第13話 浮かれる男心
日は巡り、パーティーの当日。
夜からの開催という事で、授業は通常通り行われている。
騎士科は、午後から、ゴンザレスの実技授業である。生徒達は、各々、華やかなパーティーに思いを馳せて、何とか苦行を耐え忍んでいる所だ。
「さあさあ、非力共! ペースを落とすなよ! そこの、根性無し共! 足を止めるな! もう一周追加しちまうぞ!」
今、カトレア達が行っているのは、グループトレーニングである。先日の運動テストの結果を参考に、苦手分野毎にグループ分けされており、グループ毎に別々の修行内容が組まれているのだ。
カトレアは、『非力』に属している。文字通り、力があまりない生徒が集められたグループだ。
修行内容は、石の入った籠を、同じペースで持ったり降ろしたりを繰り返すというもの。
この、物を持ち上げる動作というのは、腕だけの力でやってしまうと、腰を痛めてしまう。
その為、如何に全身を上手く使うかがポイントである。
それを身に付けると共に、単純な運動で筋力も付けるという事が狙いの修行なのだ。
(ラドリゲス様から教わった、『上手な力の使い方』という事ね)
ただ、短いインターバルを挟みながらといえども、これがまた、段々と辛くなっていく。
だからといって、横着をして、腕だけで持とうとすると、痛い目に遭う。「腰痛めんだろうが!!」と、ゴンザレスの鉄拳が飛んでくるのだ。
幸い、カトレアは、まだそれを受けていない。
「先生っ!! セラが行き倒れてます!!」
「ヨシっ! 水ぶっかけて起こせっ!」
少し離れた所から聞こえる会話に、『根性無し』の友を心配しつつも、フォームを崩さないよう、さらに気を引き締めた
「よーし、今日はここまでだ。寮に帰っていいぞー」
1時間ほど、修行を続けた所で、突然ゴンザレスが終了を告げた。
いつもならば、夕方を回る頃まで、みっちりと行われている。
しかし、今はまだ、夕陽は差し込んでいない。授業が終わるには早すぎるのだ。
どういう事だと、生徒が戸惑っていると、ゴンザレスは、フッと小さく笑った。
「テメェら、今日はパーティーだろうが。バチッと決めていけよ」
そう言って、去る彼の背中に、男子生徒達からワッと歓声があがる。
「マジかよ……! 渋すぎんぜ、先生!!」
「ありがとうございます!! 先生っ!! 一生ついて行きます!!」
異常なまでの、彼らの喜びように、カトレアは、呆気に取られた。
確かに、ゴンザレスの配慮は、ありがたい。
しかし、風呂に入って、替えの制服に着替えるだけに、それ程時間がいるのか?
それを近くにいたクラスメイトに聞くと、騎士科が女性と関わる機会があまり無い為、今日のパーティーは、お近付きになる貴重なチャンスなのだと言う。
ただ、女性経験も乏しい、騎士科の面々にとって、女性とのパーティーは非常に緊張する場である。身嗜みの準備はもちろん、心の準備、イメトレも欠かせないのだ。その時間を、思わぬ形で手に入れて、歓喜しているそうだ。
「何だか、殿方も大変なのね……」
カトレアは、ポツンと地面に倒れていた、セラの体を起こしながら呟いた。
すると、セラがカトレアの肩に顔を埋めながら、イヤイヤと首を振る。
「僕はパーティー嫌です。もう寝たいです。」
駄々を捏ねるセラに苦笑しつつも、彼の気持ちも分かる。
(こんなクタクタに疲れてるのに、パーティーだなんて、正直億劫だわ)
それは、他のクラスメイトも一緒な筈だが、そんな事を微塵にも感じさせない浮かれように、カトレアは、呆れを通り越して、感心すら覚えた。
(あら? でも、私も女性よね?)
ふと気付き、カトレアの胸に、少しの虚しさが通り過ぎたのだった。




