第15話 束の間の休息
『エドヴァール様へ セラの活躍により、無事風の魔法鉱石を手に入れました。3人共、怪我なく無事です。取り急ぎ、ご報告申し上げます……』
「カトレアよりっと。」
カトレアは、エドヴァールに報告をする為、風便りを飛ばした。
昼過ぎ現在。カトレア達は湖のほとりで休憩をとっていた。
風の魔法鉱石が見つかった後、カトレアとダンデが、残り2つの鉱石の場所を探った所、氷の鉱石の方に反応があった。
セラの時よりも、ハッキリした水色の光が北の方へ消えていった為、その方向へと歩いていた時に、カトレア達は、この湖を見つけたのだった。
「あー、サッパリした!」
湖で顔を洗っていたダンデが、カトレアの隣にやってきた。
「お前も足くらいつけてみろよ」
「うーん、でも、素足を人前で見せるのは、はしたないし……。遠慮させてもらうわ」
「女ってのは大変だな。なら、手だけでも付けてみろよ」
ダンデはそう言って、カトレアの手を掴んだ。掴まれた手は、そっと湖の水へと沈む。
「わぁ、冷たい……」
カトレアが、水の冷たさに感動すると、ダンデは口元を綻ばせた。
「気持ち良いだろ?」
「ーーっ!」
ダンデは、満足そうにその琥珀色の目を細めて笑う。勝気な彼からは予想もしなかった穏やかな表情に、カトレアは驚いた。
「どうした? そんな間抜けな面して」
「い、いえ、何でもなーーー」
しかし、カトレアが言い切る前に、後ろで寝ていたセラが、起きてきた。
「う〜ん、おはようございます……。あっ、手繋いでる。ラブラブですか?」
「バッ! そんなんじゃねえよ!!」
「仲間外れは嫌ですよ? 僕も繋ぎます」
セラは、カトレアの左手を手に取り、グデッと肩に体重を乗せてきた。その小さな頭に、カトレアの母性本能がくすぐられる。カトレアは、撫でる代わりに、セラの頭に自分の頭を寄せた。
「フンっ! 休憩は終わりだっ! とっとと先進まねえと、日が暮れちまう」
ダンデは、繋いでいた手を振りほどき、ドスドスと足音を立てて、リュックを拾いにいった。
穏やかな時間に、目的を忘れそうになるが、彼の言う通り、そろそろ動き出さなくてはならない。
まだ休みたがってるセラを叱咤し、カトレア達は、氷の魔法鉱石を求めて歩き出した。
水色の光を追って、カトレア達が辿り着いたのは、木々や蔦が生い茂る道だ。
しかし、枝や蔦が絡まり合い、道を塞いでしまっていた。
「この先、進めってのかよ……」
「うへぇ……、流石に無理じゃないですか?」
切って進むのも難しい程の絡まり具合に、ダンデとセラが、呆然と立ち尽くしている。
カトレアは、塞いでいる枝や蔦を見て、どうしたものかと思案する。
(そういえば、あの魔法ならいけるかもしれないわね)
「2人共、ここは私に任せてくださる?」
カトレアは、2人が下がったのを確認して、両手を構える。
「『凍てつく力よ、我が望むものを凍らせよ』」
カトレアの詠唱に従い、道を塞ぐ枝や蔦が次々に凍りついていく。ほぼ凍らせた所で、カトレアは、次の呪文を唱える。
「『我が力で凍りついた物よ、我の指示をもって砕けよ!』」
カトレアが力強く拳を握りしめると、氷と化した枝や蔦が、ガラスの様に砕け散った。道は塞ぐ物が無くなり、人ひとり分通れるようになった。
(よし、魔法は成功したわね)
「はっ……」
カトレアは、魔力を消費した事により、軽い目眩をおこした。ふらついた体は、ダンデが支えてくれたおかげで、倒れずに済む。
「おいっ! 大丈夫か!?」
「大丈夫よ……、ちょっと疲れただけ」
先を急ごうと、カトレアは2人を促す。
「カトレアさん、こんな大きな魔法使って、大丈夫な訳無いですよ……。少し、休みましょう?」
セラが心配そうに背中を撫でながら勧めるが、カトレアは首を振る。
(この位でふらつくなんて、まだまだ修行が足りないのだわ)
情けないと、歯噛みして悔しがっていると、ダンデがカトレアの体を俵のように担ぎ出した。
突然の事に、あたふたしていると、ダンデは不機嫌そうに舌打ちをする。
「動くんじゃねえよ、じゃじゃ馬女。落とされたくなかったら、大人しくしてろ」
「〜っ! もうっ! ほんっとに、雑な殿方だわ!」
「ケッ、雑で結構。ほら、セラ、荷物持ちやがれ」
ダンデの指示に、セラは面倒くさそうにしながらも、リュックを担いだ。
カトレアは、ダンデに担がれたまま、自らが拓いた道へと進んでいった。