第13話 魔法鉱石の導き
カトレア達は、パキパキと落ち葉を踏み鳴らしながら樹海に入る。背の高い木々が影となり、樹海の中は朝だというのに薄暗い。
「ねえ、ここって誰かの所有地とかではないんですか?勝手に入って良かったんですか?」
セラは、キョロキョロと辺りを見回しながら、首を傾げた。その質問に、ダンデが「確かに……」と、頭を掻いている様子から、彼もよく知らないようだ。
(まあ、まだこの年じゃ教わってないわよね)
カトレアは、1度目の人生の時、ヴィストン学園で学んだ事を説明する。
「確かに、資源の採掘地を所有する貴族もいらっしゃるわ。ただ、こういう規模が広くて、管理が難しい場所は、皆さん持ちたがらないのよ」
2人は、何故?と、不思議そうにカトレアを見つめる。
「万が一、所有する採掘地で、遭難や怪我、災害が起こったりした場合に、所有者が対応しなくちゃいけなくなるからよ。もちろん、未然防止も含めてね」
「確かに、それは面倒臭いですね。僕ならやりません」
「フフっ、そういう事よ。ここの樹海は王国管理の土地で、出入りは自由だけど、何があっても自己責任ってことになってるわ。」
ただ、ヨルドの樹海自体はそれ程危険な場所ではないと、王国の調査で報告されている。
もっと危険な採掘地であれば、さらに険しい道のりだったり、ライバルの採掘者がいたりする他に、危険な魔物が多く生息したりする。
魔物は、原因はハッキリしていないが、魔法鉱石が豊かな場所に多く存在するとされる。研究者の推測では、その土地自体に魔力があり、野生生物がその影響を受けて、変異したと言われている。
「裏を返せば、安全だが魔法鉱石の数はあんまり無いって事じゃねえか」
「そっ、ご名答よ、ダンデ君。」
カトレアの言い方に、ダンデは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
とはいえ、ここまで来たからには、カトレア達は何としてでも探すしかないのである。
「2人共、魔法鉱石の探し方はご存知?」
「……」
「……まあ、知らなくてとうぜんよね」
普通は、ヴィストン学園で教養の1つとして、教わる内容である。それこそ、魔法士や採掘業につとめていなければ、必要の無い知識なのだから仕方ない。
カトレアも、知識として持っているだけで、やってみた事はなかった。
しかし、唯一知っている自分がやってみない事には始まらない。カトレアは、記憶を頼りに2人にやってみせる事にした。
「まず、利き手を前に出して魔力をそこに集中させる」
カトレアは、頭で右手に魔力を纏わすイメージを思い浮かべた。
すると、右手にひんやりとした水色の冷気が発生した。利き手に魔力を集中させる事に成功したようだ。
「よしっ! ……えっと、それから、呪文を詠唱するの。確か……『我が身に宿りし魔力よ、源となる石へ導きたまえ』」
カトレアが唱えると、右手の冷気が更に大きく広がった。しかし、それは直ぐに消えてしまった。
「あら、この辺りには無いって事かしら……。とりあえず、2人もやってみてくださる?」
カトレアの指示に、見よう見まねでダンデとセラが実践してみせる。
「魔力を利き手に集中……っ! うわっ!!」
「ちょっと! ダンデ、火が大き過ぎよ! 木に燃え移ったらどうするのよ!」
「そんな事言われたってよっ! あー、もう!我が身に宿りし魔力よ、源となる石に導きやがれっ!」
ダンデが投げやりに唱えると、右手に燃え盛っていた炎は、円を描いて消え去った。どうやら、火の魔法鉱石もこの近くには無いらしい。
残るは、セラなのだが……
「……セラ、一応それは魔力を集中させてるのよね?」
「んー、精一杯やってるんですけどねえ。あっ、何かちょっとふんわり撫でられた感じがします」
セラに近付くと、彼の左手に、うっすらと緑のモヤがかかっているのが見える。一応は、魔力らしきものが出ているようだ。
(これでいいのかしら……?)
カトレアは不安に思うが、一旦セラに呪文を詠唱してみるように伝えた。
「了解しました。我が身に宿りし魔力よー、石のところに連れてってください」
こんな詠唱で大丈夫なのかと、カトレアとダンデは顔を見合わせた。
しかし、セラの魔力は予想外に反応を見せた。
少しだけ緑が色濃くなると、そよ風程度の風が3人を撫でる。セラの手に纏った魔力は、蛍くらいの光に変わり、フヨフヨと樹海の奥へと消えていった。
「あれ?もしかして、あっちにあるかもですね。何か、左手がソワソワしますし」
「そうだと思うけど……」
(こんな心許無い誘導だと思ってなかったわ)
とはいえ、3人の中で唯一、近くに魔法鉱石があるのだ。
セラを無理矢理先頭にし、カトレア達は、光が消えた方へと足を進めた。
2020/9/19
更新を2話行いました。