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第9話 招待状

「あら、おかえりーーって、大分くたびれてるわね……」


本日の授業を終え、覚束無い足取りで帰ってきたカトレアを、アイラが、ギョッとした顔で出迎えた。


満身創痍とはこの事かというように、疲労で力の入らない体を、懸命に動かして、カトレアは自分のベットに倒れ込んだ。


「あー、もう動けないかも……」


「一体、どんな授業受けてきたのよ?」


アイラの質問に、カトレアの頭に地獄のような今日が蘇る。

1日のほとんどを占めた基礎的運動授業……。

体力テストに始まり、短距離走、木登り、更には、泥玉を避けて行う反射神経テスト等、体中を酷使するメニューをこれでもかと、カトレアは堪能した。


しかし、凄いのはゴンザレス。指示を出しておきながら、自らもやると言い出し、生徒達に混ざっていたが、全て終わった後、彼だけが爽やかな汗を流していた。


(騎士というのは、ああも並外れたものなのかしら?)


自分は、とんでもない世界に踏み込んでしまったと、カトレアは、シーツに顔を填めた。


「なんか随分な目にあったみたいだけど、割と綺麗ね」


「湯浴みと着替えだけ、気合いで済ませてきたのよ。そうしなきゃ、とてもじゃないけど、部屋には入れなかったわ」


替えの制服は、教室においてあったため、授業が終わるやいなや、直行で湯浴み場に行った事を話すと、アイラは残念そうに目を細めた。


「せっかく、一緒に入ろうと思ってたのに……」


「あっ、そうだったのね。ごめんなさい、次は一緒にーー」


「隅から隅まで、丁寧に、磨こうと思ってたのに……、残念だわぁ」


そう言って、ペロリと舌舐めずりをするアイラに、カトレアは背筋にゾッと寒気が走った。


(隅から隅って……! どういう事なのかしら!?)


カトレアは、警戒するように自分の肩を抱いた。


「あ、そういや、寮に帰ってきたら、コレが置いてあったんだけど」


アイラが思い出したと、取り出したのは、一通の封書だ。

金のレース模様が描かれた豪華なデザインは、カトレアにも見覚えがあった。

アイラから受け取り、了承を得て封を開ける。そこには、カトレアの予想通りに、学園からの招待状が入っていた。


「『新入生親睦会のご招待』? 嘘……、全ての生徒がパーティーに参加する事って、書いてるじゃない。お高く止まった貴族に、絡まれなきゃいいけど 」


「他の科との交流の場として、企画されたのでしょうね。実際は、お互いトラブルを避けるように、同格同士が固まるから、案外、そんな事もないと思うわ」


カトレアも、ちょうどこの時期に参加した記憶があった。その時も、ほぼ、貴族は貴族、平民は平民と、自然と集まっていた。


(レイノルド様とかくらいかしら? わざわざ、全員に挨拶されていたのは……)


それに、婚約者として、ついて行こうとしたのを断られてしまったのは、苦い思い出だ。

あれは、学園の中まで、政略結婚に縛られたくないという、彼の気持ちの表れだったのだろう。


あの当時は、レイノルドが、政略結婚をそこまで毛嫌いする理由が分からなかったが、国王の愛人ーーダンデの母の事が、彼の考え方に影響していたのかもしれない。


もっと気持ちを正直に伝えれば、彼の拠り所になれたのか……。考えた所で、意味の無い事である。レイノルドへの恋は、侯爵令嬢のカトレアの物であり、今のカトレアの物ではない。


カトレアは、改めて招待状を読み直す。


「服装は制服……、持ち物は特に無しですって」


「ふーん、良かった。ドレスなんて言われても、すぐには用意出来ないから、制服大歓迎」


ドレスは高価なものである。一般国民であれば、買えない者も現れる。それに配慮しての、制服指定にカトレアは、流石と、心の中で学園長を称えた。


「でも、せっかくだし、髪型くらいはいじろうかしら? ねっ、カトレア? 」


「え、私はいいわよ。制服だって、男性用だし……」


「んふっ、それはそれで良いのよ。あー、俄然楽しみになってきたわ」


アイラは、カトレアの毛先を指で遊びながら、鼻歌を歌い出した。

その楽しそうな姿に、カトレアは、これ以上断る気も失せてしまった。



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