表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/64

第15話 高鳴る鼓動

「ふぁああ!! 美しすぎんねんけどっ!」


 カトレア達が支度を済ませた頃、リリスが部屋まで迎えにやってきた。

 彼女は、カトレアの姿を見るやいなや、黄色い悲鳴を上げた。


「いやぁ、イケメンやのに美人って、もうそんなん寧ろ暴力やんか! オレ、今、カトレアちゃんに迫られたら、ぶっちゃけ乙女の大事な物を捧げてまうって! アイラ、ええ仕事しはるなぁ……」


 リリスは早口で感想を述べ続ける。

 そんな彼女は、後ろでアイラに髪を弄られているのに気がついていないようだ。


 リリスが一通り喋り終わる頃には、彼女の頭のセットは終わっていた。アイラがリリスに施したのは、所謂ツインテール。根元に三つ編みされた束が巻きついていることで、少し小洒落たヘアスタイルになっている。

 

 まだ気付いてないリリスに、カトレアが手鏡を渡すと、彼女はギョッと目を見開いた。


「なんやコレ、オレ可愛すぎやん!」


 似合い過ぎて怖いと、リリスは何度も角度を変えて鏡を見ていた。

 それを鼻で笑うアイラ自身は、ハーフアップシニヨンに髪をセットし、その結び目に、レースの髪飾りを付けている。カジュアル過ぎず、それでいて上品な仕上がりだ。


 本人も含め、計3人のセットをこの短時間で済ませてしまうアイラ。その器用さに、カトレアは驚きを超えて感動すら覚える。

 母親の職業柄、様々な装いを見て、触れてきた彼女だからこそできる技なのだろう。


「正直、こうやって着飾ってる時が1番楽しいんだけどね」


「それもそうね。でも、そろそろ時間よ」


 アイラの言葉に、共感しつつ、カトレアは、2人を連れてパーティー会場へと向かった。






 会場に着くと、既に多くの生徒が集まっていた。

 カトレア達は一旦別れて、それぞれの科の場所へと向かった。歩いている途中で、こちらに目を奪われている生徒が、何人もいる事に気が付く。以前の人生でも、同じような視線を受けてはいた。


 しかし、違うのは、今は、友人が美しく仕上げてくれた自分に、それが向けられている。それが、何だかカトレアには嬉しく、誇らしかった。


 ふと、横を見ると、特別教養科の女生徒と目が合った。どこか嫉妬を混ぜた瞳をしている彼女に、普段なら煩わしい気持ちになるが、何せ今の自分は気分が良い。

 カトレアは、柔らかく彼女に微笑んだ。少し、気障すぎる気もしたが、お洒落に浮かれているのだと、許して欲しい。


 さて、そんなカトレアの微笑みを受けた女生徒はといえば、何故か顔を真っ赤にし、胸を抑えていた。更に、周りの女生徒達も胸を抑えたり、目眩を起こしたのか、フラついたりしている。


(大丈夫かしらあそこ。何か変な物でも食べた?)


 女生徒達の様子に、不安を覚えながらも、カトレアは、いつもの仲間の元に辿り着いた。


「くぁあ、カトレアさん、おはようございます」


 グラトに抱えられながら、セラが眠気まなこに挨拶する。

 やはりパーティーギリギリまで寝ていたかと、何処までもマイペースなセラに、カトレアは、呆れながらも、彼の寝癖を直してやる。


「同室がグラトで良かったわ。貴方なら、セラくらいなら、お人形抱えるのと変わらないものね」


「ん。あと2人はいける」


 セラが寝こけていても、運び出してくれるグラトには、姉のような立場のカトレアとしては、感謝しかない。

 それは、ダンデも同じ気持ちだろうと、カトレアは、同意を求めて彼の方を向く。


 しかし、彼は、何故か必死でカトレアから顔を背けている。


「どうしたのダンデ。何故、目を合わせないの?」


「うっせえ、ほっとけよ」


「いや、不自然過ぎるわよ。あと、失礼だわ。こっち向きなさいよ」


 ダンデが顔を背ければ、それをカトレアが追う。それを何度か繰り返し、やっと観念したのか、ダンデは、漸くこちらを向いた。

 

「な、何よ」


 少し赤らんだ彼の顔に、カトレアは一瞬戸惑う。何だかそれは、さっきこちらへ向かう時に、カトレアに目を奪われていた生徒達と似ている気がした。


(いや、ダンデに限ってそれは無いはず)


 あれだけ普段から、憎まれ口を叩くことの多い、間柄なのだ。そんな、カトレアに見惚れるなんて事はないはず。


「お前、そのーー」


 ダンデの言葉の続きに、何故かカトレアの鼓動が早くなる。


「似合ってる」


「ーーっ!そっ、そうかしら……って、あれ?」


 その一言は、ダンデの口から出たのかと思った。

 しかし、それにしては、声が低いのだ。

 カトレアとダンデは、揃ってその声の主へと顔を向ける。


「妹が好きそうな感じだ」


 グラトは、真顔でそう言って、親指を立てた。


(妹が好きそうって、貴方、妹さんがいらしたのね……)


 鼓動は、一気に通常に戻り、カトレアとダンデは、互いに微妙な顔で彼を見つめたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ