!?

 慌てて『ハシビロコウ』のユーザーページに飛んでみたけど、何の投稿もない!

 よりによって読み専かよ!

 情報が少なすぎる!

 一体何を言われるんだ……?

 今夜は眠れる気がしない……。




 ……放課後だ……。

 ろくに寝れなかったから、授業もほとんどうわの空……。

 とにかく話とやらを聞いて、ネタノートを返してもらおう。

 ……脅されたらどうしよう……。

 震えるな俺!

 ビビってると思われたらつけ込まれるぞ!


「……」


 そっと図書室の扉を開ける。

 どこだ……? どこにいるんだ……?

 部屋の中にはぱっと見誰もいないが……。


「誰かをお探しかい」

「!?」


 びっくりした!

 危うく叫ぶところだった!

 声のした方を見ると、貸出カウンターに人影!


「もしかして君、ハシビロコウをお探しかな」

「!」


 こいつか!

 こいつが俺のネタノートを拾った奴!

 ……何か想像と違うな……。

 小柄で、髪はばっさり短い女子だ。

 何となく眠そうに見えるぼやっとした目。

 うーん、覇気がなくて脅迫者って感じがしない……。


「……メッセージを送って来たのは君か……?」

「あぁ、そうだよ。よく来てくれた。このノート自体に名前は書いてないから、しらばっくれられたらどうしようかと思っていたんだ」


 ちくしょうその手があったか!

 どうせもう創作はやめるんだから、無視しておけば良かったのか!


「でも安心した。受け取りに来たという事は、まだ書き続ける意思があるという事なんだね」

「は?」

「私はこの話の続きが読みたいんだ」


 開かれたのは『身喰いの刃』の設定ページ!

 うわぁ! 人に見せられるのは何か辛い!


「母親から殺されかけて生きる意思である霊力を失った少年が、持ち手からも霊力を喰らう『凶刀きょうとう魔牙月まがつ』の適合者に選ばれる」


 やめて! 読み上げないで!


「世に蔓延る悪霊を祓う幼い巫女の護衛になって、悪霊と戦いながら少しずつ人の心を取り戻していくこの話、是非とも続きを読みたい」

「え、そんなに面白かった……?」


 四話まで投稿して全然評価がなかったから、更新する気が起きなくなってたけど、そんなに楽しみにしてくれるなら……。


「いや全然。つかみが全然弱いし、このネタノートがなかったら二話目は読みもしなかったと思う」

「……」


 ……あぁそうか。

 だから誰もポイントも感想もくれないのか……。


「でも私は一度読み始めたものは最低限区切りの良いところまで読む主義なんだ。だから頼む」


 それでも何だろう。

 昨日までの重い気持ちが、少し軽くなった。

 こいつに少し救われた、のか……?


「……わかった。続き、書くよ」

「本当か。嬉しい」


 ……そのぼやっとした目で淡々と言われても、あまり実感は湧かないな……。


「私は一年D組の遠藤えんどうゆいだ。君は……、江田谷えだたに先生と呼んだ方がいいかな。それとも武梨たけなし先生かな」

「……学校でペンネームはやめてくれ……。一年A組の山梨やまなし永太えいただ」

「それでは山梨君。続きを楽しみにしているよ」


 そうして俺は一度捨てたノートを手に、再び筆を取る事になったのだった……。

読了ありがとうございます。


この物語はフィクションです。

実在の人物・作品・小説サイトなどとは関係ありません。


これでよし。

『身喰いの刃』なんて知ーらないっ。


ちなみに主人公・山梨やまなし永太えいたと、ペンネーム・江田谷えだたに 武梨たけなしはどちらも『エタやむなし』から作りました。

女子生徒・遠藤えんどうゆいは、ENDと完結の結から。

さてエタと完結、どちらが勝つのか……。


次話もよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しいお話ですね~。 続きが気になります!
[良い点] 設定が面白いです!! 主人公の山梨君に感情移入しながら拝読しました! 読み上げられるところ一緒になって「やめてー(やめてあげてー)!!!」ってなりました/(^o^)\ 2人が出会ったこと…
[良い点] 読み上げられるのは辛い!笑 差を思い知らされる〜、のところはもう本当にわかりみが深くてうんうんと頷いてしまいました……! これからの展開が楽しみです♪
2022/01/10 12:11 退会済み
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