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第7話 行商人来たる

 薪割りを終えたカトレアは、山菜採りをしているラドリゲスを手伝う為、山へと向かった。

 彼に教えられた、山菜が沢山採れるという川沿いの場所に行くと、籠を背負ったラドリゲスが、こちらに気付き、手を振ってきた。


「ラドリゲス様、お疲れ様です。薪割りが終わりましたので、手伝いに参りました」


「おお、随分速くなりましたなぁ。では、そちらに咲いている赤い花を摘んでいただいてもよろしいかな?」


「はい!」


 カトレアは、傍に咲いていた赤い花を数輪摘みとる。筒状の小花が5つほど咲いた花は、とても可愛らしく、自然と笑顔になってしまう。

 ハーベラへの土産として、持っていくのだろう。きっと喜ぶはずだ。


 ラドリゲスの後ろを付いて山を降りると、家の前で何やら、荷車を引いた客人が来ていた。遠目から見て、スキンヘッドの男性のようだ。待たせては行けないと、急いで戻ると、そこに居たのは行商人だった。


「おや、トトさんじゃないですか」


「ラドリゲスさん! 久しぶりに遊びに来ちゃったよ。おや? そちらは、お孫さんかい?」


「ハッハッハ、いや、こちらは私の愛弟子ですよ」


(ま、愛弟子! )


 カトレアは、愛弟子と呼ばれた事に喜びに、ニヤけそうになるのを何とか堪えながら、行商人に挨拶する。


「カトレア・クラークと申します。よろしくお願いいたします」


「こりゃ、しっかりしたお嬢ちゃんだな。ヨシっ! サービスで、このリボンをあげよう!」


「あ、ありがとうございます」


 カトレアは、トトの勢いに押されるがままに、青いリボンを受け取った。折角なのでと、その場で、貰ったリボンをブラウスの襟に通して結んでおく。

 リボンの裾を引っ張り形を整えていると、目立たない色で雪華模様が刺繍されているのに気が付いた。細かい造形に、良い物を貰ってしまったと焦るが、大人達は既に商売の話に入ってしまっていた為、カトレアは、大人しくしているしかなかった。


「ところで、今日は何を持ってこられたのですかな?」


「それなんだが、知り合いの鍛冶屋が、良いものが出来たから売ってこいってよぉ、包丁を押し付けやがってよ……。ラドリゲスさん、いらねえかい?」


「どれ、見せてもらってもよいかな?」


 トトが出した包丁は、最もオーソドックスな形をした物で、カトレアが見ただけでは良さが分からない。

 しかし、ラドリゲスにはその良さが分かるのか、ほぉ、と、感嘆の声を漏らした。


「……成程、良い物ですな。1本頂きましょう。ところで、その鍛冶屋は、剣も作ってますかな?」


「確か、作ってたなぁ。なんだい? 行くんなら地図描いとくよ?」


「おお!では、お言葉に甘えて」


 ラドリゲスの頼みを快く引き受け、トトは使い込まれ変色したメモ帳の切れ端に、手早く地図を描いた。

 

「ほらよ! 王都の南西区にある『リュウ』って店だよ。愛想悪くて、誰にでも態度がデカいが、腕は良いらしいから、まあ、よろしく頼むよ」


「ふむ、ありがとうございます。おっと、これは、包丁のお代です」


「ア? ちょっと、代金多くねぇか? 」


「ハッハッハ! いや、いい鍛冶屋を紹介してもらったお礼です。 また、頼みますぞ!」


 トトは、申し訳なさそうに代金を受け取ると、次の仕事もあるからと、荷車を引いて去ろうとした。カトレアは、慌てて引き止め、リボンを本当に貰っても良いのか確認したが、トトは、


「構わねえさ! 布屋に適当に渡されたハギレの中に混じってただけだからよぉ、俺からしたら布切れ同然さ! ガハハハ!」


 と、豪快に笑いながら、今度こそ去ってしまった。その背中を見つめながら、カトレアは、彼が行商人としてやっていけてるのか心配になる。


「カトレア嬢、トトさんは物の価値にはあまり興味が無いのですが、運だけはピカイチありましてな……、アレで上手いことやっていけてるんですよ」


「そう……ならいいのですが……」


 行商人、トト。運の強さ故に、良い物を気付かない内に仕入れる男。彼から買うものに間違いはないのだが、当の本人がその価値に気付くのはいつになるのだろうか……。


 去って行った方向を見つめながら、カトレアは、彼の今後を案じるのであった。

既出の小説、一部修正いたしました。

(句読点、空白など)


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