あれれ?
「おわー!」
声が部屋の壁に反響して、はじめてわたしの出した声が素っ頓狂なものだったと気付く。
寝転んでいた状態から腰だけ浮かせて、威嚇をしている蛇みたいな体勢になりながらページをめくる。
女性同士がまぐわう、その、あれ。あれな描写につい声をあげてしまった。あの日以降、やっぱり気になってもう一度本屋に赴き買った本。『熟れた夜と百合の花』というタイトルが背表紙に書かれている。今思うと名前からそういうヤバさがにじみ出てる。
これは・・・・・・結芽が見たら顔を真っ赤にして逃げ出しそうだ。
でも、こういうことをするのが百合ってやつらしいし、いつかはわたしたちもやらなければいけないこと、なのかな?
「ふむふむ」
読み進めていくと、どんどん過激になっていく一方で、わたしは思わず本を閉じた。
「ちょ、ちょっと休憩」
なんだか今日は暑いみたい。セミでも鳴き出しそうな勢い。
本を投げ出して、横たわる。天井を見上げて額に手を添えるとひんやりとして気持ちがよかった。
さっき見たシーンを、わたしと結芽に置き換えて想像してみる。
ベッドの上、わたしが結芽を後ろから抱きしめて、服の中に手を潜り込ませる。そして潤んだ目でこちらを振り返る結芽の唇を――。
「おうふ」
こりゃだめだ。結芽が多分耐えられない。奇声を発して、触れた途端爆発するんじゃないだろうか。
その様子を頭に浮かべると、自然と笑みがこぼれる。ほんと、ムードというものがない。わたしたちには。
まぁでも、あたふたする結芽は見ていて面白いので、試す価値はありそうだった。学校に着いたら後ろから抱きついてみよう。
今から反応が楽しみだ。照れて椅子から転げ落ちるとかは普通にやってくれそう。結芽もそろそろわたしからのスキンシップに慣れてもいいころだけど、それは本人に頑張ってもらうしかない。
「そろそろいこっかな」
寝っ転がっていた体を起こす。制服にしわがついてしまっている。まぁいいや。
カバンを担いで、部屋を出る。
・・・・・・・・・・・・はて。
なんだか想像の中ではわたしが責め? っていうんだっけ? という立場になってるけど、もしわたしが受け? で結芽が責めになったらどうだろうか。
たとえば、結芽のリミッターが突然外れてわたしに襲いかかってきたとする。
わたしはびっくりして抵抗するけど、結芽が無理やり、力尽くで腕を押さえ込んで。口まで塞がれてしまう。純粋な力だったら結芽には勝てると思うけど、組み伏せられて、き、キスなんてされようものなら、わたしは絶対に敵わない気がした。根拠はわからないけど。
「姉ちゃん弁当忘れてっぞー」
リビングから陽太が顔を出してこちらへ駆けてくる。続けて栞も「ぞー」と手を前に出して付いてきた。
「うわどうしたんだ姉ちゃん、顔赤いぞ」
「えっ?」
自分の顔を触ってみる。確かに熱い。近くに鏡があったので自分の顔を映してみる。
――結芽がいた。
そこには結芽みたいにふにゃふにゃと顔を蕩けさせ頬を上気させたわたしがいた。
「きもちわりー!」
「なんだとこのー!」
「ぎゃー!」
「ぎゃー」
陽太と栞を引っぺがして、リビングへと追い払う。
まったく。
ふぅ、と息をついてもう一度自分の顔を見る。
「いやいや、まさかね」
それはわたしらしくない。照れて、どうしようもなく照れてしまって顔をりんごみたいに赤くするのは、結芽の役目のはずだ。
「うーむ」
声に出して唸ってみる。
わたしは責め、責めだよね? 性格的にも、わたしが受けなんてありえないでしょ。
会ったら聞いてみようか。それとも、こういうのは聞くようなものじゃない?
むむ、わからない。
どうするべきかと頭を悩ませながら靴を履く。
いろいろと試行錯誤を重ねて、ちょっとずつ前に進めば、見えてくるものもあるのだろうか。
それなら、わたし自身が結芽に言ったように焦らずゆっくりやるのがいいのかも?
うーん、もう少し勉強をして答えを見つけた方がいい気がしてきた。学校が終わって帰ってきたらもう一回読み直すことにしよう。
「おろ?」
ポロっと、ブラウスのポケットの中から何かが落ちた。
なんだろうと思い屈んで拾い上げてみる。
「あ」
それは紐のほつれた、なくしたはずのボタンだった。
探しものというのは、案外近くにあるものなのかもしれない。
「よし、待っててよ結芽」
どっちが受けでどっちが責めなのか、そんなのちょっと小突いてやればわかることだ。
誰もいない教室で、突然結芽の唇を奪う。
すると、わたしの頭の中の結芽が顔を真っ赤にして卒倒した。椅子をガチャンガチャンと倒しまくって目を回す。
ククク。
わたしは勝ち誇った笑みを浮かべて、家を出た。
読んでいただきありがとうございます!
『明かりを消して、ごめんと言った』これにて完結となります。
ここまで来れたのもみなさんの温かい応援があったからです!本当にありがとうございました!




