第14話 若き天才
カトレア達が風の魔法鉱石を求めて歩いた先にあったのは、ひとつの洞穴だった。
「セラ、もう一度探してもらえるかしら?」
「はい。我が身に宿りし魔力よー、石の所に連れてってください」
セラが唱えると、緑の光は洞穴の中へゆっくりと向かっていく。
カトレア達は、その後を恐る恐るとついて行く。幸い、緑の光が道を照らしてくれている為、光を付ける必要は無いが、足元はあまり良くない。
躓かないよう、慎重に歩いていると、ダンデが急に足を止めた。
「ん? おい、奥からなにか来るぞ」
ダンデと同じように、カトレアも耳をすませてみると、確かに、地面を蹴る音と、ハッハッハっと、獣の息遣いが近づいてきている。
「ガウッ! ワンっワンっ!!」
「しまった! ここは野犬の縄張りだ! 逃げろ!」
ダンデの言う通り、大きな野犬が3匹カトレア達へと向かってきていた。 カトレア達は、急いで踵を返し、出口へと走る。
「これ以上刺激して怒らせると厄介だ! 一旦出て、木の上に逃げるぞ!」
「わ、分かったわ! ……ちょっと待って! セラは!?」
セラがついてきていない事に気が付き、足を止め振り返ると、彼は、何故か逃げる様子もなく立ち止まっていた。
「おい、バカ!! 何してんだ逃げろ!」
慌ててダンデが引き返すが、野犬達はもう既に近くに迫っていた。
(ここは、私の魔法で……!)
カトレアは、両手を構えて呪文を唱えようと口を開く。
しかし、それより先にセラが鞘から剣を抜き取り、野犬達に斬りかかった。
セラは、1匹の野犬の頭を剣で叩きつけると、すばやく身を翻し、後ろの野犬の首に刃を振り当てる。そして、上から襲い掛かる最後の1匹を軽い動きで避けると、野犬の腹に剣の柄を入れた。
野犬は、キャンっと短く鳴くと、そのまま地面に倒れた。
「セラ、貴方……」
「あ、大丈夫ですよ。これ、刃の部分潰してあるので、斬れてはないと思います。」
「そういう事では無いのだけど……」
野犬の群れを1人で片付けてしまったセラは、何でもないように、服のホコリを払っている。
隣にいるダンデを見ると、目の前の出来事に、あんぐりと口を開けていた。
「お前、怪我はねえのかよ? 何で逃げなかったんだ?」
「だって、逃げたらまたここまで来ないといけないじゃないですか……。なら、倒しちゃった方が早いですし。もちろん、怪我はしてないのでご心配なくです」
セラは、そう言って、さっさと、緑の光へ歩いていく。慌ててカトレア達も、倒れている野犬を跨いでその後を追った。
洞穴を少し歩くと、緑の光がある場所で止まった。そこは、瓦礫が積み重なった場所だった。ダンデが瓦礫をどかすと、下には、透き通る様な輝きを放つ、緑の石が落ちていた。
「これが、魔法鉱石……」
「資料でしか見た事がなかったけど、本物はこんなにも綺麗なのね」
「何か、左手がすっごくゾワゾワします。目の前にあるからですかね?」
三者三様に感動しつつ、ダンデが魔法鉱石をリュックに仕舞う。すると、案内の役目を終えた緑の光が、スーッと消え去った。
緑の光が無くなった為、ダンデが持ってきた小さなランプで道を照らしながら、カトレア達は元来た道を戻った。
野犬達が再び襲い掛かる可能性を考え、何時でも魔法が出せるよう構えていたが、野犬達の姿は無かった。恐らく逃げたのだろう。
洞穴を抜けると、セラがすぐにその場に腰を下ろした。
「ふあぁ、もう昼寝の時間かもです。ダンデさん、おぶってください。」
「はぁ? 自分で歩けよ!」
「えー、せっかく、魔法鉱石見つけたのに?しかも、野犬も倒したんですよ? ちょっとくらい労わってくださいよ」
セラの言い分に、ダンデは、グヌヌ……と唸った。
「チッ! オラッ、とっとと来やがれ」
渋々と折れたダンデは、その場にしゃがみ、おぶさりやすいように、背中を丸めた。それを見たセラは、いそいそとそこに乗っかった。
「ダンデ、荷物持ちましょうか?」
「フンっ! こんくらいどうって事ねえよ。ほら、野犬が戻ると面倒だから早く行くぞ」
子ども1人とはいえ、重たいはずなのだが、ダンデは、スタスタと樹海を歩いていく。
(ダンデは、力持ちなのね)
まだ、小さいけれど頼もしいダンデの背中を見ながら、カトレアも置いていかれないよう、いそいそと歩いた。