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第1話 結婚は人生の墓場だ

「結婚は人生の墓場だ」


 誰が言ったのかは分からないが、少なくとも私の家ではそうだった。父さんは母さんと目が合えば必ずケンカして、家ではいつでも怒鳴っているような男だ。


「分かんねぇ、分かんねぇ、って! 何でお前はそんな事も分からないんだ!?」「何でお前は戸棚をしっかり閉めないんだ!?」「何でお前は停めた車のサイドミラーをたたまないんだ!?」「何でお前は!?」「何でお前は!?」「何で何で何で!?」


 家の中は常に父さんの怒号が飛び交い毎日毎日が戦場で、とてもじゃないがゆっくりと落ち着ける場所ではなかった。だから大学に進学する際、1人暮らしをしていた時は22年という短さではあるが私の人生の中ではキラキラと輝く黄金期そのものだった。


 そんな家庭事情もあったため、大学を卒業後は実家に戻らずに大学に近い場所にある結婚式場で働くことになった。他の就職先は全滅で、本当は「滑り止めの中の滑り止め」として受けたこの会社に採用されてしまい、仕方なく就職したのだ。


 少なくとも両親を見ている限りは幸せな結婚というものをこれっぽちも想像できないこの私が、よりによって結婚式場に就職するとは……運命の女神とやらがいたとしたら彼女はずいぶんとまぁイタズラが好きらしい。




「そうですねぇ。式場の規模は30人程度でコンパクトにまとめた物にしたいんですがどうでしょうか?」


「そうですか。だとしたらこちらのレストランでの式というのはいかがでしょうか? アットホームな式にしたければこちらをお勧めしますよ」


 4月になって入社してからはまずは仕事の全体図を把握するためにこの業界の花形であるブライダルプランナーの先輩と一緒に仕事をしている。その先輩と来たら絵にかいたような美形で体型も良く、ドラマに出てくる俳優だと言われても違和感が無いくらいだ。


 ただしその左手の薬指にはダイヤモンドがはめ込まれたプラチナの指輪を付けており、良い男というのは大抵予約済み。という世間一般の常識はここでも通用するものだ。


 職場に流れる噂話を聞くと彼は大変な愛妻家であるという。仕事もプライベートも充実している、まさに勝者という感じだ。




 お客様であるカップルは終始とても幸せそうで、将来の事に何の心配もしていないようだった。何より、お互いを深く深く愛し合っていた。


 父さんもかつては母さんと一緒にこうやって「幸せな将来」を想像していたのだろうか?


 母さんの悪いところを言わせると3時間でも4時間でも舌が止まらないくせに、良いところを言わせようとすると「そんなのあるわけないじゃないか!」と断言するあの人が。


 もちろん私は両親が結婚した時はこの世にいなかったので2人の結婚式に関する詳しい話は分からないが。




 結婚というのは難儀なものである。


 1回だけしか結婚せずに幸せに暮らしている人の意見というのはサンプル数が少なく参考になるかどうか怪しいものだが、何回も結婚をしている人の意見というのもそれはそれで信用していいかどうかは分からない。


 結婚かぁ。まだ22だけど、私は幸せな結婚は出来るのだろうか?


 ……実家の事情を考えると、正直自信がない。両親の不仲のせいで結婚した後の幸せな生活が私には一切想像できないからだ。




【次回予告】


社会人になって1ヶ月、仕事にもずいぶん慣れてきた。そんな中聞いた先輩の噂話。


第2話 「5月になって」

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