表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/64

第4話 旅立ち

 日が昇りきらない早朝。カトレアは、屋敷を出ていこうとしていた。


 一番地味なワンピースを着て、必要最低限の物を入れた鞄を持つと、使用人達に気付かれないよう、静かに玄関まで向かう。途中で、父に挨拶だけしていこうかと、彼の部屋の前で立ち止まった。


(いや、今から絶縁するのに挨拶なんておかしな話かしら?)

 

 カトレアは、ノックをしようとしていた手をひっこめて、ドアの前で深々と頭を下げるだけに留めた。


(お父様……、どうかお元気で)


 父の部屋に背を向け、カトレアはその場を離れた。


(とりあえず、街に出て住み込みの仕事を探さないと……。ただ、こんな子供を雇ってくれる人がいるかどうかよね)


 幸先不安ではあるが、これも騎士になるための試練である。様々な問題を抱えながらも、カトレアは、重い玄関の扉をゆっくり開けた。



「お嬢様、おはようございます。」


「は、ハーベラ?」


 扉を開けた先には、メイドのハーベラが、同じように大きな鞄を持って立っていた。

 使用人の朝は早いとはいえ、なぜ待ち構えていたかのように、彼女はいるのだろうか?しかも、カトレアの姿をみても、さして驚いた様子が見えない。


「さっ! お嬢様、参りましょうか」


「参りましょうって……、ちょっと、ハーベラ!?」


「あら? お嬢様、旦那様にお聞きになられてないのですか?」


 カトレアが頷くと、ハーベラはやれやれとため息をつく。


「もー、旦那様も素直じゃないんですから……。ま、仕方ありませんね。詳しい事は、馬車に乗ってからお話しますね?」


 ハーベラに連れられて、門の外に出れば、一台の馬車と老齢の男性が待っていた。

 上品なベストスーツに白いあご髭がダンディーな男性は、わざわざ腰を曲げ、目線をカトレアに合わせてくれた。


 「大きくなられてからは初めてですな? 私は、ハーベラの夫であり、リチャード……、貴女の父君の叔父に当たる、ラドリゲス・クラークと申し上げる」


「は、初めまして、カトレア・クラークと申します。ハーベラ……いえ、奥様には、いつもお世話になっております」


「ハッハッハッ、良く出来たお嬢さんになられましたな! 感心、感心!」


 一頻り笑ったラドリゲスは、カトレア達に馬車に乗るよう促した。


「ご安心なされよ、カトレア嬢。私達は貴女の父君に、よろしく頼むと言われております故、捕って食ったりなどはしませんよ!」


「お父様が……?」


 カトレアが屋敷を振り返ると、遠目にではあるが、二階の窓からリチャードがこちらを見ているのが分かった。言葉も行動も、何も起こす様子は無く、ただ、ジッとカトレアを見つめている。


「お嬢様? 旦那様はこんな可愛い我が子を、一人にさせるなんて真似いたしませんよ。万が一、そんな事させようものなら私共が許しません」

 

 ハーベラは、後ろから優しく、カトレアを包み込むように抱きしめた。その温もりと、父の見送りの眼差しに、カトレアの胸は熱くなる。


(この先、どんな事が待ち受けるのかは分からない。でも、必ずや、私は立派な騎士となろう)


「さて、二人ともそろそろ行きますぞ!」


 ラドリゲスの呼び掛けに応え、カトレアは馬車へと乗り込む、

 馬の軽やかな足音が聞こえると、屋敷は段々と離れていった。カトレアは、見えなくなるまで、その景色を見つめたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ