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ある放課後の一幕

作者: 砂糖菓子

放課後、俺の目の前には満面の笑みを浮かべて礼を言うクラスメイトの姿があった。


「ありがとう睦月君! 私幸せになるからね!」


「おう、おめでとさん! 彼氏と仲良くしろよ!」


「それじゃあ、彼が待ってるから。バイバイ!」


俺は彼氏の下へ走り去っていくクラスメイトを見送ってやった。


「…………はあ〜、またやっちまった〜」


クラスメイトの姿が見えなくなった後、自分の席に座り込んで頭を抱えてしまった。


自分の片思いに自分でピリオドを打っていれば世話はない。


俺の名前は睦月颯太むつきそうた、どこにでもいるような高校1年生だ。


普通に勉強して、普通に遊んで、普通に恋を……さっきまでしていた。


――――先ほど出て行ったクラスメイトのことが俺は好きだった。


でもあいつはいつも俺じゃない男を見ていた。


ずっと見ていた俺にはそれがわかってしまった。


俺はあいつが辛そうにしているのが見ていられなくていろいろ相談に乗った。


あいつの笑顔のためにあいつの好きな男と仲良くなれるよう画策もした。


告白の舞台も整えてやった。


そしてあいつは晴れて好きな男と彼氏彼女の関係になったというわけだ。


確かに笑顔はもらえたがそれは俺の失恋も意味するわけで。


はっきり言って馬鹿だ、馬鹿の所業だと自分でも思う。


でも、これが俺なんだ。


こんなことは初めてじゃない。


いつも俺がいいなと思うやつには好きなやつがいた。


そういうことには俺は昔から聡かった。


誰が誰に好意を寄せているかなんとなくわかるのだ。


うまく立ち回ればその子は俺に振り向いてくれるかもしれない。


でも俺はそういうことがどうしてもできなかった。


そんなやり方は誠実ではないと思ってしまう。


いつもいつもその子の相談に乗ってやり、好きなやつとの仲を取り持ってしまう。


好きな子が幸せならそれでいい、と思うのは自己満足だろうか。


最近では「睦月に相談すれば恋が叶う」なんて噂が立ち、相談を持ちかけられることも増えた。


まあそれを親身になって聞いて手助けをしてやる俺も相当なお人よしだけど。


恋愛相談室を開いて金取ったらかなり儲かるかも。


そんなことを考えてちょっと虚しくなった。


「……帰るか」


こんなときは何も考えずに寝るに限る、そうして明日からまた新しい恋を探そう。

今までだってそうして来た、明日になれば吹っ切れているはずだ。


自分で言ってて悲しくなるけどな。


帰ろうとして頭を上げると、俺以外誰もいないはずの教室の中にもう一人佇んでいた。


「お疲れ様、見事な手際だったな」


「……なに、早川。俺になんか用?」


教室のドアの方から俺のことを眺めていたのは同じクラスの早川だった。


早川千鶴。うちのクラスのクールビューティーの名を欲しいままにする女で、なぜかよく俺とつるんでいた。


俺は結構早川のことは気に入っていた。結構仲の良い友人だと思う。


いつもだったら笑って話のひとつやふたつするところだが、失恋したての今の俺は誰とも話したくない気分だった。


「誉めているのにそんな言い方はないんじゃない?」


「悪いけど俺は今無駄話に付き合うような気分じゃないんだ、用がないんだったら帰るぞ」


「待て、用ならある。とても大切な用が」


そういって早川は俺の前の席に腰を下ろした。このまま帰るのも早川に悪いような気がして仕方なく俺ももう一度席に座りなおす。


早川はさっきまで微笑んでいたのが嘘みたいな真剣な顔をしていた。


「それで、俺に用ってなに?」


「……実は好きな人がいるんだ」


それを聞いたとき、俺はひどく動揺した。


さっきも言ったが俺はそういうことには敏感なほうだと思っている。


でも俺はこいつが誰かに恋しているなんてぜんぜん分からなかった。


そんなそぶりは一度も見たことはなかった。


冷めたやつで、恋愛話には縁がないやつだと思っていた。


正直言って興味がわいた。


この鉄面皮のハートを射止めたのはどんなやつなんだろう。


正直恋愛話はしばらくご遠慮願いたいと思っていたがもう少し話を聞いてみることにした。


「早川が惚れるなんてよっぽどのやつなんだろうな。それで、どんなやつなの?」


俺が促すのを見て、早川はぽつぽつと話し出した。


「そいつは、とても馬鹿なんだ。

 ものすごいお人好しで他人の幸せのためにいつだって自分は我慢している。

 本当はすごく辛い筈なのに周りに心配されないように無理して笑っている。

 だから私が幸せにしてやりたいと思ったんだ。

 そいつにも幸せになる権利があるはずだし、

 なによりそいつにいつの間にか惹かれている自分がいることに気がついたから」


「……そいつは幸せだな、お前にそんなに想われてるなんて」


そこまで早川に想われているやつがうらやましかった。


俺にはそんな風に思ってくれる人がいないから余計に。


「よし! 俺が絶対そいつとお前をくっつけてやるよ」


「……本当か? 男に二言はないか?」


早川は怒っているような悲しんでいるような暗い顔をしていた。

やっぱり不安なんだろう。


「任せとけ、俺の恋愛成就率は今のところ8割以上だ」


俺は自分の胸をドンと叩いた。

長くやっているからこればっかりには自信がある。


「あ、でもそいつに恋人がいたら話は別な。

 俺他の人を破局させたりはしたく無いから」


「それなら心配ない、そいつには彼女はいない」


「へえ、でも分からないよ。

 もしかしたらみんなには秘密で付き合ってるかもしれないからな」


実際に付き合っていることを隠すカップルは多い。

まあからかわれたりするのが嫌なんだろう。


「大丈夫、そいつは女に振られたばかりだから」


振られたという言葉にズキッと胸が痛んだ。そういえば俺も失恋したてだった。振られたというにはちょっと違うが。


……いかんいかん、今は早川のことに集中しないと。


「だったら話は簡単だろ。そいつをやさしく慰めて良い雰囲気になったところで告白すればコロッといくよ」


「……わかった、まずはやさしく慰めて告白だね。早速やってみる」


「おう、がん……」


頑張れよ、と最後まで言えなかった。


早川は手を伸ばして机越しに俺を抱き寄せた。ちょうど俺の頭を早川の意外と豊満な胸にうずめる形になった。


うわ、やわらけ……って違う!


「は、はやかわ……?」


「なに?」


「なにしてるの?」


「慰めてる」


そう言って早川は俺の背中をぽんぽんと優しく叩いた。


「早川……こういうのは俺じゃなくって好きなやつにしてやれよ」


ピタリと早川の手が止まった。代わりに俺はさらに強い力で抱きしめられる。


早川の体はあったかくて柔らかくてなんだか変な気持ちになってきた。


「何でここまでしても分からないんだろうお前は。もういい、次は告白だったね」


早川が何か言っているけど俺は自分の中に生まれた欲望と戦うのに手一杯で聞いていなかった。


「早川、放してくれるとありがたいんだけど」


そうしないといつまで理性が持つかわかんないぞ?


「睦月、お前を愛している」


瞬間、時が止まったかと思った。


「私を選んで睦月、私は睦月を絶対に裏切らない。私はお前だけを見ることを誓うから」


――――だからお願い、私にして。


ささやくような叫びが俺の鼓膜を震わせる。


ぴったりとくっついた早川の体は小さく震えていた。


「……諦めようと思ったんだ。

 睦月は私以外の女の子が好きだって分かってたから。

 友人のポジションで満足だったはずなんだ。

 睦月が幸せになれるのならそれでいいと思っていた。

 恋愛相談は冗談のつもりだったんだ。

 でも、私の恋愛相談を簡単に叶えてやるなんて言った睦月に腹が立って、

 訳が分からなくなってそれで……」


早川の手が俺から離れた。


「すまない、私みたいな可愛くないやつにこんなこと言われても迷惑だよな。悪かった、さっきのことは忘れて欲しい……」


忘れて欲しいって……。


じゃあ何でそんな泣きそうな顔してるんだよ。


辛いですって顔に書いたままそんなこと言うもんじゃない。


「早川」


びくり、と早川の肩が震える。


「俺さ、さっきまで別の子を見てたような軽いやつだし、

 相談は受けるけどそれはくっつけるまでで、

 正直どんな風に付き合っていいのかもよくわかんねぇけどそれでもいいのか?」


「……え?」


聞くはずのない言葉を聞いたとばかりに俺を見上げる早川。


その目にだんだんと理解の色が浮かんでくる。


「わたしの恋人になってくれる……の?」


「なんだ、いやなのか? あそこまで情熱的な告白をしておきながら」


そこまで想われていたと知って胸が熱くならないわけがない。


「あ、あれは思わず口を突いたというかなんというか……」


「つまり早川の本心って事だろ、すっげえ嬉しい」


「〜〜〜〜!!」


早川は耳まで真っ赤にして俯いてしまった。


いつも冷静な早川からは想像もできない可愛らしさに俺はノックアウトされてしまった。


「早川、これからよろしくな」


「……うん」


顔は真っ赤のままで、呟くような声だけどちゃんと返事をしてくれた。



テーマは『恋愛相談』、いかがだったでしょうか?

軽くて明るい睦月とクールな早川は実は結構似たもの同士なのです。

感想などお待ちしています。

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― 新着の感想 ―
[一言] いいですねぇ、こういう話。自分も好きな子の恋の相談にのって成就させたことがあるので睦月くんの気持ち痛いほどわかります。うん。その後告白されるようなことはありませんでしたけど(泣)
[一言] 優しい気持ちにさせて頂きました(*^^*)
[一言] 読んでるとき、話の続きがわかっちゃいました...(*_*)
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