第2話 それぞれの剣
カトレア達は、店の一番奥へと来た。
そこには、おそらく自分達の物だろう、3本の剣が並べられている。
形も大きさもバラバラな所に、それぞれの性格が現れている。
「私とセラのは、最初に選んだ形がベースになってるのね」
「うーん、僕、ぼんやりとしか記憶にないです」
「……まあ、貴方眠たそうだったものね」
こんな物選んだっけ、と頭を捻っているセラは置いておき、カトレアは、1番大きな剣を見る。
長い剣身も然る事乍ら、驚くのは刃の幅の太さ。
かなり重たい事が、見た目からでも分かる。
(こんなの振れるのかしら?)
カトレアは、怪訝な目でダンデを見つめる。
それに気付いたダンデが、見せつけるように、軽々と片手で大剣を肩にのせた。
「馬鹿ぢーー、力持ちだとは思ってたけど、本当に凄いわね」
「おい、ぜってー『馬鹿力』って言おうとしただろ? つーか、お前の剣こそ、そんなヒョロくて大丈夫なのかよ?」
ダンデが指差すカトレアの剣だが、彼の剣とは全く正反対の代物である。
元々ある、スモールソードという剣を、より、カトレアでも扱えるように調整したものだ。剣身は細く、無駄な装飾も減らし、出来るだけ軽量化してある。
見ようによっては、頼りなく思われても仕方が無い。
「そいつは聞き捨てならねーな。この俺が作った物が、そんなヤワなわけねーだろ」
カトレア達の後ろで、椅子に腰掛けていたリュウノスケが、不機嫌そうに言った。
彼曰く、王国内で取れる特殊な材質を用いて作られており、軽量にも関わらず、耐久性にも優れているのだそうだ。
「なんだよ、やたらカトレアの奴に力入れてんじゃねえかよ」
「ハッ、貰ってる額が違うんだよ。」
リュウノスケの一言に、カトレアは慌てて聞き返す。
「貰ってる額が違うですって……?」
剣を買うにあたって、カトレアは自分の私物を売って出来た資金を使う予定だった。
しかし、既に貰っている言う事は……。
『それは、もう少し大きくなってからのお楽しみですぞ』
(もしかして、ラドリゲス様が既に支払ってる!?)
そういえば、見積もりだのなんだの話していた。
よく良く考えれば気づく話である。
自分の鈍感さにカトレアは、頭を抱える。
「お、おいくらでしたの?」
カトレアが恐る恐る聞くが、リュウノスケは、それは野暮だからと、答えてくれなかった。
「まあまあ、カトレアさん。別に違う形で恩返しすればいじゃないですか〜」
「あ、寝坊助のガキは、満額、騎士になってから返してもらうって言ってたぞ」
リュウノスケの言葉に、セラが「何で!?」と叫びながら、膝から崩れていった。
「まあ、嬢ちゃん。そんな湿気た面すんな。寝坊助の言う通り、また何かで返しゃいいんだよ」
「……はい」
カトレアは、自分の剣を慎重に手に取った。
(騎士になったら、絶対に何かしよう)
心の中で近いながら、マジマジと剣を見ていると、カトレアはある物を見つけた。
それは持ち手と鍔の間に嵌められていた。
「これ……、『氷』の魔法鉱石?」
形状は変わっているが、その透き通るような輝きは間違いなく、魔法鉱石である。
「あ? 待てよ……、俺のには、『火』のヤツが付いてる」
セラの剣も見れば、同じような場所に、『風』の魔法鉱石が付いていた
これはどういうことかと、カトレアは、リュウノスケを見た。
「元々、お前達が取ってきたのだ。餞別と思って受け取っとけ」
「……リュウさんがサプライズって、ちょっと気色悪ぃな」
「クソガキ、お前のだけ返せ。剥ぎ取ってやるよ」
大剣を取り合う2人を、遠巻きに見ながら、カトレアは魔法鉱石を撫でた。
『朝露の木』から落ちてきた魔法鉱石。
これを見るだけで、あの時の苦労も感動も思い出せる。
「これって、結局、あるとどうなるんですか?石のまま持ち歩くのと違うんですか?」
セラは、その大きな瞳に、不思議そうに魔法鉱石を映した。
彼の疑問に、カトレアは自分の胸元のリボンを例に説明する。
「このリボンみたいに、魔法鉱石を加工して作られた物は、より、持ち主の魔力を増幅させるのよ」
行商人のトトから貰った青色のリボン。
実はこの刺繍糸に、魔法鉱石が混ぜこまれていたのだ。
カトレアが『ヨルドの樹海』で、魔力を使い果たしても、魔法を維持できたのは、リボンが魔法鉱石の効果を発揮したからである。
ただ、魔法鉱石の加工物は、値段も高くなる。
それをサービスでというのは、金にこだわるリュウノスケらしくない行為である。
それを言ってしまうと、ダンデの二の舞になる。
カトレアとセラは、素直に礼を述べる。
「リュウさん、ご好意ありがとうございます」
「リュウさん、ありがとー」
リュウノスケは、少し照れくさそうに頬を掻いた。
それに対して、ダンデはまた、「気色ワリィ」と呟いたのは、カトレアの心にしまっておくことにした。




