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第8話 合格報告

 シャキシャキと、小刻みなハサミの音が、耳元で鳴っている。


「お嬢様……、お願いですからもう少し、ご自分を大事になさってくださいませんか?年寄りの心臓は止まりやすいのですから!」


 ハーベラは、美しい御髪が……と、嘆きながらカトレアの髪を整えている。


 騎士科に合格した事を伝え終わるや否や、我慢ならないとハーベラはハサミと櫛を引っ張り出してきた。

 合格祝いもお話も、その髪をどうにかしてからと、見たこともない迫力で迫ってきたハーベラに、カトレアは、言われるがままであった。


「はい、出来ましたよ、お嬢様。いかがでしょうか?」


 カトレアは、ハーベラから鏡を受け取り、髪型を確認する。


 かなり短くなり、首の後ろがスースーする事に違和感を覚え、ついつい触ってしまう。


 しかし、あんなにバラバラだった毛先は綺麗に整えられており、先程までのみすぼらしい状態が嘘のようであった。


「良いですか、お嬢様? 男社会に入るからと、女を捨てる必要はございません。美しくいることは嫌ではないでしょう?」


 ハーベラの言葉に、カトレアは確かにと、頷く。


 男性に舐められないようにと、気を張っていたカトレアだが、彼女のおかげで少し気が楽になった。


「ありがとう、ハーベラ」


「うふふ、お気になさらずに。私が、勝手にやったことですので」


 髪を切り終わり、ハーベラとリビングに戻ると、ラドリゲスが夕食を用意して待っていてくれていた。

 いつもよりも豪勢な食事内容に、キョトンとしていたが、ハーベラに急かされ、カトレアは、慌てて席に着いた。


 聞けば、この夕食は髪を切っている間に、ラドリゲスが用意したものらしい。

 今日はお祝いなのだからと言われ、カトレアは、照れくさくなる。




 食事は、どれも美味しくカトレアは、あっという間に平らげてしまった。


 食後、カトレアは、試験の事を彼等に話していたのだが、割り込むように、そういえばと、ラドリゲスが口を開いた。


「合格した事は、リチャードには伝えましたかな?」


「お父様にですか……?」


 自分を送り出してくれた父だが、婚約の話を蹴った上に、騎士になるなど宣った娘と、まだ縁を結んでくれているのか……。


 カトレアは、それが不安で、家を出た日からリチャードとは、連絡を取っていなかった。


 騎士科に受かったなどという報告も、リチャードからしたらどうでもいい、それか、腹立たしい事かもしれない。


 しかし、そんなカトレアの考えに、ラドリゲスとハーベラは笑って首を振った。


「それはありませんな、カトレア嬢。何故なら、彼も、本当は騎士になりたかったのですから」


「お父様が?」


 ラドリゲスが話すには、幼い頃のリチャードは、騎士に憧れを抱いていたらしい。

 また、身近にラドリゲスという立派な騎士がいた事も影響していたのだろう。


 しかし、リチャードの父ーーカトレアから見て祖父は、兄であるラドリゲスの事を良く思っていなかった。

 長子でありながら、家督を捨てて騎士を選んだラドリゲスの事を、彼は嫌悪していたのだ。

 また、リチャードが一人息子であったことも、拍車にかかり、騎士への夢を厳しく否定した。


 それから、ラドリゲスは、ほぼ出禁となってしまい、父は自ずと騎士の夢を諦めざるを得なかったという。


「だから、お嬢様が騎士になると聞いた時は、不安な思いもあったとは思いますが、それよりも嬉しかったのだと思います」


「そう……かしら」


「旦那様は、素直ではございませんから。でも、私共には、まめに近況確認の手紙が来ているのですよ?」


 そうだったのかと、カトレアは、信じられない気持ちになる。

 自分に興味は無いのではないかと思う程に、仕事一筋な父がそんなにも気にしてくれていたとは……。


「……手紙、送ってみようかしら?」


 そうカトレアが呟けば、ハーベラが嬉しそうに綺麗な便箋とペンを引っ張りだしてきたのだった。




親愛なるお父様へ


 お元気ですか?

 あの日、快く見送ってくださりありがとうございました。

 お礼を伝えるのが遅くなってしまい、申し訳ございません。

 また、先日、騎士科の試験に無事合格致しました。

 まだまだ、騎士へは程遠いですが、必ずや、立派な騎士となり、お父様に顔向けできればと思います。


 では、手短で恐縮ですが、ここまでで……


 ご多忙かと存じますが、どうかお体に気をつけて。


カトレアより

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