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第14話 お洒落の喜び

 湯浴みを終えたカトレアは、自室のベットでストレッチをしていた。


 昼からの授業で酷使した体を、ゆっくりと伸ばす。疲労回復に効果があると、ゴンザレスに指導を受けてから、カトレアは、出来るだけ毎日するようにしている。


(体も前より柔らかくなったし、やってみて正解ね)


 カトレアは、日々の効果を体を実感し、ほくそ笑んでいると、ルームメイトのアイラが帰ってきた。

 時計を見ると、常ならば後1時間ほどは、授業をしている時間帯だ。どうやら、一般科も、パーティーに遅れないようにとの、教師側の配慮があったようだ。


「おかえりなさい」


「ただいま。カトレアの方が早かったんだ。まあ、騎士科は、湯浴みしないといけないものね」


「そうね、おかげで後は、ジャケットを羽織るだけよ」


 そうカトレアが言うと、アイラは何かを企むように口角を上げた。


()()、だなんてつまらない事言わないでちょうだい? 今から、楽しい事するんだから」


 ジリジリと近付いてきたアイラは、その綺麗な指で、カトレアの手を絡め取る。

 彼女の色香は、女であるカトレアでさえも、思わずクラっと酔いそうになる。こんな風に迫って、アイラは一体、何をしようというのか……。


 しかし、カトレアが、あらぬ想像をしている間に、連れてこられたのは、彼女のドレッサーだった。


「さっ、せっかくのパーティーなんだから、とびきり良い女で行かないとね」


 そう言って、アイラは鞄から、ゾロゾロと化粧道具や髪飾りを取り出した。


「えっ!? どういう事?」


「どういうって、メイクとヘアセットよ。好みの子を、私の好きなように弄って見たかったのよね」


 アイラはウキウキとした様子で、カトレアの保湿を済ませた肌に、パウダーを乗せていく。

 乗せられたパウダーや、肌に触れるブラシは、質が良く、肌馴染みが良い。一般階級の彼女が、何故、こんな高価な物を持っているのか。


「不思議? アタシがこんな物持ってるの」


「そうね。気を悪くしたかしら?」


 どう答えようか迷ったが、彼女は、正直な答えを好むだろうと、カトレアは、素直に答えた。

 どうやら正解だったらしく、アイラは、「全く」と、歯を見せて笑った。

 

「アタシの母さんはさ、高級娼婦やっててね? 結構、羽振りの良い旦那様の愛人してんのよ。コレは、ここに入学するってなった時、お祝いに譲ってもらったの」


 サラリと打ち明けられた話に、カトレアは驚き、思わず振り返ろうとする。

 しかし、「動かない!」と、叱られてしまい、結局、鏡越しに映る彼女に、目線を向けるに留まった。


 娼婦とは、差別的に見られやすい職業である。厳しい所であれば、その子供の進学や、就職にも影響を及ぼす。

 ヴィストン学園とて、昔よりはマシになったが、学園側に家柄を気にする者もいる。

 それにも関わらず、よく、何事もなく入学出来たものだ。


 しかし、彼女は、「当然でしょ」と、あっさりと答える。


「だって、私、筆記試験トップだもの」


「トップ!?」


 アイラが話すには、正確には、魔法学を除く、筆記試験の結果が、学園トップだったという。

 その証拠にと、見せてもらった試験結果が記載された用紙には、魔法学以外の教科の欄には、100点に近い点数と共に、『1位』と書かれていた。


「まあ、学園側も、娼婦の子供が1位とは、公にしたがらないから、あんまり言ってないけどね」


「そうだったのね。でも、これは、本当に凄い事よ? どうやって勉強したの?」


 そう聞くと、アイラは、高級娼婦の母親の事を含めて、話し始めた。


「娼婦ってのは、ただ綺麗なだけじゃなくて、相手の話について行けないとダメなのよ。そうすると、嫌でも教養を身に付けるわよね? それもあって、母さんからは、とにかく勉強しなさいって、色んな本を渡されてたわ」


 それに加えて、母の周りの大人達が、教師代わりになってくれていた事もあり、ほぼ、全ての教育課程の予習を済ませていたのだと言う。


「別に娼婦にならなくていいけど、知識は身につけとけって、母さんから耳が痛くなるほど、言われたわ」


「素晴らしいお母様ね。一度、お話してみたいわ」


「ええ、カトレアなら大歓迎よ。っと、そろそろ終わるわよ」


 アイラは、手早くカトレアの髪を八割横に流すと、残りの二割を編み込みしていく。

 見る見るうちに、網目は増えていき、最後にパチンと、花の模様が入った髪留で、止められる。


「わぁ……!」


 鏡に映るカトレアは、右耳をしっかり出しているせいか、少し精悍な印象になっている。

 しかし、細かい編み込みと、髪留めのおかげで、女性らしさもあしらわれていた。


 メイクは、一見、しているか分からないが、キラキラとしたパウダーのおかげか、普段より美白になった様に見える。

 また、うっすらと塗られた口紅は、カトレアの薄い唇を、そっと華やかに見せていた。


「あー! 完璧よ! 王子様であり、品のある女性って感じが、本当最高ね。私って良い仕事するわぁ!」


 アイラの言う通り、彼女の腕はかなり良い。事実、カトレアは、彼女の仕上げた自分に、ついつい見入ってしまった程だ。


(お洒落をするって、こんなにも楽しかったかしら?)


 この人生では、早々に騎士を目指し、修行に打ち込んでいた為、着飾る事も少なかった。

 すっかり忘れていた喜びに、カトレアが浸っていると、アイラがニヤニヤとこちらを見ている事に気が付く。


「えっと、ありがとう、アイラ。私もお返しにって言いたいんだけど、こんなにも綺麗にはできないわ」


「いいわよ、別に。自分のは慣れてるから、すぐに終わるわ」


 アイラはその後も、何度もカトレアを見ては、満足そうに頷いていた。


 

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