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第4話 ロズウェルの過去

 カトレア達は、目的の倉庫に着いた。扉を開けると、ブワッとホコリが舞う。

 ホコリ臭い倉庫に、カトレアは思わず咳き込んでしまう。


「窓がないから、換気が十分に出来ないんですよ。あまり長居はしたくないので、早めに済ませましょう」


 ロズウェルはそう言うと、素早く扉を閉めた。


「さて、セラくんはさておき、君達2人は、何で僕が手紙の書かれていない部分まで読めたと思います?」


 ロズウェルは、腕を組みながら、試すように、カトレアとダンデに問いかけた。


「ロズウェル先生の妄想っていう線もなくはないが、そうじゃないでしょ? 先生は、劣化で読めなくなる前に、その手紙の内容を全部記憶したんじゃないですか?」


「そうですね、ご名答です。では、それは何でだと思いますか?」


「お生憎ですが、そこまで俺は人の心情に鋭くないんで……。でも、コイツは多分分かったと思いますよ」


 ダンデはそう言って、カトレアを親指で指した。

 そう言いながらも、ダンデも恐らく、うっすらと察してはいるのだろう。ただ、このデリケートな事情に関しては、ぶっきらぼうな性分のダンデよりは、カトレアから話した方が良いと言う判断を彼はしたのだ。


 ダンデの意を汲んで、カトレアは慎重に言葉を選ぶ。

 カ念の為、「私の推測ですが……」と、前置きをしてから、カトレアは、自分の考えを述べ始めた。


「確かにあの手紙は、衝撃的な物です。でも、だからといって、他人の手紙の内容を覚えるには至らないと思います。それに付随する、印象強い出来事があったと考えて……、私は、あの手紙の持ち主をロズウェル先生が斬ったのではと、思いました」


 カトレアの推測に、ロズウェルは、参ったと、手を挙げた。


「正解です。その通り、私は、あの手紙の持ち主を殺しました。付け加えるならば、初めて殺した人間が、その持ち主だったのです」


『殺した』と直接的な表現をするロズウェルに、彼の中の罪の意識を見た気がした。

 ロズウェルは、過去に思いを馳せるように、目を細めた。





 ヴィストン王国と友好関係にあるマリンベル王国。海に囲まれたその島国は、近隣国の中では最も大きな領海を持つ。その豊かな海洋資源を狙ったギルディア王国との間に起きた戦争。

 それが、ロズウェル・オルテーニの初陣だった。


 平和主義国家であるマリンベル王国と血気盛んなギルディア王国では、勝敗は火を見るより明らかである。

 そこで白羽の矢が立ったのが、ルークル騎士団であった。

 マリンベル王国への武力援助として、派遣された騎士の中に、ロズウェルもいた。


 学生時代から、優秀であったロズウェルにとって、実戦は、自分の実力を試す好機と、戦場を駆け抜けた。戦争の場でありながらも、ロズウェルの気分はこれまでにないほど、高揚していたのだ。

 始めて敵を討った瞬間は、喜びから声に出さずに笑っていたくらいであった。

 その後もロズウェルは、何人もの敵騎士を斬り倒した。

 ルークル騎士団の活躍もあり、1日の内に戦局は一変、ギルディア王国軍は撤退を決め、今回の戦争は、マリンベル王国に白旗が立つ事になった。


「戦場の遺体は、敵と味方に分けて1箇所にまとめろ。マリンベル王国の意向で、敵の遺体は後日、ギルディア王国に返されるそうだ」


 上司の指示に、マリンベル王国の甘い考え方に、ロズウェルは舌打ちを打った。戦争で情けをかけるなど、ロズウェルにはとても理解ができない考え方である。

 それでも、上が決めた事と、渋々ながらに遺体回収を進めた。あと少しといったところで、ロズウェルは、自分が最初に斬った敵騎士の遺体を見つけた。

 最初斬った場所から少し進んだ場所で倒れていた事から、斬られた後も尚、這いずったのだろう。トドメを刺し損ねた自分の未熟さに、ロズウェルは歯噛みした。

 とりあえず運ぶかと、遺体に手をかけると、胸元から1枚の紙が落ちた。敵国への報告書ならば、返すのはまずいだろうと、拾って内容を確認する。


 しかし、それは敵国ではなく、彼の妻に向けた手紙であった。

 その事実にロズウェルは、急に自分のした事が恐ろしくなった。最初に斬った時の相手に対する感情は、人よりも物に近かった。しかし、この手紙から分かるように、己が斬ったのは間違いなく、誰かが愛した『人間』なのだ。

 ロズウェルが彼を殺した事で、残された家族はどうなるのか。いや、彼だけではない、ロズウェルは、何人もの誰かの大切な人を殺したのだ。


「そんなつもりじゃ……なかったんだっ!!」


 ロズウェルは、嗚咽混じりに遺体に向かって、何度も謝罪した。

 結局、文字が書かれている物は、密告等の可能性があると、敵国への返却は許されなかった。その為、泥と血にまみれた、敵騎士の手紙は、愛する妻へは届かなかった。


 そして皮肉にも、この日、新進気鋭の新人騎士として、ロズウェルは多くの人から賞賛を浴びたのだった。

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