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#4 テスト返却

 昨日の出来事がまだ頭の中をループしている金曜日。今日は一日上の空という感じだった。自覚はある。

今朝、宮野先生を見かけた時にまず思い出して、顔が赤くなりそうになるのを必死に抑えようとした。授業中も何度となく思い出しては恥ずかしくなったり、なんであんなこと……と考えたり、こんなことに気を取られている自分が馬鹿馬鹿しくなったり、感情はとにかく忙しなく動きっぱなしだった。

昼休み、一緒にお弁当を食べていた梨花にも指摘されてしまった。

「美桜、今日ぼけっとしてない?」

「えっ……そう?」

「うん、なんかあったの?」

「うーん……いや……?」

はっきりしない私に、そう? と眉をひそめながらも、梨花は諦めた様子でそれ以上は聞いてこなかった。

そしてついに6限目、本日最後の授業。宮野先生の数学だ。ここまで来ると、一旦別のことに意識が移る。

宮野先生は大きな紙の束を持って教室に入ってくると、それをドサッと教卓に置いた。

「先生! テスト返すんですか!?」

クラスの男子の声に先生が「うん」と答えると、休み時間の教室がさらにどよめく。「いやだー」とか「返ってくるなー」とか。まあいつものことだ。

キーンコーンカーンコーン……。

無慈悲にも授業開始のチャイムは鳴って、号令がかかる。

「テスト返しまーす。出席番号順に取りに来てー」

先生が1番から名前を呼び始めると、教卓の前に列ができていく。私の出席番号は真ん中寄りだから、少しの間はテストを受け取る人を眺めていられる。

受け取る前も後も表情に出さない人もいれば、受け取って教室の端に行き、恐る恐る答案用紙を開いた瞬間に満面の笑みを浮かべガッツポーズをするような反応の大きい人、友達同士見せ合って点数を競って盛り上がっている人もいる。

頃合いを見計らって、私も席を立った。

昨日の先生の言葉を思い出せば悪い点数ではないことはわかっているけれど、やっぱりドキドキする。自分なりに頑張った分、他の科目よりも気になるものだ。

教卓に近づくにつれてドキドキは増していく。

「遠坂」

「はい」

 ついに教卓の前にたどり着き、私は唇をきゅっと引き結んだまま先生の顔を見上げる。

「よく頑張りました」

先生はそう言ってにこっと微笑み、私に答案用紙を手渡した。

そう、この言葉が聞きたかったのだ。

先生は90点以上の点数を取った人に、こうやって言う。だからいつもこの言葉を聞くために勉強を頑張っているし、実際に聞けると本当に嬉しい。

ほっとしながら自分の席に戻りつつ、そっと答案用紙を開いてみる。

目に入ったのは赤ペンで書かれた「96」とその下の「Excellent‼」の文字。ここでやっと本当に緊張が解け、思わず口角が上がった。

と、右腕をちょんちょんとつつかれる感覚があった。見ると、梨花がこちらに笑いかけている。

「どうだった?」

私は何も言わず、にっこりと点数の部分をめくって見せた。

「わあっ、すごい! さすが美桜だわ。また負けちゃった~」

梨花は裏返していた自分の答案の端っこをめくって点数を見せてくれた。92点だった。

「梨花もすごいじゃん。相変わらず」

「美桜にはいっつも負けちゃうけどね」

「まあ、私が梨花に勝てるの数学くらいだもん」

 とにかくおめでとう、と言ってくれた梨花にありがとうと返して、今度こそ自分の席に戻った。

 全員に結果を返し終わると、先生がはーい静かにーと話を始める。

「今回のテストは俺が作ったんだけど、70点は取れてほしいくらいの難易度にしました。学年平均点は64点。ちょっと惜しかったな。そして6組の平均は……71点! 全クラスで1位です」

 教室中で「おおーっ」という歓声が上がり、パチパチと拍手も聞こえた。

「6組は授業中もみんな真面目にやってるし、課題もきちんと出してくれるし、その成果が出てる結果ですね。これからもこの調子で頑張ってください」

 そして……というところでパチッと宮野先生と目が合った。が、その目線はすぐに教室全体に戻る。

「学年最低点……は言わないけど、最高点は96点。このクラスにいます」

 その瞬間、心の中で飛び跳ねた。ほんとに? 自分の答案に書かれた点数をもう一度確かめたが、さっき見た通りだ。

 誰だろう? とざわめく教室で、複数の人物に注目が集まる。私もちらちらと、特に右隣からは熱い視線を感じた。ちらっと目を合わせると梨花はすでに満面の笑み。期待感にドキドキと心臓が高鳴る。

 そして満を持して先生が口を開いた。

「96点は遠坂。おめでとう!」

 自分ではわかっていたとはいえ、先生が名前を呼んで拍手をしてくれると、その笑顔を見ると、嬉しさがこみ上げて私も笑顔になった。良かった、数学頑張って。

 クラスの人も、「すごいね!」「おめでとー!」「さすが数学係!」などとみんながこっちを見て拍手してくれた。嬉しさにちょっぴり照れくささが交じった。

「それじゃあ授業始めようか。まずは今回のテストでみんなの間違いが多かったところ復習していきますね」

 先生がテストの解説を始めたのを聞きつつ、解答用紙の文字を何度も見返しては口元を緩ませていた。たくさんの丸がついた解答用紙に、Excellentの文字。そしてさっきの先生の言葉と笑顔。どれもテストを頑張った私への最高のご褒美だ。

ちなみに、放課後すれ違った宮野先生に「授業中ずっとにやにやしてただろ」と言われてしまい、美桜は顔を真っ赤にするはめになったのだった。

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