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第5話 騎士のたまご達

カトレアが、せっせとゴーレムを倒していると、視界に、ダンデと長身の青年が睨み合っているのが見えた。


カトレアは慌ててそこに駆け寄り、ダンデを窘める。


「ちょっと、ダンデ! こんな時に、何喧嘩を売ってるの!?」


「違ぇよ! そいつから売ってきたんだよ!」


反論するダンデが言うことには、向こうが、突然武器を振り回してきたらしい。


なにか理由があったのかと、長身の青年を見ると、何か言いたげな表情でジッと、ダンデの後ろを見ている。


つられてそちらを覗けば、崩れた土の山があった。元々ゴーレムだった物だろう。

察するに、ダンデが後ろから襲われかけてたのを、咄嗟に切り倒したというところか。


「はぁー、もう、ダンデったら戦ってる時は集中なさい! あの方は、貴方の後ろにいたゴーレムを倒してくださったのよ?」


「ゲッ! マジかよ……」


どうやら正解だったらしく、青年は言葉は発しないが、満足そうにフンフンと、頷いている。


「それならそうと言えよ!」


「……どう伝えようかと」


青年は、申し訳なさそうに眉尻を下げた。

とはいえ、これ以上話している暇はないのだ。

この状況を乗り切るためには、1匹でも多くのゴーレムを倒さねばならない。


「うわぁあ! 助けてくれっ!」


その時、悲痛な叫び声がカトレアの耳に入った。

見れば、そばかす顔の青年が尻もちを着いた状態で、ゴーレムに迫られていた。

カトレアは、慌てて間に入り、ゴーレムを始末する。

ガタガタと震える青年に、カトレアは、膝をついて手を差し伸べる。


「貴方、立てるかしら? 怪我はーーっ!!」


突如、カトレアの髪が後ろに強く引っ張られる。

どうやら、別のゴーレムが隠れていたらしく、カトレアを捕らえようと、長い毛先を掴んでいるようだ。


(ダンデに集中しろと言った側から、このざまとは、目も当てられないわ)


カトレアは、歯をかみ締め、頭に走る痛みを堪えながら、剣を強く握りしめた。


「クッ、おあいにくさまね……。ちょうど、切ろうと思ってたところよ!」


カトレアは、迷わず、その白絹のように美しい髪を剣で切り裂いた。


ゴーレムの拘束から離れ、すかさず頭を貫こうとした所に、土の体がまっぷたつに割れた。

その後ろから、先程の長身の青年が、ハルバードを振り下ろした状態で現れる。


どうやら助けに入ってくれた彼に、カトレアは、お礼をと、口を開こうとした。

しかし、それを遮るように、彼が先に口を開く。


「グラト・バウソン」


「え?」


「さっき名乗っていなかったから」


グラトは、失礼したと、深々と頭を下げた。


「……えっと、助けてくれてありがとう。カトレア・クラークよ……」


絶対に今じゃないと思いつつ、カトレアも、おずおずと、頭を下げたのだった。







家主を失った屋敷の最上階。

その窓から、ロズウェルは、受験生達を眺めていた。


「あわわっ、みんな頑張って〜!」


そう、受験生達を応援しているのは、ゴーレムを召喚している張本人である、マリア・スチュワーノ。

彼女は、ヴィストン学園の魔法教師であり、且つ、王国内最上位クラスに君臨する魔法士である。


マリアは、フリルたっぷりのヘッドドレスと、豊かな乳房を揺らしながら、おいおいと、泣いている。


「ロズウェル先生、この試験、やっぱりみんなが可哀想だわ……。突然連れてきて、こんな事になるなんて、あんまりよ!」


「……襲っているのは、貴女のゴーレムなんですがね。まあ、でも、これが1番判断するのに手っ取り早いんですよ」


ロズウェルは、マリアにハンカチを差し出した。

彼女は、それを受け取り、しゃくり混じりに礼を述べた。


「ヨッ、色男さんにべっぴんさん。受験生の様子はどうだい?」


「ゴンザレス先生……」


2人に割り込むようにやってきたのは、同じく騎士科の教員である、ゴンザレス・グート。


初老になってもなお健在な、ゴリラのような逞しい体を持つ彼は、主に生徒達の基礎的な運動能力の向上を担当している。


彼もまた、ロズウェル同様、前職は騎士だった。


今回、試験官となったロズウェルは、マリアとゴンザレスの2人に審査の協力を依頼したのだ。


「遅刻ですが……、まあ良いでしょう。早速、見て貰えますか?」


「ハイハイっと。おぉ、中々エグい試験にしたなぁ。まあ、俺は嫌いじゃないがな」


ガハハと笑いながらも、ゴンザレスの目は受験生達をしっかり捉えている。


「あのハルバードの長身と、大剣の赤毛混じりは良いなあ。騎士ってのは、王国の盾だ。デカくて力のある奴は、とっとくべきだな」


「ふむ、では、ルークル家のご子息は、どうですか?」


「アイツはお前さんも見て分かるだろう?天才だよ、天才。文句なし合格だ」


後は……と、ゴンザレスが見つめるのは、受験生で唯一の女性。

正直、何故女性がと思ったが、そんなレッテルをも覆す働きをしているようだ。


「剣の腕がちと綺麗過ぎるが、あの歳にしちゃあ、まあまあだ。それに、あの場で潔く髪を斬っちまうってのが、また面白いな」


ゴンザレスの言葉に、マリアが再び大粒の涙を流し始めた。


「ううっ、私のゴーレムさんが髪を掴んじゃったばっかりに……。髪は女の子の命なのにぃ!」


「……そんな事より、マリア先生はどう思いましたか?」


マリアは、「そんな事って!!」と、ショックを受けていたが、泣きながらも、ロズウェルの質問に答える。


「ぐすっ、わたしは正直、剣の腕はよくわからないわ……。でも、魔法に関しては、あの子が頭ひとつ、いえ、ふたつも飛び抜けてるわ。既存魔法の応用なんて、魔法科の生徒でも一部の子しか出来ないもの」


2人の審査結果に、ロズウェルもほぼ同意である。

そうなると、残りの受験生達の処置である。


「もう、他は不合格にしましょうか?」


それに、すかさず否を唱えたのは、マリアだった。


「ダメ! あそこにいる子達は、みんな大事なたまごちゃんよ? これからの子達なんだから、そんな簡単に落としちゃダメ!」


「マリア先生は甘いんです。見込みがない者は容赦なく切り捨てた方が、彼らの為でもありますよ?」


正反対の考えのマリアに言い返していると、ゴンザレスが、まあまあと、仲裁に入ってきた。


「何だ、全員落とす訳にはいかんが、最低限のレベルはクリアしてもらわなくちゃならんとな。そこでだ……、こんなんはどうだ?」


そう言って、ゴンザレスが提案した案は、自分にとっても、非常に好ましいものだった。

ロズウェルは、面白いものが見れそうだと、ニヤリとほくそ笑んだ。

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