表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/64

第17話 襲来

 暖かい季節とはいえ、夜はまだ冷え込む。

 カトレアは眠っているセラと一緒に、ローブにくるまっていた。


「ダンデは一緒に入らなくていいの?」


 カトレアは、火の番をするダンデを、ローブの中に誘った。


「平気だ。それに、3人揃って寝る訳にはいかねえからな」


「あら、なら代わりましょうか?」


「別にいいから、少しでも寝とけ。……お前らを俺の都合に付き合わせてんだ。火の番くらいしなきゃ、気が済まねえんだよ」


 こちらは気にしてないのだが、口にするのは余計なお世話かもしれない。

 それに、魔力も回復したとはいえ、完全ではない為、休めるのはありがたかった。


 カトレアは、ダンデの言葉に甘えて、ゆっくりさせてもらう事にした。


  焚き火を眺めながら、ウトウトとしていると、ダンデが寒いのか鼻を擦りだした。


「鼻が出るの?やっぱりこっちにいらっしゃいよ」


「いや、寒いんじゃなくてよ……、何か生臭くねえか?」


 カトレアも、匂いを嗅いでみるが、よく分からなかった。

 ダンデが「気のせいか?」と首を傾げていると、セラが急に目を覚ました。


「セラ?」


「……何か嫌な気配がします」


「嫌な気配って――」


 その時、カトレアの鼻でも分かる、生臭く錆臭い匂いが風に乗ってきた。それと共に、何かの足音が近付いてくる。


 カトレア達は、足音の方へ恐る恐る顔を向ける。


「――っ!」


 カトレア達の目に入ったのは、二足歩行のケルベロスのような魔物だった。2メートルはあるだろう大きな魔物は、その鋭い爪で猪を鷲掴みにしていた。


(ていうか、あれってもしかして……!)


 恐ろしい事に、3つの犬の頭は、洞穴でセラが倒した野犬達だった。そして、その真ん中の頭に、赤く輝く魔法鉱石が埋め込まれている。


 あれだけ探し求めていた物なのに、カトレアは、恐ろしさに足が竦んでいた。

 そんな中、セラが剣を手に魔物に斬りかかっていく。


「やあっ!」


 しかし、振り下ろした剣は、易々と腕で止められてしまう。すかさずセラは目を狙うが、魔物の鋭い牙に、刃を噛み砕かれてしまった。

 丸腰になったセラに、容赦なく魔物の爪が襲いかかる。


「セラ!!」


「クッ!!」


 セラは、既の所で鞘で攻撃を防いだが、勢いのまま吹き飛ばされる。慌ててダンデが受け止めに入ったが、勢いに負け、ふたり一緒に木に体を打ち付けた。


 カトレアは、2人に駆け寄るが、セラは腹にダメージを受けたのか激しくむせており、ダンデは、頭から血を流していた。


「セラ、ダンデ!!」


「クソっ、俺は大丈夫だ。頭切っただけだ……。けど、セラはもろにくらっちまってる。」


 グッタリ蹲るセラの様子から、彼が走って逃げるのは不可能だろう。

 しかし、無情にも魔物はカトレア達へと近付いてくる。


(このままじゃ……。そうだわ!)


 カトレアは、首に提げていた小瓶を握りしめた。


「『名を記されし者よ、ここに現れん!!』」


 カトレアの詠唱と共に、稲光が魔物の元へ走る。

 稲妻を受けた魔物は、劈くような叫び声を上げ、痛みに苦しんでいる。


 カトレア達は、その隙に走って逃げ出す。


「3分! 何とか逃げるわよっ!」


「チッ! こんなにも長え3分は初めてだよ!」


 カトレアの言葉に、セラを背負いながら、ダンデが叫びかえす。


 リュウノスケに言われた通りに、必死で逃げるカトレア達だが、背後からは、怒りの咆哮をあげる魔物が、先程よりも早いスピードで追いかけてくる。

 これでは、捕まるのも時間の問題だ。


 カトレアは、並走しているダンデを見る。

 平気とは言っているが手負いのダンデと、話す事もままならないセラ。


 彼等を残す訳にはいかない。


「ダンデ、何があっても足を止めないでくれる?」


「ハッ? 何考えてやがるテメェ!」


「良いから!! セラを頼んだわよ!!」


 カトレアは、ひとり足を止め、振り返った。


「『咲き誇るわ凍てつく六華! 』」


(体力作りだけしてたわけじゃないのよ! ここが成果の見せ所よ、カトレア!!)


 カトレアは、ラドリゲスの元でただ言われた事だけしていた訳では無い。自分に足りない分を補えるのは魔法なのだ。密かに勉強した呪文を、両手を構えカトレアは必死で唱え続ける。


「『美しき氷の華達よ、我等を守る氷壁となれ!!』」


 カトレアの詠唱により、目の前に敷き詰められるように現れた氷の華が、氷壁として魔物の進行を阻む。


 魔物は、響き渡る獰猛な叫び声を上げて、氷壁へと突進を繰り返す。


「うっ!」


 魔物の激しい攻撃に、魔法を使うカトレアの手にも衝撃が走る。それに加えて、日中の魔法により消費した魔力がここに来て響いていた。


(ダメっ! ここで耐えないとダンデ達がっ)


「お願いっ、まだ持って!」


 カトレアが願いを口にした時、胸元のリボンに異変が起きる。

 行商人のトトから貰ったそれは、刺繍がキラキラと輝き出した。それに比例するように、氷壁が更に強固な物へと変わっていく。


(一体どうなってるの? でも、これはチャンスよ)


 リュウノスケから貰った小瓶が、何になるのかは分からないが、この状況を打破する手段は、今現在それしかなかった。


 とにかく、彼を信じてカトレアは、魔物をこれ以上先に進ませないよう、踏ん張るしかない。


「もっと! もっと強く!!」


 しかし、魔物はこちらの予想もしない動きを見せる。


 魔物は爪に炎を纏うと、それを氷壁に振り下ろした。氷壁は、呆気なく砕け散り、魔物とカトレアの間には何も無くなってしまった。


「――あっ」


 カトレアは、絶望からか細い声を漏らした。


 魔物の鋭い爪が目前に迫る。


(せっかくやり直せたと思ったのに)

 

 カトレアは、2度目の死を受け入れようと、目を閉じた。


 しかし、その瞬間、落雷の様な光がカトレアと魔物の間に落ちる。それに弾き飛ばされたカトレアの体を、何者かが受け止めた。


「アー、何だってこんなレベルの魔物がいやがる?」


 その聞き覚えのある、ぶっきらぼうな喋り方に顔を上げる。


 すると、何故かここに居ないはずのリュウノスケが、カトレアを抱きとめていたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ