第16話 新入生親睦会 開会
パーティー開演の時間。大階段の上にある、大扉から、キャンベル学園長が姿を現した。
先程までザワザワと騒がしかった会場が、一気に静かになる。
キャンベルは、年こそ重ねてはいるが、血縁者であるレイノルドと同じく、美しい容姿をしている。もちろん、国王もそうなのだが、比較すると、弟であるキャンベルの方が、柔らかい印象であった。
見た目と同じく、性格も温厚で、皆を導くというよりは、見守るという姿勢を取っている事が多い。それは、寮の管理者であるサブリナと同じで、彼等は王家の中でも、気色の違う存在だ。
キャンベルは、穏やかな笑みを携えながら、開会の挨拶を始めた。
「改めて、入学おめでとう。この学園では、勉学ももちろんだが、それ以外の大切な事も学んでいってほしい。今日は、その第1歩だ。最後まで、心ゆくまで楽しんでくれ。」
キャンベルの挨拶に、会場からは拍手が起こる。それに応えるように、右手を挙げたキャンベルは、先程よりも少し大きめの声で、パーティーの開会を宣言した。
より一層大きくなった拍手を背に、キャンベルが去るのを見送った所で、パーティーの幕が開けた。
過酷な運動により、腹を空かせた騎士科の生徒達は、一斉にテーブルに並ぶ食事に手を付け始めた。
ビュッフェ形式の立食パーティーは、遠慮をしていると、すぐ無くなってしまう。カトレアも、いくつか手早く更に食事を盛り付け、己の分を確保した。
ついでに、寝起きで動きが緩慢になっているセラの分も確保し、渡してやる。
「あー、カトレアさん、ありがとぉございまスヤァ」
「お礼は良いから、寝ないでしっかり食べなさい」
目を離すとすぐ寝ようとするセラを、軽く叱咤してから、カトレアは、皿のステーキに手を付ける。
ミディアムに焼かれたそれは、溢れる肉汁がソースと絡まり、大変美味である。
「飯は旨いが、もうちっとガッツリ食べてえな」
そうボヤくダンデに、カトレアは、「そんなものよ」と返した。
寧ろ、立食できるだけ、割とラフなパーティーでたる。そう伝えると、ダンデは分かりやすく嫌な顔をした。
「俺は、食堂で十分だわ」
「そう? 私は、偶には楽しいかも」
(久々に気飾れたのも嬉しかったし)
上機嫌に食を進めるカトレアに、ダンデは、何故か居心地悪そうに舌打ちをしていた。
なにか気に触ったのかと思ったが、去る気配はないので、言及はしないでおいた。
カトレア達の少し向こうで、グラトと『業火に呑まれ隊』の3人が、ワイワイと食事を楽しんでいた。それを遠目に眺めていると、視線に気が付いたベンが、小さく手を振って、こちらにやってきた。
「やあ、3人はちゃんと食べれてる?」
「ええ、最初にある程度取っといたから。ダンデは、わんぱくだから物足りないそうだけど」
そうダンデを揶揄うと、「ア" ァ!?」と声を上げて、分かりやすく目を釣りあげた。
「ガキ扱いすんじゃねえよ。てか、テメェはもっと育った方がいいんじゃねえか?」
「なっ! それは胸の事言ってる? 余計なお世話よっ!」
「ばっ! そんな所の話してねーよっ! 身長の話だ、身長の!」
睨み合う2人に、まあまあと、ベンが間に入った事で、カトレアは一旦引き下がった。
「ダンデさんは、ムッツリですね」
モソモソと食事をしていたセラが、ニヤリと笑いながら、ダンデを指さす。それに、「誰がムッツリだ!」と、歯を剥き出して、ダンデは彼の頭を小突いた。
「ダンデって、黙ってると本当に男前なんだけどなぁ」
「ふーん、そうなのかしら?」
「そうだよ? 俺、同室なんだけどね、寮にいる時は、割と静かなんだよね。そうしてると、ちょっとだけレイノルド王子に似てるかも」
ベンの話に、カトレアは思わずギクリとする。
彼は、ダンデとレイノルドが腹違いの兄弟ということを知らない。それにも関わらず、そんな事を言うとは、ベンは案外勘が良いのかもしれない。
いや、もしかして、レイノルドを異常な程愛していたせいで、性格が全く違うダンデを、意識的に彼とは似てないと決めつけていたのかもしれない。
ダンデをよく見れば、確かにレイノルドとの共通点がいくつかある。目の形は異なるが、瞳は同じ琥珀色だ。それに、唇の形や鼻の高さは似ているかもしれない。
「確かにね……。でも、残念なくらいが私は良いわ。お上品なダンデなんて、落ち着かないもの」
カトレアは、少し照れくさくなり、誤魔化すように笑った。
ベンは、一瞬驚いた顔を見せたが、眉を下げて頷いた。
「そうだね。ダンデは、今のままが良い奴だしね」
「えー、良い奴かしら?」
「ハハッ、素直じゃないなぁ」
カトレアとベンが、談笑していると後ろからリリスとアイラがやってきた。
話に夢中になっていたが、チラホラと他の科同士の交流が始まっていたようだ。




