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第3話 再会

 入学式を終え、小休憩が生徒達に与えられた。

 カトレアは、それを利用して、リリスに会いに行くことにした。


 魔法科に直接行くのは忍びない為、出来れば廊下とかで偶然会いたい。

 しかし、休憩の時間と、距離から考えると、待っているのは、些か勿体ない。

 

 カトレアは、ショートカットの為、記憶を頼りに、裏庭に出た。


(確か、こちらの庭師用の扉から、魔法科の棟へ行くのが最短だったはず)


「おやおやぁ? これはこれは、女性騎士様じゃないですか?」


 ドアノブに伸ばした手を止め、後ろを振り返る。

 そこには、ニヤニヤと下卑な顔をした、男子生徒が3名居た。


「……何かご用かしら?」


「おっと、そんな怖い顔は辞めた方がいいんじゃないか? それに、周りに侍らしてた男達は、いないんだし、分をわきまえた方がいいよ」


 白い制服を身につけているあたり、彼等は『特別教養科』の生徒だろう。

 リーダ格の男の言い方からして、カトレアが1人になる所を狙っていた事が伺える。


(しかし、わざわざ嫌味を言う為だけについてきたのかしら?)


 だとしたら、随分ご苦労なことである。


「お声掛け頂いて申し訳ないのですが、私、急いでますので」


 カトレアは、ニコリと作り笑いを彼等に向け、去ろうとする。


 しかし、男は、肩を掴んで、無理矢理カトレアを 引き止めた。


「おや、釣れないなぁ。この、タリウェスト伯爵が長子、ガマドールが声を掛けてやってるんだ。付き合うのが当然だろ?」


「タリウェスト伯爵……」


 カトレアの記憶が正しければ、鉱業が盛んな地域を治めている、貴族の名である。

 カトレアもかつては同じ科にいたはずなのだが、関わりがなかった為、顔を見てもピンとこなかったのだ。


(それに、あまり良い噂は聞かなかったし)


 タリウェスト伯爵が管理する、鉱山の労働環境は、劣悪を極めているらしい。従業員は、奴隷同然に扱っているという、噂が立っているくらいだ。

 故に、彼等が管理する地は、治安が良くないとして、父から近付かないように、カトレアは、教えられていた。


 しかし、何故急に関わりを持とうとしているのか?


 カトレアが、怪訝な目を向けていると、ガマドールは、優越感に満ちた表情で口を開いた。


「なに、悪い話じゃないさ。騎士になろうなんて、馬鹿な事を考える、生意気な令嬢、どこの貴族も貰いたくないだろう? だから、この僕が、自主的に立候補してやったまでさ」


 その言葉に、カトレアは、彼等が声を掛けてきた理由をようやく納得した。


 ガマドールの目当ては、クラーク家との繋がりである。そして、彼の足りない頭では、クラーク領すら、手中に収める算段なのだろう。

 カトレアが騎士科に所属し、尚且つ、レイノルド王子の婚約者でもない事で、何故か下に見ているようだ。


(大体、そんな誘い方に乗る令嬢が、どこにいるのかしら?)


 カトレアは、呆れを隠すことなく、深くため息をついた。

 それが癇に障ったのか、ガマドールと取り巻きは、目くじらを立てて「生意気だ」と、罵り出す。


「この僕が、提案してやってるんだ。喜んで受け入れるのが、互いの家の為だろ? 女なんて、どうせ政略結婚にしか使えないんだから」


「そのように、女性を軽視する殿方はこちらからお断りです。それに、私、騎士を目指す者として、弱い殿方は眼中にございません。ましてや、女性ひとりに対して、数人で囲むなんて、殿方……、とてもじゃないけど、無理です」


 カトレアが、嘲笑すると、ガマドールは、顔を真っ赤にして、拳を握りしめた。

 

「侯爵令嬢だからと、生意気な!!騎士科にいったのだって、男に囲まれたいからだろう売女めっ! どうせ、リスタルも落ちぶれた領地なのだろう? それでも貰ってやると言うのだ!!」


 ガマドールは、勘違いも甚だしい発言を、唾を撒き散らしながら叫ぶ。


 入学初日に、暴力沙汰はと思っていたが、ここ迄言われたら、流石に1発くらいは許されるだろう。

 カトレアは、彼の隙だらけの顎に狙いを定める。


「カトレアちゃんに、何さらしてくれとんじゃあ!!」


 しかし、カトレアが1発入れる前に、ガマドールの身体は、突然の鮮やかな飛び蹴りにより、吹き飛んで行った。


 取り巻き達が、慌てて彼に駆け寄る中、鮮やかにその場で着地を決めていたのは、なんと、リリス・マーシャルだった。


 眉間に深いシワを刻み、指を鳴らす姿は、完全に輩と変わらない。


「何故、貴女が……?」


 カトレアは、呆然と疑問を口にする。


 というか、カトレアが知っているリリスからは、想像もつかない光景すぎて、カトレアは、戸惑いを隠せなかった。


 リリス・マーシャルは、慈愛を具現化したような女性だった。

 誰にでも慈しみの手を差し伸べ、お淑やかに笑みを浮かべる。彼女との時間は、とても癒されるんだと、レイノルドが、ポツリとカトレアに零した事は、忘れもしない。


 だが、目の前の彼女はどうか?


 どう考えても癒しとは程遠い形相で、ガマドールの胸倉を掴んでいるではないか。


「あ゛ぁ゛!? この、親のすねかじり野郎が! てめえ如きがカトレアちゃんに、何してくれとんねん!? その脛、オレが噛みちぎってやろうか!? おぉう!?」


 聞いたことも無い訛りで脅すリリスに、ガマドールは、「お、女の、女のくせにっ!」と、捨て台詞を残して、走り去って行った。


 カトレアが唖然としていると、振り向いたリリスが、先程の鬼の様な形相が嘘のように、心配そうに眉を下げていた。


「カトレアちゃん、大丈夫やった? なんかなぁ、チラッと今のクソ野郎共が、カトレアちゃんの後をついていってんの見つけてな? 慌てて追いかけたんやわ! もう、ホンマに間に合って良かったわぁ」


「えっと、助けて下さったことは礼を言うけど、貴女って、そんな感じだったかしら?」


 すると、リリスは、キョトンとした顔で、首を傾げる。


「そんなん、カトレアちゃんかてそうやろ? いや、カトレアちゃんではないんかな?」


 よく分からない事を口にするリリスに、カトレアは、ますます混乱する。


「私が、私でないってどういうことかしら?」


「そんなん、自分がよく分かっとるやろ? だって、オレ達、()()してるんやから」


 いや、でも、『憑依』って方が正しいかと、指に顎を置く彼女に、カトレアは、益々頭を抱えることになるのだった。

 

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