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第16話 大木の下で

 道を抜けた先には、大きな大木があった 。カトレア達が手を広げても足りない程の太い幹の大木には、たくさんの蕾が付いている。


 カトレアがもう一度、大木の下で魔法鉱石を探る為、水色の光を飛ばすと、それは、そのまま真上に登っていき、ひとつの蕾の前で止まった。


「まさか、あの蕾の中にあるのかしら?」


「なら、さっさと採っちゃいましょ?」


 セラは、蕾を目がけて小石を投げようした。

 しかし、ダンデが慌ててそれを止める。


「待て! そんな事したら採れなくなるぞ!」


「ダンデ、貴方、あの木について何か知ってるの?」


「あぁ、昔、母さんが教えてくれたんだ。あれは『朝露の木』だ」

 

 ダンデの話によると、『朝露の木』は自然豊かな環境でのみ生息する植物で、開花が朝露の発生する明け方にのみ行われる事から、その名がつけられた。開花した花は、雪のように白く、美しい。


 しかし、開花を前に蕾が落ちてしまうと、不思議な事に氷のように固まってしまうらしい。それは、かなり硬く、蕾を開くことはおろか、砕く事も出来なくなるのだ。

 

「無理に割っても、中の魔法鉱石が割れたら意味がねえ」


「なら、待つしかないってわけね?」


 現在地を地図で確認すると、カトレア達は樹海の大分奥の方に来ていた。夕方近い今の時間帯では、樹海の途中で夜中になってしまう。地図があるとはいえ危険である。


「今日は、ここで野宿だな。カトレア、エドヴァール団長に風便り送ってくれ」


 カトレアは、ダンデの指示に頷き、いそいそとエドヴァール宛の風便りを準備する。


「あれ? じゃあ、今日はこれ以上歩かなくていいんですか? やったー」


「テメーのその能天気さには恐れ入るぜ……。とりあえず、暖の確保すっか」


 ダンデが枝を拾っている間に、カトレアは風便りを飛ばした。


(野宿なんてした事が無いけど大丈夫かしら? けど、騎士になればこんな事は日常茶飯事だろうし……)


 カトレアが初めての出来事に、不安を感じていると、セラがフラフラと寄ってきた。


「カトレアさん、怖いですか?」


「セラ……。そうね、怖いというよりは不安かしら? 情けないわよね?」


「んー、いいんじゃないですか? 僕も不安ですし……。こんな布団が無いところで安眠できるでしょうか?」


 セラは、唇を尖らせながら、カトレアの腕にくっついてきた。

 セラに限って眠れない事はないと思ったが、彼も彼なりに不安を抱えてると思うと、少し気持ちが楽になる。


「僕達こどもなんですから、不安になって当たり前ですよ。それに、多分……、いちばん不安なのはダンデさんじゃないですか?」


 彼の言葉に、カトレアはハッとする。

 ダンデは、この魔法鉱石探しに、自分の夢を賭けているのだ。

 しかし、1日が終わるというのに、彼の『火』の鉱石だけが、反応を示さなかった。内心、焦っている筈なのだが、彼の口から弱音を聞いていない。


(きっと私達に見せないようにしてるのね)


 セラは、ぼんやりしているようで、しっかりと周りを見ているのだなと、カトレアは、感心する。

 セラの頭を撫で、カトレアもダンデを手伝おうと、彼の元へ向かった。



 



 パチパチと燃え盛る焚き火を見つめながら、カトレア達は、持ってきたパンと干し肉を食べていた。


「せっかく、火の魔力を持ってるのに、マッチ使うって勿体なくないですか?」


「うっせえよ。細かい魔力の調節ができねえんだよ。ここら一体、火事になってもいいなら使うぜ?」


 2人の言い合いを眺めながら、カトレアは、ふと気になっていた事を口にする。


「ダンデは、何で騎士になりたいの?」


 カトレアの疑問に、ダンデは、一瞬迷いを見せたが、ゆっくりと口を開いた。


「俺の母さんは……、国王の愛人だった」


 ダンデの告白に、カトレアとセラは息を呑んだ。そして、カトレアは気付いたのだ。


 焚き火を映す彼の瞳が、かつて自分が愛した人と同じ琥珀色である事を。


「俺の父親が国王だって知ったのは、母さんが死んでからだ。手紙を見つけちまったんだよ。母さんが病気の体で、精一杯書いた手紙を」


 ダンデが目にした手紙には、自分が死ぬ前に一度でいいから会いたい事、ダンデを見て欲しいという願いが書かれていた。

 しかし、ダンデの母親は、終ぞ、それを送ることはしなかった。その為、彼女の切なる思いを息子であるダンデが、王家へと送ったのだ。


「けど、返ってきたのは封筒に詰めた札束だった。手切れ金のつもりだろうよ……。国王は、母さんの思いを金で消そうとしやがった」


「だったら、何で王国の騎士なんかに?復讐のため?」


 カトレアが恐る恐る尋ねると、ダンデは、鼻で笑った。


「ハッ、そんな事したら、母さんの顔に泥塗るだろーが。俺はな、正々堂々、騎士になってよ、国王にあの舐めた手切れ金をそっくりそのまま返してやるんだよ。それに、国王が捨てた女の息子が、王国を守る1番の騎士になるなんて、スカッとする話はねえだろ?」


 話は終わりだと、ダンデは、再び干し肉を齧りだした。


 ダンデは、なんて事ないように言うが、たった9歳の子どもが、母親を亡くしてどれほど心細かったか。母親の願いを叶えると言ったが、彼は、心のどこかで、母親を亡くした悲しみを、父親と分かち合いたかったのではないだろうか?彼が欲しかったのは無機質な札束ではなく、父親の言葉だったのだ。


 カトレアは、涙が止まらなかった。


「おい、泣く必要はねえだろ?」


「だって、貴方が傷付いてないみたいな顔をするから……」


「はぁ、訳わかんねぇ……」


 ダンデは、気まずそうに頬を掻く。そして、セラに助けを求めようと、そちらに顔を向けた。

 しかし、セラまでもがボロボロと泣いていた。


「お前まで泣くなよっ!」


「うえぇっ、こんなん、泣くなって方がむりっです!」


「あーー、うっせえな! クソっ、俺ばっか話してんのも気に食わねえ! こうなりゃ、じゃじゃ馬女も教えろ!」


 ダンデが、話を変えようとカトレアに騎士を目指す理由を聞いてきた。

 カトレアは、涙を拭いつつ、一通り、騎士を目指した経緯を説明した。ーー勿論、自分が一度死んでいる事は話さずにである。


「グスッ、でも、カトレアさんは、魔力のコントロールとか上手だから、魔法士でも良かったんじゃないですか?そっちのが、騎士よりは安全ですよ?」


 言われてみれば、セラの疑問は最もである。女の身で騎士になるよりは、魔法士を目指す方がよっぽど可能性がある。


「でも、なりたい姿を見つけてしまったから、それ以外目指せなくなったのよ」


 そう、この人生で、カトレアが初めに憧れを抱いたのは、一度目の人生でカトレアを斬った騎士である。

 彼のようになりたいという思いは、そう簡単にブレるものではなかった。


「2人共凄いですね。僕は出来れば、令嬢みたいに、お金持ちのとこに嫁いで、ダラダラ暮らしたいです」


「セラ? 令嬢だって大変なのよ?マナーや、見た目の美しさ、パーティーの場での社交性だって身につけなくてはいけなくてよ?」


 カトレアがそう教えると、セラは嫌そうな顔をして「やっぱ辞めた」と、ふて寝した。


「まあ、お前には、なんだかんだ騎士がいいんじゃね? そんくらい腕があんなら、騎士になる方がどんな仕事目指すよりも楽かもよ」


 ダンデの意見に、セラは、目からウロコだとばかりに驚いていた。


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