第8話 運動テスト
カトレア達、騎士科の生徒は、基礎的運動授業を前に、学園に設けられた演習場に集められていた。
(私の胸って小さい? いや、比較する対象が悪いのよ! でも、ふたりと比べると……)
演習場に来ても尚、今朝の食堂での、リリス達の発言が、未だカトレアの心に引っ掛かっていた。
「カトレアさん、胸抑えてどうしたの? 体調でも悪いの?」
「い、いえ! 大丈夫よ! お気遣いありがとう」
気にして声をかけてくれたベンに、カトレアは、慌てて取り繕った。
それならいいんだけど、と、ベンは、笑っていたが、その優しさに、カトレアは少し気まずい気持ちになる。
(胸の大きさを気にしてたなんて、とてもじゃないけど言えないわ)
カトレアは、己の煩悩を払う為に、軽く首を振った。
授業開始のチャイムが鳴ると、ゴンザレスが、演習場に現れた。生徒達は、その場で片膝を付いて、彼が口を開くのを待つ。
「おー、そんな畏まらなくても、構わんぞ。まあ、とりあえず授業を始めるか。ここにいるヤツらには、今から、運動テストを行う」
テストという言葉に、生徒達がざわめく中、ゴンザレスは、カラカラと笑う。
「テストと言っても、それぞれの得意、不得意を見るためのもんだから、そんな気負わなくていいぞ。ヨシッ、手始めに演習場を倒れるまで走ってこい!」
ゴンザレスがサラリと言ってのけるが、生徒達の顔は一瞬にして青ざめた。
誰かが、冗談だろ?と、口にしたが、ゴンザレスからは何も返事はない。
(本気で倒れるまで走らされるのね……)
カトレアは腹を括って、演習場へと駆け出した。
「ハッハッハ! 今年は、骨のあるヤツが多くていいなぁ」
演習場で、生徒達が屍のように横たわる中、感心感心と、ゴンザレスが手を叩く。誰一人として、彼に反応を返す者はおらず、皆一様に、苦しそうに息切れを起こしている。
カトレアは、根性と気合いで、何とか生徒が残り半分になるまで持ち堪えた。性別的なハンデを抱えつつも、まずまずな結果だろう。
しかし、あまりの疲労に、体はピクリとも動かなかった。何とか呼吸を整え、目だけで周囲を見ると、少し先に、早めにリタイアしていた、セラが倒れていた。
彼は、漸く動けるようになったのか、腕を支えに、ゆっくりと体を起こした。
「ゴホッ、カトレアさん……、大丈夫ですか?」
セラは、フラフラとした足取りで、カトレアの元にやってきた。
彼に支えら、体を起こすと、セラと同じように、動ける生徒がチラホラと現れ始め、近くの生徒を助けていた。
カトレアは、息も絶え絶えに、セラに礼を伝えると、足を震わせながらも、なんとか立ち上がった。
全員の生徒が立ち上がる頃には、すっかり昼も過ぎてしまっていた。
ゴンザレスの図らいで、軽食が演習場に運ばれるが、疲労困憊の状態では、中々食べる気が起きない。
とはいえ、食べなければ途中で力尽きてしまう。カトレアは、水と一緒に、流すようにサンドウィッチを食べ進めた。
「結局、最後に残ってたのは、俺とグラトだったな」
平気そうにサンドウィッチを食べながら、ダンデは、先程の体力テストの話をした。
彼が言う事には、他の生徒が全員倒れてからも、ダンデとグラトの2人で、走り続けていたそうだ。後半は意地の張り合いだったが、結局、ほぼ同時に倒れてしまった為、決着はつかなかったと、少し悔しそうにダンデは語った。
「それだけ走った後に、よく、そんな風に食べれるわね……」
ダンデもグラトもだが、既に目の前の軽食を全て平らげてしまっていた。
他の生徒を見ても、まだまだ完食には時間がかかりそうな事が伺える。更に、セラに至っては、食欲より睡眠欲が勝っているのか、サンドウィッチ片手に、座りながら眠っている。
それ等と比べると、彼等の体力と、その回復力が常軌を逸している事がありありと分かってしまう。
当の本人達が、まだ食べれるなと、言っているのを聞いて、カトレアは、信じられないと、目を剥いた。




