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第8話 お互い様

行商人トトとの出会いから2週間後、カトレアはラドリゲスと一緒に、教えて貰った刃物屋へ行くため、王都へ向かった。

 馬に乗るラドリゲスの後ろに乗せてもらい、移動する事、2時間。漸く王都に着いたカトレアは、久しぶりに見る街の賑わいに、懐かしさを感じていた。


(死ぬ前は、学園が王都内だからよく来たけれど、今世では初めてになるのかしら?)


 カトレアの父が治める領地は、『リスタル』という国境近くの地域で、王都へは馬で1日は掛かる。国境近くの中でも、比較的王都に近いのだが、それでも幼いカトレアが行くには難しい距離だった。


 その為、カトレアは、ヴィストン学園に入学する15歳になるまでは、王都に来たことはなかったのだ。


(初めて来た時は、感動したのよね。)


 活気のある市場や所狭しと建つ建物は、リスタルには無いものだった。田舎者と馬鹿にされても仕方ないが、やはりあちらこちらに目がいってしまう。


「カトレア嬢、ここを曲がりますぞ。」


 ラドリゲスが指差す方は、建物と建物の間にある、大人1人程の幅しかない道で、本当にこの先に店があるのかと、疑ってしまう程に陰湿な雰囲気である。


 途中、蜘蛛の巣に引っ掛かりながらも、道を抜けると、裏路地へと出ることが出来た。

 そこは、表通りの賑やかさとは違い、何やら怪しい店や、よく分からない生き物の干物が売られた屋台があったりする等、かなり異様な様子だ。


 カトレアが周りの様子に引いていると、ラドリゲスが頭を撫でながら、この場所について教えてくれた。


「ここは、『魔法士』が好んで来る『魔横丁』という場所になります。その為、表通りとは違い、マニアックな物が多く取り扱われております。」


 魔法士とは、名の通り魔法を主に取り扱う職業に就く者。国境の結界管理、騎士の戦闘補佐といったものから、風便りの様な雑貨に魔法効果を付けたりする仕事等、職業の幅は様々である。


 ヴィストン学園にも魔法科があり、就職の幅が広いという事で、入学を希望する若者も多い。

 ただし、膨大な知識や一般人以上の魔力が必要な為、魔法が好きで好きで仕方ない人しか入ってはいけないという、暗黙の了解があった。


 もちろん、魔法科の生徒ではなかったカトレアは、このような場所とは無縁であった。

 ただ、今のカトレアは、魔法士になる訳では無いが、魔法の知識や技術を伸ばしたいと思っている。その為、今の自分にとっては、願ったり叶ったりの場であり、カトレアは、連れてきてくれたラドリゲスに感謝した。


(後で魔法書を探してみよう)


 魔横丁を北にまっすぐ歩いて行くと、カンカンと金属を打つ音が聞こえてきた。音の方に向かって行くと、石壁に東の島国の文字で書かれた看板を見つける。

 カトレアは、ドアを開けようと、ノブに手をかける。



「何でもするから頼むって! 俺に剣売ってくれよ!」


 

(男の子の声?)


 ドアの向こうから聞こえた少年の声に、カトレアとラドリゲスは、何事かと目を合わせる。


 そっと、ドアを開けると、壁一面に掛けられた農具や武器と共に、ショーケースの前で訴えている茶髪に赤毛が混じった少年と、それを無視して金属を打ち続ける黒髪の青年がいた。


「失礼致します。ここが、『リュウ』さんのお店ですかな?」


 ラドリゲスが声を掛けると、黒髪の青年が手を止めた。


「あー、見た通りそうだ。んで、俺が店主のリュウノスケだ。何か用か?来たなら買って帰れよ」


 トトの言っていた通り、客に対しての態度は中々辛辣である。これで売る気はあるのだろうかと、トトとはまた別の意味で心配になる。


「お前も帰れよ。買わない奴は、邪魔なだけだ」


 店主のリュウノスケは、先程の少年を手で追い払っているが、彼は去る素振りを見せない。


「だから、金が無い分、雑用でも何でもするって言ってんだろ? 俺、配達の仕事してたから、ここら辺の土地詳しいし、雇って損はねェぜ?」


「クソガキ1人の人件費払う程の余裕はねーよ。とっとと出てけ。」


「嫌だ! 売るって言うまで、今日は出てかねえからなオッサン! あと、クソガキじゃなくて、ダンデだって言ってんだろ!?」


 ダンデという少年はギリギリと音が聞こえるのでは無いかという程、ショーケースにしがみついている。

 しかし、リュウノスケは、ダンデの存在など無かったかのように、黙々と作業を進めていた。


 流石に少年が可哀想に思えてきたカトレアは、ダンデに声をかけてみる。


「あの、貴方、何で剣が欲しいのかしら?」


 カトレアの問いに、ダンデは、何でお前に言う必要がるのだと言わんばかりに眉間に皺を寄せるが、渋々と口を開いた。


「俺は、王国一の騎士になるって決めてんだ。その為には、剣が必要だろーが」


「王国一の騎士……」


「ケッ、馬鹿にしたきゃ勝手にしてろ」


「いえ、馬鹿にはしてないわ。私も、似たような者だから」


 その答えに、ダンデは真意を探る様に、眼光鋭くカトレアを睨みつける。そんな二人に助け舟を出すように、ラドリゲスが話に入ってきた。


「カトレア嬢も騎士を目指しておりましてな!志同じ者として、よろしく頼みますぞ、ダンデ少年。ハッハッハ!」


「女が騎士ぃ?」


 ダンデは、自分の事は棚に上げて、ハンっと鼻で笑った。

 その反応が、癪に触ったカトレアは、彼の前に行き、その眉間を指で突いてやった。


「いって! 何すんだテメェ!」


「あらー? そちらこそ、王国一なんて、大層な夢を抱えてらっしゃるくせに、人の事よく笑えるわねぇ? 」


「ハァ!? 女が騎士になる方が有り得ねぇだろ! とんだ、じゃじゃ馬女だな……。家で大人しくしてろっ!」


「貴女こそ、この国に騎士が何人いるかご存知? まだ、私一人が騎士になる方が、有り得る話だと思うけどね!」


 言い争いはヒートアップし、とうとう2人は、お互いの胸倉を掴み始め、表に出ろ、望む所だ、と、競うように店のドアを開けようとする。


「うわっ!」


 しかし、2人が開ける前にドアが開いた。

 そこには、老紳士とカトレアより年下だろう、おかっぱ頭の美少年が立っていた。



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