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第4話『最悪な鉢合わせ』

 放課後。うちに仲のいい友人、康太郎とその彼女、千聖が来ることになった。

 僕もついこの間までなら大歓迎だった。だが、今は違う。


 家には学校内で圧倒的人気を誇る三大美女の一人、通称『女神様』の栞田あかねがいる。

 今いるかは分からないが、今日家に来ることは間違いない。

 連絡先が分からないので、今いるかも聞けない状況である。

 とはいえ、鍵を持っていないから、中には入れないと思う。


「どうした、夏斗。また考え事か?」

「違う、いや、違わないけど。まぁわざわざ康太郎に相談するようなことでもないよ」


 僕は今、康太郎たちと駅へ向かっている。

 面倒くさいらしく、二人は家に帰らず、そのまま僕の家に直行するらしい。


 僕の様子に見兼ねたのか、再び僕の心配をしてくれる康太郎。

 これ以上気を遣ってもらうのもあれなので、作り笑顔で誤魔化した。


「こうくんこうくん。ちさ、アイス食べたい」

「仕方ねぇ、買ってやる。夏斗、コンビニ寄ってもいいか?」

「あ、うん。僕は外で待ってるよ」

「りょーかい。すぐに戻ってくるわ」


 康太郎と千聖はそのままコンビニへと入っていった。

 と、その時、見慣れた髪色をした少女が僕の前を通っていった。


 見間違えるはずがない。雲のように白い長髪。間違いなくあかねさんだ。


「あかねさん!」


 気付けば、僕はあかねさんを呼び止めていた。

 制服姿のあかねさん。これがあかねさんの家政婦としての正装でもあるそうだ。

 だから昨日、日曜だと言うのに制服を着ていたらしい。


「なぁくん?」

「今日も僕の家来るんだよね?」

「そうですね。今からスーパーによって、そのままなぁくんの家に行こうかと」


 周りに知り合いがいないのを確認して、僕はあかねさんに駆け寄った。

 そして耳打ちで言う。ほんのりと甘い匂いが僕の鼻を刺激する。


「えっとね、今日うちに友達が遊びに来るんだけどさ、あかねさんがうちにいるのがバレるとやばいじゃん?」

「はい」

「できれば、友達が帰るまではずっとリビングにいといてほしいんだけど、ダメかな?」

「分かりました。なぁくんがそういうなら」


 偶然出会えてよかった。あかねさんも分かってくれたようだし、これで一先ずは安心だ。

 あかねさんを見送り、僕は康太郎たちを待った。


『ありがとうございやした〜』


 自動ドアが開く音と同時に、店員の声が鮮明に聞こえてきた。

 中から康太郎と千聖が出てきた。


「すまん、待たせたな。ちーのやつがどれにしようかめっちゃ悩んでたせいだ」

「こうくんこそ、なつっちに何買おうか悩んでたじゃん!」


 千聖の容赦ない暴露に、康太郎が苦笑いで頬を搔いた。

 それから康太郎は右手に下げた袋から買ってきたアイスを取り出した。


「ほれ、夏斗の分だ」

「え? いいの?」

「悩み事してるやつの前で、俺たちだけアイスを食べるなんて、こっちから願い下げだ。味はそれでいいか? それともこっちにするか?」

「いや、これでいいよ。ありがと」


 袋にはボリボリ君スペシャルと大きく書かれている。スペシャルと書かれている通り、通常のボリボリ君より倍以上の値段がするやつだ。どうやら、まだ康太郎は僕に気を遣ってくれたようだ。


 二人は優しすぎる。せめて二人の前だけでも気持ちを切り替えないとな。


「んじゃあ、行くか」

「いざ、なつっちの家へ!」


 憂いは先程取り去った。

 テンションの高い千聖に倣い、僕もテンションを上げる。

 そして千聖の掛け声に合わせて、


「「おー!」」


 綺麗に決まった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「お邪魔しまーす! ちさ、なつっちの家初めて来たかも!」

「かもじゃなくて、千聖は初めてだよ。康太郎は何度か僕の家に遊びに来てるけどね」


 靴を雑に脱ぎ捨て、廊下へジャンプする千聖。周りを見渡しながら、呟く。


「なんか静かだね〜」

「まぁ住んでるのは僕しかいないからね」

「ふーん、そっかー。複雑な家庭ってやつだね、ふむふむ」


 雑に置かれた千聖の靴を揃えたあと、康太郎は千聖の頭に手を乗せて、強めな口調で千聖に言った。


「おい、ちー。靴は並べろと何度言えば分かるんだ?」

「ありがと、こうくん!」

「都合のいい笑顔なこった」


 なんで僕は自分の家でバカップルのイチャイチャを見せられているのだろうか。

 そういえば、あかねさんが来るかもしれないから鍵を開けておかないとね。


「早くなつっちの部屋いこー!」


 良かった。部屋のアニメグッズは全てダンボールにしまってある。いくら友人の彼女とはいえ、千聖は女の子だ。

 さすがにあのオタク部屋は見られたくない。

 というか、掃除していたことすら忘れていた。もし片付けていなかったら今頃、


「なつっち、そういう系なんだね……」


 と、言われてドン引きされていたに違いない。

 やはりオタクは脱却するべきだったと改めて思った。異性が昨日までの僕の部屋を見れば、おそらく僕に対する印象は大きく変わっていたはずだ。



 僕の部屋に入るなり、千聖は僕のベッドにダイブした。


「康太郎的にあれはセーフなのか?」

「ちーはふかふかなベッドが好きなんだ」

「あ、そう。ちなみに僕のベッドは康太郎も知ってると思うけど、硬めだよ」


 案の定、千聖はすぐに上半身を上げた。


「こうくん、痛いよぉ」

「よしよし、おいで」

「はい、ゲームをやりましょう!」


 イチャイチャタイムを遮り、僕はテレビの電源をつけた。


「あ、なつっち。ちさ、トイレに行きたいんだけど、ゲームする前にトイレ行ってきてもいいー?」

「あぁ、階段を降りて、廊下の突き当たりを右だよ」


 あかねさんが帰ってきた気配はしない。多分まだ買い物をしているんだと思う。

 トイレに行くならさっさと行ってきてもらおう。鉢合わせでもしたら大変なことになる。


「トイレ行ってくるねー!」


 そう言って、千聖は階段を大きな音を立てて駆け下りた。部屋の扉が開いてるせいで、よく聞こえる。

 間もなくして、トイレの流れる音も聞こえてきた。


 そこまでは順調だった。だが、


「あれ、なぁ……くん?」

「なんであかねっちがなつっちの家にいるのっ!?」


 玄関の扉が開く音が家の中に響いたあと、そんな会話が僕の部屋まで聞こえてきた。


「夏斗、事情を聞いてもいいか?」


 僕が聞こえているということは、もちろん僕の隣に座る康太郎の耳にも届いているわけで。


「終わった……」


 これは完全に自業自得だ。同じ家にいて、バレないと思った僕が馬鹿だった。

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