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星座占い

 早起きは三文の得という言葉がある。


 意味は早く起きるといいことがあるよ、というもので語源は中国の「宋樓鑰詩」に記述された「早起三朝當一工」からきているらしい。まぁそんな豆知識はどうでもよくて、この言葉がどれほどの信憑性を持っているかが今の私にとって重要となってくる。


 昨日、私は早起きをした。正確に言うと考え事をしていたため眠りが浅くて日の出と共に目を覚ましてしまったのだけど。


 三文は現在価格で言うと三百円だ。早起きをする労力と得られるメリットが釣り合っているかと言われるとそうでもなくて、故に私は早起きは三文の得という言葉を信用してはいなかった。


 ところがその朝、私の目の前に日菜が現れた。毎日悩みに悩んで私の眠りを妨げる、その原因となる彼女が玄関に立っていたのだ。


 あまりにも驚いてしまったため口に含んでいた歯磨き粉が喉を通って悶えた覚えがある。


 しかもそればかりではない、なんと私はそのあと日菜と一緒に登校し、電車に乗り、手を繋ぎ、頭を撫でてもらえたのだ。あれは本当に幸せだった。思い出すだけでふにゃりと表情が融解してしまう。


 三文どころではない、私からしてみれば5億円くらいの価値がある朝だった。早起きすると、なんだかんだでいいことが舞い降りるらしい。


 そんなわけで今日も私は早起きをして何かが起きないかと期待をしていた。とはいっても二日続けて日菜が来るなんてサプライズは高望みしすぎだと自分でも分かっていたから、今日に限っては三文程度の得でもいいかと寛容な心を持って誰もいないこたつ部屋で暖を取っている。


 ふとテレビを見ると知らないお天気キャスターが今週の予報をざっくりと説明したところだった。やがて画面がスタジオに切り替わると、とんがり帽子を被った魔女みたいなおばさんが映った。どうやら有名な占い師らしい。ゲストとして紹介されると星座ごとの今日の運勢が画面に映し出された。


 私は占いもそこまで信じではいない。だけど、三文の得の効力がまだあるはずだからいつもよりは真剣に見てみることにしてみた。


 1位はかに座だった。かに座の人って何月産まれだっけ? 周りにいないから全然分からない。日菜はそういえば何座なんだろう・・・・・・なんとなくおひつじ座っぽかった。


 ちなみに私はさそり座なんだけど、7位まできても出てこなかったのでそこそこに悪い運勢らしい。


『最下位は、ごめんなさいおひつじ座の方です。調子が出にくく、周りの人に振り回され多忙な日になりそうです。ラッキーアイテムは黄色いタオルです。それでは今日も元気に頑張りましょう』


 結果からいうとさそり座は11位だった。最下位はラッキーアイテムを教えてもらっているので、実質的に1番運が悪いのではないだろうか。


『勘違いのせいで衝突するかも。まずは落ち着いて気持ちの整理を』


 さそり座の人の朝を憂鬱にする言葉。占いなんて、ばからしい。普段なら絶対そう思うであろう私は、こたつに突っ伏して落ち込んでいた。


 というのも、ふと出てきた「勘違い」という言葉に思うところがあったからだ。最近の私は日菜のことで悩んでいる。日菜が私にキスをしたこと。それと好きですなんて告白じみたメッセージを送ってきたこと。昨日だって私の頭をなでなでしてくれた。ふへへ。


 きっと私たちは両思い。そんなことまで考えた。でもそれが勘違いで、勘違いなのに私は勝手に舞い上がって日菜と会う度に変な反応をしてしまっていた。


 勘違いのせいで衝突する。可能性があるとすれば私が暴走して日菜に自分の気持ちを正直に伝えてドン引きさせることだ。日菜は優しいからきっと困ったように笑ってごめんと言うに決まっている。あの子と同じように。考えるだけでも辛い。


 まずは落ち着いて気持ちの整理を。申し訳程度に付け加えられた言葉が、今の私にとってはとても頼もしく感じる。とんがり帽子を被った魔女みたいなおばさん、信じていい?


 全然三文の得にはならない朝だったけど、きっとそうなるように気を張って一日を始めるのが大事なんだと自分で勝手に思い込むことにした。



 学校に着くと、日菜の姿があった。というか、教室に入ったらまず日菜の席を見るというのが癖になってしまっていた。どれだけ好きなんだ。


 そういえばどうして私はこんなにも日菜が好きなんだろうと考えてみる。昔からの付き合いというわけでもないし、一目惚れというわけでもない。命の恩人とかそういうわけでもないし、こればかりは答えが見つかりそうにない。


 気付くと私は日菜の近くまで来ていて、日菜のほうも私に気付いたらしく目が合った。


 心臓が跳ねる。日菜の手、そして唇を交互に見つめてしまう。挨拶をしようにも喉に水分が行き渡らず声が出てこない。あわあわと狼狽してしまう私だが、なんとか息をついて落ち着いた。そう、落ち着こう。今まで通りに接していればいいのだ。


「おはよう、日菜」

「おっはー結芽」

「今日の体育マラソンだって、聞いた?」

「あーうん! 聞いた聞いた! もう最悪だよね」


 喋ってみれば、私は平常心で日菜と接することができていた。多分、体が触れ合うと思い出してしまってダメだけど会話をするだけなら大丈夫らしい。末期状態ではなかった自分に少し安心する。


「ところで日菜、今日のお昼なんだけど」


 購買か食堂か聞こうとしたところ、日菜の異変に気付いた。


「日菜?」

「うえっ!?」


 何度も毛先を弄って、目は泳いでいる。太ももを擦り合わせてせわしなく動くその様子はあまり普通とは言えなかった。具合でも悪いのだろうか。私は覗き込むように日菜の顔を見る。


 すると日菜は弾かれたように仰け反って椅子をガタン! と揺らした。


「び、びっくりした! なになに!?」

「なんか様子がおかしかったから熱でもあるのかと思って。というか、そんなにびっくりすること?」

「あー、うん。それもそっか。あはは」


 1人で納得して頬をかく日菜。だけど目線は合わせてくれなくて、心なしか顔も少し赤い。


 それなら話し込むのも悪いと思い日菜の横を通り過ぎて自分の席に座った。カバンを横のフックに立てかけようとした拍子にこちらへ振り返っていた日菜と再び目が合う。瞬間、日菜の首がグリンと回って黒板の方へ向いて動かなくなった。


 日菜・・・・・・?


 なんだか様子がおかしい日菜。


 まるでテンパっている時の自分を見ているようだった。

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