第6話 協力体制
カトレアとグラトの間に、不思議な空気が流れている中、それを破るように、セラがやってきた。
「カトレアさん、どうしたんですか髪?」
「ええ、ちょっとゴーレムに掴まれちゃって……」
「え〜、それで切っちゃったんですか? 流石、カトレアさんですね」
セラは、そう言いながら、短くなった髪をまじまじと見てくる。
そんな場合じゃないだろと、カトレアが叱ると、セラは、首を傾げた。
「そう言われても、ゴーレム達、もういなくなっちゃったみたいですよ?」
セラの言葉に、カトレアは辺りを見渡す。
確かに、彼の言う通り、あれだけいたゴーレムがいなくなってたのだ。
だが、それを召喚した魔法士の姿は見えなかった。
だとすると、魔法士がゴーレムの召喚を止めたということになる。
(じゃあ、これで試験は終わりなのかしら?)
しかし、その考えは甘く、新たな人物がカトレア達の前に現れた。
ガタイの良い初老の男。彼もまた、試験官の1人だろうか……。
「受験生諸君に告ぐ! この俺、ゴンザレス・グートに一発入れる事が出来たら合格だ」
ゴンザレスは、さあ、どこからでも来いと、丸腰の状態で立っている。
それに、1番に斬りかかったのは、ダンデだった。
彼の大剣がゴンザレスに向けて、勢いよく振り下ろされる。
しかし、易々とそれは交わされ、ゴンザレスはダンデの襟元を掴むと、人形でも投げるように、軽々と投げ飛ばした。
「クソっ! なんてジジイだよ!」
かなり離れていた、カトレア達の所まで飛んできたダンデは、悪態をつきながら、ギリギリで受身を取った。
「考えなしに飛び込むからですよ、ダンデさん」
「テメェに言われたかねえんだよ。それに、相手の実力は誰かが見なきゃいけないだろうが」
ただ、半数の受験生は、今のゴンザレスの圧倒的な強さに怯えて、逃げ帰ってしまった。
(単身でいっても、恐らく返り討ちにあうわね。どうするべきか……)
ここは、残りのメンバーで協力するべきである。幸い、残ったという事は、ある程度の度胸はあるのだろう。
それを見込んで、カトレアは全員に呼び掛ける。
「皆さん、ここは一旦協力しましょう!」
しかし、カトレアに対して、数人の生徒が「女の癖に」と、不服を訴えてきた。
騎士という男社会において、この様な事はある程度覚悟はしていたが、こんな時にもそんな輩が居るとは……。
(馬鹿にするなら、時と場合を考えて貰えないかしら)
イライラするカトレアに同調するように、セラが、視線をその数人に向けながら、剣を構え出した。
そんな中、グラトは真っ直ぐ右手を挙げていた。
「えっと……、貴方は賛成ってことでいいのかしら?」
「あぁ」
グラトに釣られるように、先程助けたそばかすの少年や、他の青年達も、チラホラと手を挙げ始めた。
「まあ、協力しないならしないでいいだろ。全員が仲良しこよしは、それはそれで気持ち悪いしな」
「ダンデ……。そうね、貴方の言う通りね。私が傲慢だったわ。では、私達は一旦協力関係といきましょう」
カトレア達は、ゴンザレスから更に距離をとり、作戦を練り始めた。
まず、決して悪くはなかったダンデの先手を、意図も容易く交わした所を見ると、真っ向勝負は難しいだろう。
では、この中でダンデよりも素早いのは、誰か。それは、恐らくセラだ。
一撃を入れるなら、セラが1番可能性がある。
(次点は、魔法の威力的にダンデかしら? いや、でもリスクも大きいわね)
カトレアは、それらの懸念も含めて、意見を仲間に求めた。
すると、意外な反応を示したのが、そばかすの青年、ベン・サマリだった。
彼は、つらつらと地面に状況を描くと、それを元に、案を提示してきた。
「あっ、ごめん……。出しゃばりすぎだよね?」
「……いえ、驚いてるだけよ。私は良いと思うわ」
他の仲間からも不満は出ない事から、ベンの作戦を実行することにした。
「ヨシッ、そんじゃあ一丁ぶちかましてきてやるからよ、ちゃんと付いてきやがれ!」
ダンデの鼓舞に応えるように、カトレア達は、鞘から剣を抜いた。
「ちっとも骨のある奴がいねえな。おい、そこの腰抜け小僧達も来ねえか!」
ゴンザレスが呼びかけるも、戦意を無くした受験生達は、ガタガタと怯えるばかりである。
それでも、挑んでくる者もいるが、自分にとっては赤子も同然。ちぎっては投げ、ちぎっては投げの繰り返しである。
(挑んできた中では、赤毛の奴くらいかマシなのは……。ん? そう言えば、さっきから姿がえねえな)
その時、突如ゴンザレスは、業火の渦に包まれた。
目を見張るほどの、爆発的なまでの魔法に驚かされるが、このまま燃やされるのは困る。
ゴンザレスは、『土』の魔力で硬化付与の魔法を詠唱しようとした。
しかし、業火は一瞬にして消えた。
視界が開けると、こちらに向かって、4方向から青年達が迫っていた。
(火の魔法はフェイクか!)
「けど、これしきで殺れると思ってるなら甘いぞっ!」
ゴンザレスは、正面のそばかすの青年の剣を蹴り上げると、その剣を奪い、左右から来た青年達の剣をはじき飛ばした。
その流れで後ろの奴もと、剣を振り下ろす。
しかし、剣は瞬時に現れた氷壁に阻まれてしまった。
氷壁を出したのは、その向こうにいる唯一の女子の受験生。
(この娘……、詠唱無しでだしやがった!!)
高等な技を使う彼女に、ゴンザレスは益々楽しくなってきた。
しかし、呪文の詠唱が無いせいか、強度は無いらしく、直ぐにヒビが入る。
ゴンザレスは、叩き割ろうと、再び剣を振り上げる。
その時、ゴンザレスの上から影が降りてきた。
見上げると、クラーク家の子息が、頭上高くに居た。
「チィっ! 全部この為かよ」
とはいえ、自分の剣の方が、相手が斬りかかるよりも速いはずだ。そう思い、剣を強く握りしめ、子息の剣を防ごうとした。
しかし、空中で一気に加速した子息は、あっという間にゴンザレスの目の前に迫ってきた。
「なっ!」
不意をつかれたゴンザレスは、額に鈍い衝撃を受ける。
相手の柄が、ゴンザレスの額を打ったのだ。
「一発、貰っちゃいました」
そう言って子息は、剣を鞘へと戻した。




