プロローグ
濡れた髪を海風になびかせ、少女は荒波の打ち寄せる断崖の上で、遠くの空を見つめていた。
視線の先には大きな月と小さな月がふたつ並んで浮かび、うす水色の空に溶けてしまいそうなほどぼんやりと輝いている。
そのふたつの月のわずかな隙間に向かって、黄金色に輝きながら羽ばたいていくものがあった。
しかし少女の瞳には、ふたつの月も金色に羽ばたく何かも映ってはいなかった。
『あれは何だったんだろう』
『こんなこと言ったって誰も信じてくれないに決まってる』
『だいたい竜ってなによ? そんなのありえない』
『わたしだって信じられない…』
『でも…』
『それでも、あれが夢だったはずなんてない………』
少女は首から下げたネックレスをはずした。
細い鎖の真ん中には金で装飾された緑の石のペンダントが通されている。
その石は太陽の光を受けてみずから輝いているように見えた。
少女はしばらくその石を見つめていたが、ゆっくりと目を閉じ両手で優しく包み込んだ。
手のひらにほんのりと温かみを感じた。
そして指の隙間から緑の光があふれ出していることに気がつくまで、時間はいらなかった。
ふたつあった月はひとつに重なり合い、白くくっきりと輝きはじめた。