幕間1『快晴、水族館近くの公園にて』
土曜日。
僕は康太郎と二人で、水族館の近くにある公園へと来ていた。
入る前から公園内の人の多さは窺えた。
今日は三ヶ月に一度のフリーマーケットの日だ。色んな人達が色んな商品を持ち込み、決められた区域で販売する。
僕が持ってきたのはアニメグッズの数々。量にして100サイズのダンボールが三箱。それとは別にフィギュアを詰めた140サイズのダンボールが三箱。
今からこれの準備を始める。準備を含め、販売の30分前に僕達はこの公園に着いた。
「康太郎がいてくれて助かったよ」
「たまたま部活がオフだったからな。それにしても、俺がいなけりゃこの量、お前一人でやってたのか?」
「そうだね。康太郎がいなけりゃ、30分じゃ間に合わなかったよ」
叔母さんは仕事は昼から、あかねさんは用事で十時から手伝いに来てくれる。
ダンボールの山だけ、朝、叔母さんが車を使い、公園の入口まで運んでくれた。
あとはこのダンボールを僕たちの決められた場所へと持っていくだけだ。
さすがに二人いるとはいえ、このダンボールは一気に運べない。
「僕が一箱ずつ持っていくから、康太郎これ見張っててくれない? さすがに目を離すわけにはいかないからさ」
「おう、任せとけ」
ダンボール一箱くらいなら、筋肉のない僕でも持てる。
公園の中を歩く。周りも僕たちと同様に、出店の準備を進めている。
手作りの物や、かなり年季の入った物。さらには食べ物まで並んでいる。
「アニメグッズ売れるのか心配になってきた……」
正直、アニメグッズを買う人なんて結構限られている。
フリーマーケットにそういう人たちが来るのかどうか。それ次第で、グッズが売れるか決まる。
さすがに売り切れるわけはないかな。
売ると決心した以上売れて欲しいと思う一方、思い入れがあるため売れて欲しくないとも思う。
こんな矛盾を自覚して、僕は複雑な気持ちで決められた場所へと向かった。
「ここに置いておけば、取られることはないだろうしね」
心配性なのだろうか。でもやはり、世の中は物騒なので、こういうちょっとしたことでも心配になってしまう。
とはいえ、ほかのダンボールも持ってこないとどうしようもないので、一先ずこの場から離れる。
康太郎のいる場所へ向かう途中、すごくいい匂いがした。クレープ屋さんだ。
それも、水族館の近くのクレープ屋さんって確かネットなどで大人気と言われてるお店じゃないだろうか。
準備が終わったら、康太郎とあとで買いに行くとしよう。
ダンボールを全て運ぶのに要した時間は10分くらいだ。
あとはダンボールを開けて、ブルーシートの上に並べるだけ。
ストラップなどは家でも使っていたコルクボードの上に並べる。
「可愛い……あぁ、レムりん……ごめんよぉ……」
「すごいな、髪が青いぞ」
「康太郎も可愛いと思うよね? ね? 僕はなんて罪深いことを……」
「お前が決めたことなら否定はしないが、そんな大事なものなんだったら売らなければいいんじゃないのか?」
康太郎の正論に僕は無意識に康太郎から目を逸らした。
「もう少しで始まるな。もうちょっとしたら千聖も来るらしい。夏斗は構わないよな?」
「ほんとに? 別に僕は全然いいけど、こんな人の多いところでバカップルを披露するのはやめてね?」
「俺たちをなんだと思ってるんだ」
「バカップル」
僕の即答に、大きくため息を吐いた康太郎。
図星なのか反論はせず、ダンボールを開けてグッズを並べ始めた。
「ちょっ! もっと丁寧に扱ってくれない?」
「あ、あぁすまん」
「セイバーーーーっ!」
康太郎の不器用さ。わざとじゃないのが、尚更タチが悪い。
とはいえ、手伝ってもらっている以上大きな声で責めることもできない。
「ふぅ、終わったな」
準備を終えたのは販売開始時間の5分前だった。見栄えは最高だった。色んなアニメキャラのストラップや、フィギュアの箱の山、全年齢対象のアニメタペストリー、これだけ見るとお祭りの出店みたいに見える。
なんとも言えない雰囲気を醸し出している気がする。周りと見比べてみても、良くも悪くも『浮いている』という言葉が出てくる。
今いる公園(水族館)から学校までは結構距離がある。さすがに同級生がわざわざここまで来るということもないだろう。
なんて。フラグを脳内で立てていることなんて露知らず、雲一つない透き通った青色の空の下、第十五回フリーマーケットは幕を開けた。