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第3話 目指す道

 仮病を押し通した事により、王子にうつす訳にはいかないと、今回の見合いは、取り止めとなった。

 これにより、カトレアは、貴重な時間を手に入れた。今の内に、自分の身の振り方を考えなければならない。


 まず、王子への自分の気持ちだが、一度死んだおがけか、完全に無くなった訳ではないが、あの時程の歪んだ想いは無い。死んで良かったと、不謹慎にも思う。

 過去の経験も踏まえても、今後、彼の気持ちが自分に向くことは無いだろう。彼には、自分ではない、心優しいリリスの様な女性が相応しいのだということは、身に染みて分かった。


 よって、この婚約は辞退するべきである。失礼にはなるかもしれないが、自分が身を引いた所で、他にも候補に挙がっている令嬢はいるはずだ。

 ただ、王家との婚約を断ったとして、クラーク家の事を考えれば、他の貴族の家に嫁ぎ、人脈を得なければならない。それが、貴族の女性としての生き方だ。


(いや、果たしてそうなのかしら?)


 貴族の女性というだけで、家柄に依存しなければ生きていけないとは、随分視野の狭い話である。

 自分には、努力して身に付けた教養、そして魔法の知識もある。これをただ、使わずに燻らせるのは、無駄の何物でもない。


 二度目の人生だ。性別や家柄を理由に、自分の生き方を決めるのは勿体ないのでは?


(私だって……!)


 家柄や外見ではない、自らの力でクラーク家にとって名誉ある人物へとなりたい。

 それを成し遂げる為に、自分が目指すべき姿は……!


「そういえば……」


 カトレアの脳裏に、自分が斬られた時の景色が浮かんだ。


 騒然とする貴族、リリスを庇うレイノルド。

 そんな中、主君を守ろうと真っ先に動いたのは、王の傍にいた騎士だった。

 たかが令嬢の魔法といえど、どうなるか分からない中で、冷静に王子に迫る脅威を斬り捨てたあの騎士。あれこそが、自らの力で栄誉を得る者の姿だ。

 嫉妬に狂った無様な自分を斬ってくれた上に、道まで示してくれるなんて、彼には感謝である。


 今ここに、カトレアは自らの目指すべきものを見つけたのであった。




 その晩、カトレアは、父の書斎へと向かった。今日の件についての謝罪と、今後の進路について話し合うためだ。

 しかし、父である、リチャード・クラークは、寡黙で、娘に対しても多くを語らないワーカーホリック。正直、どんな反応をするのかが想像がつかない。


 緊張のまま、ドアをノックすると、「入れ」と、低い声が返ってくる。


「失礼いたします。お父様、少しよろしいでしょうか?」


 カトレアの訪問に、少し驚いた様子のリチャードは、万年筆を机に置く。


「カトレアか。体調はもういいのか?」


「は、はい。お気遣いありがとうございます。今日の件は、私の体調管理の至らなさで、ご迷惑をかけてしまい、申し訳ございませんでした」


「別に構わん。先方も、急ぎではなかったからな。……話はそれだけか?」


 すぐに作業に戻ろうとする父に、尻込みしそうになが、カトレアは、意を決して口を開いた。


「お父様、私、騎士になろうと思います」


「……騎士? お前は、私をからかいにきたのか?」


「違います! ちょっと色々ありまして、思う所があったのです……」


 父が疑うのは当然である。普通の女性ならば考えもしない事、それも9歳の小娘が、それを口にしているのである。

 一度死んで考え方が変わったとは言えない為、父にしたら寝耳に水である。


 リチャードは、聞くだけ無駄だと、再び書類にペンを走らせた。


「冗談だと思われるかもしれません! ですが、ただ、人脈の為だけに、己を高め、生きていくのに疑問を持ってしまったのです。生まれや性別で、自分の進路が限られるのは、勿体なく思います」


「……。」


「女子供の戯言と捨てないでください。最初は、馬鹿にされても、必ずや、名誉ある騎士となります。クラーク家に泥を塗るような騎士にはなりません。それでもというのならば、縁を切っていただいても構いません」


 どうかよろしくお願いしますと、頭を下げる。しかし、リチャードは、そんなカトレアの横を通り過ぎ、部屋を出ていこうとする。


「お父さ――――!」


「……お前は私に似たのだな。」


「えっ?」


 父が何かを呟いたのだが、カトレアは聞き取ることが出来なかった。

 

「明日、荷物をまとめて屋敷を出ていけ」


「―――っ!」


 リチャードは、一言言い残し、部屋を去っていった。


(縁を切られて当然とは思っていたけれど……、思ったより辛いわね)

 

 目頭が熱くなるが、騎士を目指すものとして、こんな所で泣いてはいられなかった。

 それに、絶縁とはいえ、後は好きにしろということなのだ。それは、十分すぎる譲歩ではないか。


 一人残されたカトレアは、拳を握りしめたのだった。


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