第11話 集合
刃物屋での騒動から数週間が経ち、カトレアは、再び王都を訪れた。
「ご機嫌よう、ダンデ」
カトレアは、魔横丁を入ってすぐの場所で、既に待っていたダンデを見付ける。
「おー、今日はお前1人か?」
「ええ、ラドリゲス様とは街の入口で別れたわ。私が馬に乗れたら送っていただかなくて済んだのだけど……、情けない話ね」
「いや、あの爺さんが許さねえだろ。マジで、じゃじゃ馬女だな」
「あら、口の利き方には気をつけた方がよくてよ? 私が居ないと、『氷の魔法鉱石』は、手に入らないんだから」
ダンデは、返す言葉が見つからないのか、グググ……と唸っている。
目的である魔法鉱石を3種類手に入れる為には、3人がそれぞれ違う属性の魔力を持っている必要があった。そして、幸い、カトレアは『氷』、ダンデは『火』、セラは『風』と、異なる魔力を持っていた。とりあえずは、属性が被るという最悪の事態を回避できたのだ。
ただ、セラだけは、心底残念そうにしていたが……。
さて、残るはそのセラだけなのだが、出発の時間まで、後5分だというのにまだ来ていない。
刃物屋に居た時も面倒臭いとしきりに愚痴っていたが、もしかして、逃げ出してまったのだろうか?今回の件は、彼には関係ない事なので申し訳ないとは思うが、来てもらわないと非常に困る。
カトレアが、祈るように待っていると、ダンデが「おい、アレ……」と、道の向こうを指さす。
その先を見ると、エドヴァールが、セラを脇に抱えながら歩いてくるのが見えた。
「……ムニャムニャ、あと5分ムニャ」
セラは、エドヴァールに抱えられても尚、眠り続けていた。空いてる手に抱えているのは、セラの剣と荷物なのだろう。
「寝汚い孫で本当に申し訳ない……」
「い、いえ、エドヴァールが気に病むことでは……、それに、セラは私たちよりも年下ですし、ね?」
「2つしか違わないんだがな、何故こうなったのか……」
項垂れる元騎士団長から、未だ起きる気配のないセラを受け取る。
「君らのように、志高く騎士を目指す子供と一緒にいることで、セラの刺激になればと思ってる。よろしく頼む」
「それは……、ちょっと俺達には荷が重いかも知んねえです」
「『あわよくば』程度だから、気にしないでくれ。あと、念の為、紙と風便り封筒を渡しておく。昼に1回、帰る時に1回、最悪一晩明かす事になった時にも、送りなさい」
エドヴァールは、5通分の紙と封筒をダンデに渡した。非常に高価な物を当たり前のように渡され、ダンデは戸惑っている。
「風便りって、結構高いんじゃ……?余計なお世話かもですが、大丈夫ですか?」
「比較的安全な採掘地とはいえ、何があるか分からない場所に、子供達を送るのだ。安否確認は、大人の義務だろう?……無事に帰ってくるのだぞ。」
エドヴァールは、カトレアとダンデの頭を優しく撫でると、元来た道を引き返していった。
彼から貰った封筒達は、カトレアが預かる事にし、リュックにしまった。
眠っているセラを、一旦ダンデが背負い、3人は街の外まで向かう。
「ヨルドの樹海は、王都の北外れにある。街の北口に借りたポニーと引車を用意してあるから、近くの村までそれで行くぞ」
「ダンデは、乗馬ができるの?」
「ああ。基本はポニーに乗って配達の仕事してっからな。ホントは大人の馬が良いけど、身長が足りねえ。まあ、それでも歩くよりは、速いんだけどよ」
カトレアは、驚いた。1度は18歳まで生きたカトレアよりも、隣の少年の方がよっぽど優秀である。
騎士になると決めた時こそ、街に出て働こうと思っていたが、それは、カトレアが思っているよりも、ずっと技術のいる事なのだ。もし、あのまま、何も出来ない世間知らずの小娘が街に出ていたら、どうなっていたのか。カトレア、想像するだけでゾッとした。
「そういえば、お前が首に掛けてるその変なヤツなんだよ?」
「あっ、これ?これは、リュウノスケ様が、何故か私に渡してきたのよ」
カトレアが今首から掛けているのは、黄色の砂と小さく折り畳まれた紙が入った小瓶である。
これを渡されたのは、刃物屋を出る帰り際の時だった。
「おい、嬢ちゃん。お前だけちょっと来い」
各々が店を出ようとする中、カトレアだけ、何故かリュウノスケに引き止められた。
恐る恐る近付くと、首に小瓶がぶら下がった首飾りを掛けられた。
「あの、これは?」
「コイツをヨルドの樹海に行く時に忘れず付けてけ」
「わ、分かりましたけど……、一体なんの為に?」
「まあ、念の為にだよ。もし、死の危険が迫ったら、コイツを握り締めて、『名を記されし者よ、ここに現れん』って唱えろ。唱えたら、3分、死ぬ気で逃げろ。分かったな?」
有無を言わさないリュウノスケの言葉に、カトレアは黙って頷くしかなかった。
「一体何が起きんだろうな?も、もしかして、爆発するんじゃ……」
ダンデの予想に、カトレアはザッと顔が青ざめる。
「そ、そんな事、あるわけない……わよね?」
急に首飾りの重みが増したような気がしたカトレアは、投げ捨てたい気持ちをグッと堪えた。
※登場人物紹介を先頭に挿入しました。