表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/64

第7話 ルームメイト

 焼き立てのパンの匂いが広がる、朝の食堂。


 しかし、この場に似つかわしくない形相で、リリスが、トレーを携え、カトレアの横に立っていた。


「……なんなん?」


 こちらを凝視するリリスに、カトレアは、やれやれと、額に手を当てる。

 そして、恐らくリリスが気になっているであろう、隣に座る女性に目を向けた。


「あら、朝から煩そうなのが来たと思ったら、ラッキー令嬢じゃない」


 そう、気だるげに口にするのは、カトレアのルームメイト、アイラ・フルベールであった。




 遡る事、昨日。

 寮の説明も終わり、カトレアは、与えられた自室に入った。


 平民から見たら広く、貴族から見たら狭い部屋には、二人分の家具が、左右対称に並べられている。


 シングルベッドも、勿論二つ用意されているのだが、既に左側の布団が膨らんでいた。

 恐らく、その中身は、ルームメイトだろう。入寮後、直ぐに布団に入るなんて、どこか具合が悪いのかと、少し心配になる。


(寝てるのなら、挨拶は起きてからの方がいいわね)


 カトレアは、起こさないように、静かに自分の荷物を鞄から取り出そうと、手を掛けた。


「んー、あら? もう来てたの」


 カトレアが振り返ると、目を見開くような女性が布団から出てきた。


 豊満な肢体はシャツ1枚のみしか身につけておらず、谷間も、程よい肉感の太ももも、惜しげも無くさらされていた。


 ぷっくらとした唇は妖艶で、肩にかからない程度の髪をかきあげる姿は、女であるカトレアですら、ドキリとする。


「えっと、ごきげんよう、だったっけ。初めまして、カトレア・クラークさん。アイラ・フルべール、貴女のルームメイトよ。あっ、ルームメイトにまで敬語使う気ないから、アタシ」


 アイラの色香に、たじろぎながらも、カトレアが挨拶を返すと、彼女は、満足そうに口角を上げた。


「ふーん、侯爵令嬢だからって、もっと偉そうなの想像してたけど……、そうでも無いわね、貴女。顔も結構好みかも。アタシ、綺麗な顔の子好きなのよね」


「ちょっ、ちょっと近いんじゃなくて? 目のやり場に困るわ!」


 押し倒す勢いで近づいてきたアイラを、カトレアは、慌てて引き剥がす。

 アイラは、「あら、残念」と、離れると、クスクス笑いながらベッドに腰掛けた。


「これから3年間、よろしくね? カトレア」







「……という訳よ」


 カトレアは、アイラの事を一通り説明したが、リリスは、納得がいかないようで、ブンブンと音がなるほど首を振っている。


「アカンアカン! 何で、こんな低確率ガチャで、とんでもないの引いとんの! ダメやダメ! この発禁女は、カトレアちゃんの教育によろしくない! 今すぐ、カトレアちゃんのルームメイトの座をオレに渡さんかい!」


「イヤよ。好みの顔なら、お願い聞いてあげなくもないけど……。アンタ、ちょっとあざと過ぎるのよね、顔が」


「はぁ!? 年増顔に言われたないねん! てか、その胸のボタン上まで閉めろや! これみよがしに谷間見せるなんて、カトレアちゃんに対する嫌味か!」


(いや、貴女の方が失礼よ)


 心の中で指摘しつつ、カトレアは、己の胸を省みた。別に無いわけではないのだ。膨らみもあるし、両手には収まるかもしれないが、確かにある。


 では……と、カトレアは、2人の胸を盗み見する。

 アイラは言わずもがな、開けた胸元から、深い谷間が存在している。それに、リリスも、大きめのローブを羽織ってるにも関わらず、しっかりとその部分に山がある事が分かる。


 山やら谷やらと、大自然を彷彿させる単語を並べたが、自分のはどうだ。

 あるには、あるが、谷はない。では、山はどうか? それも正直微妙である。


(リリスが山なら……、丘?)


 思いつたそれは、カトレアの心に重くのしかかった。


「いいじゃない、胸がなくても、カトレアは顔が良いんだから」


「せや! 胸がなくてもカトレアちゃんは、完全無欠な存在やからな! あれ? カトレアちゃん、どうしたん?」


 カトレアは、己の胸を憂いながら、入学後、初めての朝食を口にした。

 この時ばかりは、栄養が全て胸に行くように、願わずにはいられなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ