第12話 欲深い
「私の好きな物?」
カトレアは、アイラとリリスの3人で昼食をとっていた。
そんな時、ダンデが険しい顔をして、何故かカトレアの好みを聞きに来たのだ。
ダンデ達とは、男子生徒と女生徒が一緒に食べていると、変なやっかみが飛んでくる為、普段は別々で食べている。それ故に、近くにいる事も少ない。
それをわざわざこちらにまで来るとは、しかも、女性とのコミニュケーションをあまり好まないダンデがである。
聞きに来た本人が、嫌そうな顔をしている事が、余計、何か裏があるのではと、カトレアはジッと彼の顔を見る。
そんな時、少し後ろの方にいたベンが、話を聞いていたのか、声をかけにやってきた。
「ごめん、カトレアさん。俺がダンデに頼んだんだ。試験の時に助けてもらったからさ。ダンデもわざわざありがとう」
ベンの話に、カトレアは、漸く背景を理解する事ができた。それならそうと言えばいいのだが、素直じゃないダンデには難しかったのかもしれない。
「けど、もう少し愛想よく聞けないのかしら?」
「うっせぇ、良いから答えろ」
ダンデに催促され、カトレアは、自分の好きな物について考えた。食べ物や娯楽品等については、特段、強いこだわりがある訳でもない為、いざ聞かれると、答えに迷う。
強いて言うのならば、胸元に付けているリボンみたいな物だろうか。こういった、デザイン、実益ともに良い物は、大変好ましい。
カトレアがそのように伝えると、現実的だなと、ダンデとベンは微妙な反応を示した。
そんな2人を嘲笑いながら、リリスが口を挟んできた。
「アホやなぁ、このクールなとこが、カトレアちゃんの魅力やんか。 おたくら、女子がみんなキャッキャウフフしてる思たら大間違いやで?」
「男の理想の押し付けって、ダサいわよね? ホント、つまんないわぁ」
嫌味ったらしいが、間違ってはいないアイラとリリスの言葉に、男性陣は返す言葉が見つからないのか、方や怒りを、方や苦笑いを顔に浮かべている。
この癖の強い女性達は、彼等には手に余るだろう。特にダンデとの相性は最悪かもしれない。
そう判断し、カトレアは、2人に、また後でと言ってさっさと帰らせた。
「あら、もう少し遊んでても良かったのに」
「あの人達も、私の友人なんだから、あんまり虐めないでやってちょうだい。あと、リリスは、いつまで睨んでるの」
射殺す様に、彼等を目で追うリリスの顔を、無理やり食事の方へと戻す。
「それにしても、カトレアって、欲が少ないわよね?」
パンをちぎりながら聞いてきたアイラに、カトレアは、ポトフを運ぶ手を止めた。
(欲が少ない……)
しかし、その言葉にカトレアは、素直に頷けない。なぜならば、前の人生で、カトレアはどうしようもない程の執着を、レイノルドに抱いていたのだ。
彼の心が欲しい、譲りたくないという願いは、今思えば強欲であった。それは、やがて己を、そして恐らくカトレアの家をも、滅ぼしてしまった。
カトレアの本質は、厄介な欲の持ち主である。それを向ける対象がいないだけ。あるいは、抑えているだけである。
「カトレアちゃん!」
リリスの声に、ハッとして顔を上げる。湿っぽい顔をしていたのか、2人は心配そうにカトレアを見ている。
「ごめんなさい。ちょっと昔の事を思い出してたわ」
事情を知っているリリスは、まだ何か言いたげだったが、カトレアは、無視して食事を続けた。
忘れてはならない、過去の愚かな自分を。
そんな自分を変える為に、カトレアは騎士になるのだから。




