17話 新入生親睦会 貴族の動揺
「ちょっと、カトレア。この子ヤバかったんだけど」
そう言って、アイラは親指でリリスを指した。
彼女の話によれば、魔法科の輪に居た時のリリスが、大層猫被りだったそう。
「『うふふ、皆さん素敵ですね』って、砂糖煮つめたくらい甘ったるい声出してんのよ? 頭打ったかと思ったわ」
アイラは、豪快にステーキを口に放り込みながら、彼女を見た。
「せやかて、こんな顔持っとったら、媚びんと勿体ないやろ。まあ、カトレアちゃんに近付く奴等には、死んでもやったらんけどな!」
ブハハハっと笑う姿からは、清楚さは微塵も感じられない。
しかし、リリスは元は八代 湊という男性だったのだ。処世術とはいえ、女を武器にする事に抵抗は無かったのだろうか。
「まあ、自分的にはタイプやないけど、せっかく可愛く産まれたんやし、チヤホヤされたいやん!」
キュルンとした瞳で話す彼女の様子から、カトレアの心配は杞憂であったと悟る。
自分も順応力がある方だとは思っていた。
しかし、全然違う世界から来た上に、性別も変わってしまっても尚、明るく強かに生きるリリスには、頭が下がる。
カトレアが心の中で、友人を賞賛していると、ダンデとセラが戻ってきた。
ちなみに先程まで話していたベンは、気を遣って同郷の元へ戻って行ったらしい。
その事を申し訳なく思いつつ、カトレアは、戻ってきた彼等をアイラとリリスに紹介した
「こちらの彼はダンデ・アサルド。そして、こちらはセラ・ルークル。彼は、私達より2つ下になるわ」
「ルークル……、成程、『ルークル騎士団』のね? 可愛い顔してるじゃない」
アイラは、セラの顔をマジマジと見ながら、蠱惑的な笑みを浮かべる。
彼女が、ダンデとベンに初めてあった時は、そのような事は一切、言っていなかった。残念ながら、彼等は、アイラの好みではなかったようだ。
「このお姉様達が、カトレアさんがよく話してるお友達ですか?」
セラの『お姉様』という呼び方を気に入ったのか、アイラは、嬉しそうに彼の頭を撫でた。
存外、彼女は面倒見の良い性分なのかもしれない。
同じく、お姉様と呼ばれたリリスだが、彼女は何やら不思議そうに首を傾げていた。
ブツブツと、「いや、似てる気が……」等と聞こえてくるが、なんの事か分からず、とりあえずは、触れないでおくことにした。
「お前の周り、変な奴ばっかだな」
「そうね、貴方がまともに見える程度にはね」
カトレアの返事に、「まともじゃないみたいに言うな」と、ダンデは唇を尖らせた。
パーティー会場は、それなりに和やかな雰囲気を保っていた。互いに、自分の立場をわきまえ、必要以上に干渉しないからだろう。
しかし、その均衡は、彼により崩れた。
会場が、一気にざわめきだした。
生徒の視線の先には、見目麗しい、ヴィストン王国が王子、レイノルドがいた。
彼は、特別教養科の席から離れ、一般教養科の生徒に話しかけていた。身分の差を気にしない彼の事、平民とて交流すべき相手なのだ。
ただ、貴族の出の生徒達は、分かりやすくその光景に動揺していた。自分よりも位の高い人間が、下々の人間にわざわざ話しかけに行っているのだ。
そのような行動をされれば、自分達もしなくてはいけないのかと、貴族側の生徒は焦ってしまう。しかし、プライドや古くからの風習から、中々行動には移せない。
そう、彼等からすれば、「面倒な事をしやがって」が、本音なのだ。
「おー、お坊ちゃま達が、随分面白い顔しだしてんじゃねーか」
「コラっ、彼等も彼等なりに立場があるのよ」
ニヤニヤと笑うダンデを窘め、カトレアは食事を再開した。
彼の行動は、賛否あるのだろうが、カトレアは、そういう所が好きだった。
人の目は気にせず、平等に接する彼の真っ直ぐな姿勢。それにカトレアは、恋に落ちたのだ。
(まあ、『婚約者』は、彼の平等の愛の対象外だったけど)
嫌な事を思い出したと、カトレアはため息をつく。
とはいえ、あれは過去の事。カトレアがもう、王子と関わる事はないのだ。
しかし、それは大間違いであった。
「君が、カトレア・クラークかい?」
甘く優しい声に振り向くと、そこにレイノルドが立っていたのだ。




